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第五章・火の神器レーヴァテイン
各国を巡る旅へ
しおりを挟む翌日、朝も早くから王城に呼ばれたジュードたちは、女王アメリアの口から告げられた言葉に気を引き締めた。
それは――“火の国の使者となって各国への書状を届けてほしい”というもの。
魔族は既にヴェリア大陸の外に現れており、このままバラバラの状態で撃破にあたっていても、いつか崩壊する時が来ると考えてのことだ。そうなる前に各国同士で手を取り合い、協力して魔族を撃退しよう、と。
それに、使者として行くのならば地の国グランヴェルにも問題なく入国できるはずだ。どのようにして地の国に行くか、アメリアなりに考えてくれたのだろう。いくら鎖国中とは言え、一国の王である女王の使者を一方的に断ることはできない。使者として赴けば、カミラがヴェリア大陸に戻るための書状も全て揃うことになる。
そこまで考えて、ジュードたちは深く頭を下げた。
「ありがとうございます、女王様」
「礼を言うのはこちらの方だ、きみたちには本当に世話になりっぱなしで……どう感謝を伝えればよいのか、言葉も見つからない。また大変な役目を押しつけてしまうが……どうか、よろしく頼む」
「念のため、光の魔力を込めた武器をいくつか置いていきます。もし魔族が襲撃してくることがあれば、お役立てください」
ジュードがこの国を離れてあちこち移動する以上、この都そのものが魔族の標的になるとはあまり考えられないが、その可能性がまったくないとは言えない。文字通り念のためを考えてウィルがそう告げると、女王もメンフィスも穏やかに笑って頷いた。
「今回、きみたちにはメンフィスではなくシルヴァが同行する。大丈夫だとは思っているが、くれぐれも気をつけて」
「シルヴァさんが?」
「うむ。こう言っては何だが、子供たちだけで行かせては使者として見られぬだろうからな。ワシも同行したいどころだが、都と前線基地の防衛にあたらねばならん」
ちらと謁見の間の後方を振り返ると、出入口近くに控えるシルヴァがいた。彼女の実力は先日の誘拐騒動の際に見て知っている、まったく申し分ない、非常に心強い助っ人だ。
前線基地では、クリフ率いる防衛部隊が魔法武具を駆使しながら今も奮闘しているのだろう。今のジュードたちにできることは、国々を纏めるために各国へ書状を届けることだ。
それに、残りの神器は他の国の神殿にあるはず。魔族に狙われている以上、この国に居づらいだろうジュードへの配慮もあるのだろうが、きっと女王は神器のことも考えている。魔法武具を補充できなくなるのは心許ないが、それ以上に強力な神器を持ち帰れば、そんな不安もすぐに吹き飛ぶはずだ。
明日からは、各国を巡る旅に出ることになる。不安は山積みだが、やり遂げなければ。
誰も口に出すことはしなかったが、確かにそう思った。
* * *
明日からの旅のことを考えて早めに眠りについたジュードはその夜、約二日ぶりに再びあの白の宮殿を訪れることができた。この二日、立て続けにこの場を訪れることができなかった彼にしてみれば実に嬉しいことだ。少しでも強くならなければと思っているのに、二日も怠けてしまったのだから。
いつものように中庭に続く扉を押し開けると、その先にはこれまでと変わらず彼が――ジェントがいた。四季の花々を眺めてのんびり過ごす様からは、戦闘時のあの驚異的な強さと威圧感のようなものはまったく感じられない。ジュードの来訪に気付いたジェントは座っていた地面から立ち上がると、身体ごとそちらに向き直った。
『ジェントさん……! ああよかった、二日続けてここに来れなかったから、もしかしたらもう来れないんじゃないかと……』
ジュードが慌てたように正面まで歩み寄ると、当のジェントはいつものように腰裏から剣を鞘ごと取り外して地面に何かを描き始めた。大きめの四角の中に縦横の線がいくつか引かれる。それは暦のようだった。バツ印がふたつ並んで刻まれたところで、ジュードはちらと視線を上げてジェントの様子を窺う。
『……もしかして、二日間ここに来れなかったのは……わざと?』
頭に浮かんだその可能性を口にすれば、ジェントは考えるような間もなく静かに頷いた。
“――戦士には休息も必要だ”
続けて、地面にそう刻まれるのを見れば「どうして」とも言えない。ジュードは焦りを感じていたが、それは全てそのジュードの身体を心配してのことだったのだろう。いくら夢の中とは言え、ずっと戦い通しでは完全に疲労が抜けてくれないのでは、と考えて。
やはりこの人は、この夢はただの夢などではない。ちゃんと意思を持った特別なものだ。彼が誰であって、何者なのか気にはなるが、ジュードにとってはそれほど重要ではない。わざわざ身体の疲労まで考えてくれる相手が、敵であるはずがないのだから。
『……明日から色々な国に行くために旅をすることになったんです、道中で魔族が襲ってくるかもしれない。今日から、また鍛えてくれますか?』
ジュードがそう言葉をかけると、ジェントは躊躇うようなこともなく改めて頷いた。
――マナが神器の所有者として選ばれた以上、彼女は今後も魔族との戦いに関わっていくことになる。マナのあの性格からして、決して逃げ出したりはしないはずだ。それなら、ルルーナとリンファはともかく、ジュードとウィルは必然的に関わっていくことになる。それにカミラも。
神器を持っていない以上、今のジュードが頼れるのは自らの血がなせる交信だけ。そして、その能力を最大限に活かすには、やはり自分がもっともっと強くなるしかないのだ。
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