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しおりを挟む「おう、元気に……は、してないか」
獣耳をぴょこんと立てて訪ねてきたドワーフ娘に、俺は気怠げな吐息を吐いたあと、そんなことはないと笑みを作って、ひりつく舌で言葉を紡ぐ。
「そっちはもう、だいじょうぶなんですか」
あれから季節は2つほど進んだが、レノワとオギト、二人で一人の冒険者となった彼女らとは、あの冒険を通して少なからず縁ができたようで、今でもこうしてたまに顔を合わせる。
「おかげさまでな」
結局、紛失の話は本当で、どれだけ探しても入れ替わりの指輪は見つからなかった。
捜索依頼は出し続けているが、望みは薄く、諦観が募る日々を過ごしている。
「ついこの間、B級に昇格したよ」
未だに杖と首輪無しでは歩くこともままならないこちらと違って、彼女らの身体の予後は良好だ。
能力的には以前よりずっと向上しているらしいので、むしろ元気といえよう。
「それは……おめでとう、ございます」
「はは、ありがとな。それで、祝いの席があるんだが、来れるか?」
「ええ、まあ、少しなら、たぶん」
彼女ら曰く、「後遺症は引きずっている」とのことだが、まったくそうは見えない。
表情も明るく、どことなく幸せそうだ。心底羨ましい。
と、目線か表情に現れてしまっていたか、獣耳の生えたドワーフ娘の顔は仏頂面に切り替わり、「最近はどう?」と尋ねてくる。
どう、というのは、あのクソエルフもとい、リウカも含めての話だろう。
彼女については、あれから住まいを共にして、俺の身体でせっせと働いてもらっている。名前と力は、そのままで。
“……そういや、死んだら、どうなるんだろうな。はは、戻ったり、すんのかな”
契約不履行確定後なら、問題なく自傷できる。
だから、このまま苦しむならと賭けに出ることも考えていたのだが。
“そ、それはわからんが、まて! はやまるな! はやまらないでくれ!”
“お、もどらないって、きまってるわけじゃないのか……じゃあ”
“わ、わるいわるかった! 償う! おまえの一生分償うから! だから頼む!”
三日三晩、命乞いされた声は今も頭のなかで響いている。我ながら甘いというか、なんというか。
まあ指輪の紛失を考慮しなかった俺も悪かったし、よしんば戻れたとしても、恐らく今の呪いに蝕まれた俺の身体は、俺ではまともに動かせないだろう。
諦めて賠償と解決方法の模索に契約を更新したのは、間違いではなかったと思いたい。
「はぁ」
ちなみに一応、罪悪感は強くあるようで。以来彼女は日々を真面目に過ごしている。
ただ、相変わらず難儀な人物性は健在なので、共に暮らしていると気苦労は絶えない。偉そうな振る舞いは抜けきらないし、よく物を無くすし、よく壊す。よく泣き、よく怒る。
差別的な発言はしなくなって、煩わしさのベクトルはだいぶ変化した。少しずつマシにはなっている。しかし、根っこの部分はあまり期待しすぎてはいけないかもしれない。
「ああ、うん、まあ、ぼちぼち」
ため息ひとつ挟んで、たっぷり考えた末に、煮え切らない返事をした。
「そっか」
レノワオギトは眉をハの字にして嘆息した。
「助けがほしかったらいつでも言って、チカラになるから」
「はい、ぜひまた」
「ん」
感慨も一入に、軽く挨拶して彼女らを見送った。
ふーっと身体の熱を吐く。今日は調子が良さそうだ。
俺は杖をつきながら、薪を取ってくるついでに、腰のひけたおぼつかない足取りで散歩に出かけることにした。
“ひとりで外出するな!”
彼女にはそう言われているが、歩いて気を紛らわせていないと、それこそおかしくなってしまうのでそうはいかない。
貞操を心配してのことだろうが、なんのために郊外に家を構えたと思っているのか。
人が多過ぎもせず少な過ぎもしない、治安のいい場所を選んだのだ。近所を少し歩くくらいは咎めないでほしい。
「ふーー……ふーー……」
雲一つない寒空へ、白く湿った熱い吐息が昇っていく。
一歩進むのも一苦労だ。身体は少しの距離歩いただけですでに全力で長い距離を走った後以上に火照り、大量に発汗している。
寒くない。熱っぽい肌を、乾燥した冷たい風が撫でた。
心地いい。そう、普通に心地いい。それだけなはずなのに。それだけであってほしいのに。
「っ、ぅ」
ぞくぞくぞくぞく。寒さじゃない。煩わしい震えが込み上げて、歩みの邪魔をする。
不意に擦れた胸の先が冷たい。熱い肌とのコントラストで、張り痼った部分が浮き彫りになって主張する。
息が詰まり、「ふっ、うっ」と漏れた。胸が締め付けられる。
ああ、くそう。寒いとまた勝手が違う。
感覚は首輪で相当にカットされているにも関わらず、これだ。慣れてきたと思っていたけれど、過信しすぎたか。
一歩、前に出した脚の内股がぬるつく。へその下がひりついて、その奥で、いつもの強烈な疼きと痙縮が生じる。
苦悶に口を開き、痺れた舌を放り出しそうになった。頭の中にピンク色のモヤがかかり、過去に経験した最奥への摩擦を反芻してしまう。
「くうっ」と顔を顰めて、笑う膝に手をつく。崩れ落ちてしまいそうになるも、なんとか堪えた。しかし、
「大丈夫かえ?」
かけられた女性の声で心臓が跳ね、腰砕けになってしまった。
倒れる。刹那、「おっと」と支えられ、抱えられた。
「随分と、しんどそうじゃが」
相手の方が体格が小さいのもあって、非常に格好が悪い。必死に取り繕い、「いえ」と顔を上げる。
すると、ちょうど小柄なエルフの少女と目線が合った。
そしてその少女の白銀の髪と、真紅の瞳を見てぎょっとする。
彼女は、かの焼き鉄の────
「だ、だいじょうぶ、です」
「そんなことはないじゃろう。ほれ、一回こっち座れ」
見た目と合わない老獪な口調に促されるまま、路肩の縁石に座らされ、鎮静の魔法をかけられる。
さすがA級といったところか。たちまち効果が出てきて、体感はかなりマシになった。
「ありがとう、ございます」
「ん、いいんじゃよ。このくらい、ヌシにかけている迷惑を考えれば安いもんじゃ」
「ん……?」
一応、彼女はあのダンジョンでのドタバタ劇に関わった人物だ。同じエルフでもある。
事情を知っていて、同族意識からそういった発言になってもおかしくは、ないのかもしれない。
だが、ニュアンスとして主語がないのはどうなんだ。
「あの、迷惑って」
引っ掛かりを感じて首を傾げ、疑問を投げかけようとした。しかしながらその前に、「ではの、あやつを頼んだぞ」と彼女は言って、風の如く去ってしまった。
「…………」
あまりに一瞬の邂逅。
取り残された俺は、実にいやな想像をした。
「まさか、な」
と、そこで「こんらあああああああああああああ!」と怒号が近づいてくる。
「あ」
暴風を纏って滑走する、今はもう俺ではない俺。アル・ケールオヒトもとい、リウカだ。
「あ、ではないわ! 貴様なんでここにいる!」
彼女は男である俺の声帯をひたすら甲高く酷使して、キャンキャンぷりぷり怒る。
ただでさえ童顔で輪郭が丸く、頭身の低い小柄な容姿だ。こうしていると本当に幼く見える。
長命種らしく老成しているときがあるかと思えば、こうやって急に子供臭くなるときがある。彼女らしさだが、正直俺の姿ではやめてほしい。
「なんでは、こっちのセリフだよ……シゴトはどうした、シゴトは」
「朝言ってたのはとっくに片付いたわ、今は次の依頼を受けにいくところだ」
「おー、そりゃ、えらいな」
これで仕事の評判が悪かったら色々と文句が言えるんだが、いかんせん彼女は能力は高い。
態度とかの問題が出る前に、大半の仕事は済んでしまう。たまにするとんでもないヘマも、ギルド側のバックアップで何とかなっている現状、早く上手く達成できる彼女の評判は非常に良好だ。
俺が差し止めない限り、A級昇格は確実である。
「で? こちらの質問には答えないのか? ええ?」
稼ぎは順調。療養費込みでもプラスで、前より羽振りがいいくらいだ。
いいことだ。上手くいっているなら、悪くはない。
「さんぽだよさんぽ、それくらい、いいだろ少しはさ」
「よくないわたわけ! はー、これだから貴様は」
しかし、もやもやする。
「ひとりの身体ではないんだぞ、何かあってからでは遅いのだ、外を歩きたいならまず私に言え」
「誤解されるような、いいかたすんなっ……てか、そもそもなんでっ、いちいちおまえに……お伺いを立てなくちゃいけないんだよ」
「それはだな……むっ、貴様」
俺は、俺じゃないほうがいいってのかよ。
非力でも必死に頑張ってきた俺より、力ばっかりあって拙いリウカのほうが喜ばれるなんて。認められないし、認めたくない。
「償うって、そう言ってた立場だぞ、それが、なんでっ」
「おい」
腹の奥底が沸る。脈打つ。
頭までその熱が昇って、目頭が痛む。
視界は滲んで、熱は溢れ、目尻から頬を伝い落ち────
「ああもうっ!」
突然、彼女は俺を担いだ。
身長差は物ともされない。身体は風に包み込まれて、ただ運ばれていく。
「う、おま、なにを」
「気づかんのか? ────ああ、鎮静魔法のおかげだな。いや、でも、それにしたってニオイでわかるものだろう?」
呆れたようにそう言われた。
なんのことかと、ぐずついた鼻でよくよく嗅いで、うっとたじろいだ。
とても、血生臭かった。
「まったく、世話の焼ける」
優しい声掛けと共に、柔らかなタオルの感触が身体中の水気を吸い取っていく。
その感覚が、自分にはいたことのない母親や姉を想起させる。
「落ち着いたか?」
本当は落ち着いていない。しかしぐすりと鼻をすすってから、「ああ」と強がってみせる。
「……ふん」
彼女は鼻で笑って、「ならあとは自分で拭け」と立ち上がり、すぐ戻ると言って去っていった。
扱いを心得た感じで、本当に何から何まで無駄に優しかった。
元々自分の身体なのだから、当たり前といえば当たり前。そう思えば特別視する必要なんてない。元々の差別的な彼女を考えれば、信じるほうがおろかしい。
しかし、それでも今は優しさが妙に染みて感傷を呼ぶ。心に波が立つ。
初めてで動揺、しているんだろうか。
血なんて散々見ているのに、出方が違うだけでこうもしんどくなるなんて思わなかったから、想像以上にショックを受けている自分に驚いている。
「はぁ、あぁ」
顔を伏せ、枕に埋める。
理解すると、ショックを受けていること自体もまたショックで、殊更に落ち込んだ。
気分からか全身が重だるくなって、下腹部がズクズクと脈打つ。淫紋との板挟みで、快感と不快感が一緒に増して苦しい。
これが定期的にくると思うと、死にたくなってくる。淫紋に苛まれるだけでなく、こんな気分まで味わうことになるなんて冗談じゃない。
「ううっ、ぐすっ」
一人ベッドの上で丸くなり、涙を流した。
それからどのくらい経ったか、部屋のドアがノックされて、彼女が戻ってくる。
「んなっ、背中でも冷やすとよくないんだぞ、ったく」
指摘されて初めて、俺は背中の素肌を晒していたことに気づいた。
不思議と寒くないし、格好を考える余裕がなかったからだが、厚手の布をかけられるとその安心感に驚く。
「しんどいのはわかるが、丸まってないで、仰向けになれ」
「すんっ、ああ?」
「楽にしてやるから」と言われ、こちらの強張った腕をそっと引かれて促される。
俺はおずおずと従って、布を胸にかけた形で仰向けになった。
「……」
無言の時間。
ちゃぷちゃぷと、静かな部屋の中で音がたつ。何か水のようなものが入った桶がかき混ぜられているようだ。
「エルフの月経周期は、貴様ら只人よりずっと長く、そのぶん深い」
彼女は俺の股下のほうに別の布を敷くと、徐に口を開いた。
「だから、来たときは大体、ちょっとした処置をするのだ。耐え難いからな」
「……どんな処置だよ」
尋ねたが、説明が面倒らしい。「心配するな、ほれ、いくぞ」とだけ言って、彼女は濡れた手をこちらの下腹部、薄暗いなかゆっくりと妖しく灯る、へそ下の淫紋あたりに当てて、ささやくように何かの魔法を詠唱した。
すると、濡れた手は淡く優しい色合いの緑光を放ち、じんわりとした温もりが下腹部に染み入り始める。
「ふあっ」
腑抜けてしまった。内臓の内側を撫で回されながら揺すられているような、それでいてなかの血なんかをかき混ぜられているような、そんな感覚だ。
「少しこそばゆいだろうが、我慢しろ」
「あっ、ふっ」
絶対に、感じ方として間違っている。
そうわかっていながら、身体はほどなくその感覚を官能としてつぶさに拾い始めた。
「おっ、こ、れぇっ」と声を絞り出し、身悶えする。
「ちょっ、動くな」
上手くいかないのか、顔を顰めながら首を傾げた彼女は軽い拘束魔法を唱えた。
両腕両脚がベッドに縛り付けられ、急に訪れた圧迫に「ぇうっ」と声が跳ねる。
「自分で自分にやるより、難しいな」
ぐーっと、下っ腹の奥底から、快感のぬるま湯へと引き摺り込まれていく。
「う、ぅお」と浅く息を吐き、目を細め、悶える脚をぴんと伸ばし、つま先を反らせる。閉じようと力を込めた内股は、閉じられないまま噴き出す汁気を感じた。
「わっ、ちがう、それが出てほしいわけではないっ」
「お、ぅ、も、いぃ、っ、いいっ、てぇ」
苦し紛れに、もう十分だからやめろと頼んだ。
しかしながら彼女は真剣な表情で集中しており、力の抜けた声では届きそうにない。
「んっ、おぉっ」
腰の奥まで暖かくなって、深く深く痺れる。
睡魔にも似た感覚で、瞼が重くなった。
直後、「お゛っ」と苦悶の声が漏れるほど急激に腹筋が痙縮を繰り返し、快感が弾けてスパークする。
「ぉ、おぉーー~~~~」
身動きが取れず、暴れる熱の逃げ場がない。情けなく悶えた。
切なさで身体の奥の方が締め付けられ、視界が白黒する。
が、まだだ。
「まだだ、あともうちょっと……」
意地の悪い宣告に、俺は目に涙を浮かべて、熱くなってぼーっとしていく頭を必死に横に振る。
「ええいがまんしろ! 終わったら、楽になるからっ」
「っ゛ーー~~~~────」
腹の底で暴れる快感に、終わりはない。
絶頂感を重ねてもまったく解放される感覚はなく、最早永遠にも思えた。
しかしながら、あるところで突然、割れ目の奥底からどろっとしたものが噴き出すと、徐々に下腹部が軽くなっていく。
「ぉ、っ?」
「よし」
よし、と繰り返したあと、「よし出た」とリウカは表情を晴らして額を拭った。
拘束は解かれて、脱力した手脚がベッドに沈む。
股下のほうに敷かれた布が、手際よく片付けられていく。
「内膜を更新できたから、これでもう大丈夫だ」
彼女の言う通り、じっとりした重怠さが消え失せた。からりと乾いて爽快だ。
けれど、まったく大丈夫ではない。
「あとは安静にして」
気休めを口にして去ろうとするその裾を、きゅっと掴んだ。
「……なんだ」
もう片方の手で胸に掛けられていたタオルを下腹部に追いやって強く強く抑えながら、唇を甘噛む。
どうしてか、乾いた腹奥が渇くのだ。先ほど重い絶頂感に打ちのめされたにも関わらず、悶えることもままならないほどに、今すぐ気持ちよくなりたいと切望している。
納得いかない。
「ぁ」
酷く甘え媚びたものが出てしまいそうで、必死に閉じていた口を開くと、やはり。
「ぁにが、らいじょうぶ、らぁ」
媚びた女の、甘えた艶声が絞り出されてしまった。
「はぁっ、はらのおくっ、かるくなったけどっ……こんなのっ、こんなのぉ」
尊厳を投げ売ったかのような、甘ったるい恨み言。唾棄すべきそれは、幸いにも続かなかった。
はぁ、と嘆息ひとつ吐かれたあとに、唇は塞がれて、押し倒される。
歯と歯が当たる前に、口内に舌が滑り込む。爛れた舌べらが絡め取られて、優しく舐り転がされる。
「んっ、ふ、っ、んーー~~~~」
納得がいかない。優しくされると無性に腹がたつ。
なんで慰められなきゃならないんだ。こいつに、なんで。
苛立ちのままに身体を強張らせ、脚を突き立てて抵抗を試みた。が、その都度起こりを快感で潰される。くちゅ、れろ、れろ。上の歯の歯茎の裏から上顎まで、舌先で撫ぜられたり、舌を引き出されてしゃぶられたりすると、視界が白んで意志が飛ぶ。
「はふっ、やぇろっ、っ、んんんっ」
虚しくも切なく、反抗の言葉は溺れた。脚は悶えることを選び、情けなく内股を擦り合わすばかりで役にたたない。身体を逸らす力も、抵抗のためじゃなく単なる身悶えに費やされてしまう。
イク、キスだけでイカされる。イクなんて表現、脳裏に浮かべたくもないのに、どうしようもなくそれ以外の表現が見当たらない。衝撃が脳天まで走って、浮遊させられる。
「んんん゛! っ、ぷぁっ、ふぁああぁ」
限界を計ったかのように舌べらが解放された。
痺れた脳味噌へ酸素と共に閃光が送り込まれ、鈍く弾ける。
「ああぁっ、っ、ぁーー、ぁーー~~……!」
震えたり、詰まったり、情けない声があてもなく響く。止めようとしても、口元が弛緩して閉じられない。だらしなく呼吸に合わせて喘いでしまう。
「はぁ、はー、大丈夫だと言っただろう、わからんのか?」
最中、意識させられる。
淫紋のある場所。へその下を圧っする、硬くて大きな、熱い灼熱。脈打つ肉棒の感触を。
「それともわざとか? 腹いせに私を揶揄っているのか?」
不意打ちで長い耳元に囁かれ、その耳の溝に沿って舌を這わされた。頭に近いところからぞわぞわとこそばゆさが駆け巡り、身体は強張って「ううっ」と声を詰まらせる。
やっぱり、追い込み方を熟知していて容赦がない。音をしっかりと意識させてから、すっと敏感な奥のほうへと滑り込んでくる。
雷に打たれたみたいな衝撃が走って、「はうっ」とおぼこい声を漏らしてしまった。股の間に深々と存在する女の溝は締まって、しとどに汁が溢れだす。
「だとしたら成功だ。まったく、複雑な気分だ。頭が変になりそうだ」
「うっ、そんなんらっ、そんなんじゃ、なぃっ」
この上なく腹は立っている。けれど、そういうつもりじゃない。
そう主張しようとした。けれどもう、説得力は皆無だ。身体はもう、逸物無しでは鎮まらないと言っている。縋るように大きくて硬い存在感へ腰を向かわせ、くねり悶えてしまっている。
「……はぁ」
リウカは耳責めをやめると、たっぷり息を吸って嘆息した。
そして頭を上げ、こちらと顔を突き合わせると、なぜか眉をハの字に、瞳には憂いを湛えながら、口の先をバツが悪そうに尖らせて、静かに語りかけてくる。
「私は、エルフ以外の人種を軽んじていた。特に只人は、下等で穢らわしいと軽蔑すらしていた」
それは、ダンジョンを出てからずっと、何度も何度も、彼女が言おうとして詰まらせていた言葉だった。
「だが、貴様の身体になって、共に窮地を超え、少し見方が変わった。只人には只人の考え方があって、尊敬すべきところもあるのだと」
お互いの瞳にお互いの姿が映り、揺れ動く。
互いに相手が自分の身体だという意識が希薄になる。
微かに腰と腰がくねり合い、吐息と鼓動が重なっていく。
「貴様……アル、私は」
「やえろ……!」
わけがわからなくなって、俺は感情を決壊させた。
「ごまかされないぞっ……ふぐっ、うううぅ」
切なさが振り切れて、涙が溢れる。
「こんなタイミングでっ、また……どうせ、あげておとすつもりだろっ? “そんけいできるところもあるとおもってたが、今のザマはなんだ? やはり、しょせんはただびとか”って。わかってるんだからなっ?」
「…………」
切羽詰まると、人は本性を表すものだ。
俺は臆病だ。だから、怖くなってしまったのだ。
「ぜったいっ、ぜったいゆるさねえからなっ、おれはっ」
彼女は許せない。絶対に受け入れられない。
しかしもう、どれだけ感情的な理由があっても、彼女なしでは俺は生きていけない。
その事実が恐ろしくて、堪らなかった。
「ああもう!」
ごつん。少々勢いよく額が合わされ、鈍めの音が響いた。
「責任は取る! 契約しただろう? 只人の一生分などわけはない、わたしの名に賭けて絶対幸せにしてやるから、そんな顔で泣くな!」
興奮し切った、荒い吐息。血走った眼の奥に、混沌とした焔が光る。
下腹部に触れる、脈打つ感触はもう爆発しそうだ。
「そういうっ、っ、ところだよっ……うううぅ」
「生憎私は諦めが悪いんだ、貴様が許すと言ってくれるまで、延々と」
俺はリウカを抱き寄せて、自分の唇で彼女の口を塞いだ。
姿形は自分の姿なのに。愛憎をないまぜにして、ただ唇をはむだけの、彼女より圧倒的に下手くそなキスをした。
「……はぁ」
すぐに離れてひとつ息をつき、真っ直ぐ見つめて言ってやる。
「ぜったい、ゆるさない」
許すもんか。一生、俺の身体が老いて死んでも、死んだあと俺自身がどうなったとしても、絶対に。
「それでいい」
情炎は盛り、猛り狂う。
2人の凹凸は深く深く嵌りこみ、蕩かされ。
もう、離れはしなかった。
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