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第五章・火の神器レーヴァテイン

先代の所有者

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 女王アメリアとの謁見を終えて屋敷に戻ったジュードは、ライオットと共にその内容を仲間たちに話すことにした。時刻は既に夕刻、橙色の太陽が今日も山の向こうへと沈んでいく。


「神器?」


 追放されなかったこと、これからも協力を頼まれたこと、そして魔族と戦うために必要になる神器のこと。その中で彼らが真っ先に反応を見せたのは、やはり耳慣れない“神器”というもののことだった。ウィルは考えるように視線を中空に投げながら、ぽんと軽く手を叩き合わせる。


「神器って……あれか、伝説の勇者様と一緒に戦った仲間が使ったっていう……」
「えっ、そんな話あったっけ?」
「お前がよく見るおとぎ話には書かれてないよ、あれはほとんど子供向けなんだから。神器のことが記されてるのは魔法学の本だとか歴史書だ。お前嫌いだろ、勉強」
「うっ……」


 どうやらジュードが知らなかっただけで、多少は神器に関する話も書物の中で出回っているようだ。ライオットは仲間が食事をするテーブルの上に座り、そっと安堵らしき吐息をひとつ。


「話が通じそうなのがいて助かるに、マスターがここまでダメダメだとは思わなかったによ……」
「悪かったな……」
「でも、私もあまり聞いたことないわねぇ。そもそも、魔大戦って本当にあったことなの? 神器が伝説の勇者の仲間が使ったものなら、それを知ってるアンタは……勇者一行と面識があった、……ってこと?」


 ルルーナのその言葉に、ジュードたちの視線は一斉にライオットに集まった。彼女の言うようにライオットの言葉が全て本当のことなら、確かにそうなる。すると、ライオットはミニキャロットをショリショリと食べながら至極当然のことのように頷いてみせた。


「当然だに、ライオットは勇者にも姫巫女にも、その仲間にも会ったことがあるによ。一緒に戦った仲間だに」
「……ものすごく胡散臭いんだけど」
「し、失礼だに! 本当だに!」
「そう言われても、ね……」


 ルルーナもマナも、互いに困ったように顔を見合わせる。確かに、伝説となっている者に実際に会ったことがあるなどと言葉で言われてそうそう信じられるものではないのだが。

 けれど、その一方でジュードやカミラは何やら目を輝かせてライオットを見つめている。ウィルは対照的な彼らの反応に内心でため息を洩らし、リンファは相変わらず無表情のままライオットの話に耳を傾けていた。


「それで、神器ってのはどこにあるんだ?」
「この世界の東西南北には、精霊たちが住まう神殿があるに。そこにあるによ」
「それが、その……もし神器を取りに行くなら、オレも行かなきゃ駄目らしいんだ」
「ジュードが? どうして?」


 それは、ライオットが謁見の間でアメリアやメンフィスに神器の所在を尋ねられた時のこと。

 神器は、この世界の東西南北にある神殿に眠っている。けれど、神殿は精霊族の血を持つ者にしか、その扉を開くことはない。精霊族は北国の森の奥深くに住んでいるが、表に出てこない彼らに協力を頼むのは時間がかかる上に困難を極める。しかし、ジュードがいればその問題は難なくクリアできるのだ。

 難しい話が得意ではないジュードは途中から話半分だったが、そこまで思い返して困ったように力なく頭を振った。


「女王様はグランヴェルに行く手筈も色々と整えてくれてるみたいなんだけど、ライオットの話だと火の神殿はここから遥か南でさ。グランヴェルとはほぼ真逆なんだよなぁ……」


 地の国グランヴェルは、この王都ガルディオンの北東に位置している。火の神殿が遥か南にあるなら、ジュードの言うようにほぼ真逆のようなものだ。それに、地の国グランヴェルは五国の中で一番領土が広く、街から街への距離も非常に長いため移動にひどく時間がかかるのが特徴だった。
 すると、カミラは慌てたように頭を横に振る。


「あ、あの、わたしの用事はあとでいいよ。早く大陸に戻ってヴェリアの民を説得しないととは思うけど、魔族と戦うために神器が必要ならそっちも大事なことだもの」
「でも……本当にいいの?」
「うん、いいの。あとでパールに魔法を込めるね、その神器っていうものを使える人が見つかるまでの繋ぎになるといいんだけど……」


 ジュードに諭され仲間に勇気を出して歩み寄ったお陰か、カミラの心も随分と落ち着いたようだった。これまでの焦りは既にそれほど見受けられず、自分から協力を申し出るくらいには余裕が出てきたらしい。


「じゃあ、まずは神器が先? きっと騎士団が部隊を編成して行くのよね、メンフィスさんやシルヴァさんも一緒なのかな。それなら安心してジュードのこと任せられるんだけど……」
「そうですね、魔族の狙いがジュード様なら、いつまた襲ってくるかわかりませんし……」


 魔族との戦いを左右するような貴重なものを取りに行くのだ、恐らくは騎士団の精鋭部隊が用意されるのだろう。ジュードが共に行く必要はあっても、その仲間まで一緒に行けるとは限らない。できることなら同行したいというのが本音だが、ウィルたちの中には不安ばかりが募った。


「それにしても、神器かぁ……モチは先代の所有者も知ってるんだよな。使い手を選ぶってくらいだから参考までに聞きたいんだけど、この火の国にある神器はどういう人が使ってたんだ?」
「そうね、どういう人が選ばれるのか気にはなるわよね」
「マスターのせいですっかりモチって呼ばれるようになったに……」


 ライオットはすっかり定着してしまったあだ名に否定や訂正をするだけの元気もなく、深い深いため息をひとつ。しかし、それ以上の文句を口にすることはせず、ミニキャロットを食べ終えて膨れた腹を軽く擦りながら改めて口を開いた。


「火の神器の前の所有者は、グラナータっていうおかしな男だったによ。けど、すごく頭がよくて面白いやつだったに」


 ライオットのその言葉に、ジュードやウィルはもちろんのこと、その場にいた全員が固まった。
 ――この世界に生きる者たちで、グラナータの名を知らない者はいない。
 同時に、稀代の天才博士と謳われる彼ほどの者でなければ、神器の所有者として認められることはないのだと――彼らにそう思わせるには、充分すぎる情報だった。

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