只人♂はアレなダンジョンで助けようとしたポンコツクソエルフ♀に身体を入れ替えられてしまった!

あかん子をセッ法

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 「……はぁ、やはり、飲むと少し、舌の調子も元に戻るな」
 「でも、変な気分……カラダ、アツい……」
 「媚毒が含まれてるのかもね……っ」

 尊厳を犠牲に、復調したドワーフの女。

 「ふーー……ふーー……」
 「お前、本当に、大丈夫なのか」

 消耗著しい、只人の男。それに背負われる、満身創痍のエルフの女。

 「うっ……!」
 「……?」
 「っ、心配は、無用だ……」

 各々ヒトとして大事な何かを捨てながらも、戦って、生き残り、進み続ける。

 「今のうちに、飲んでおけ……!」
 「う、感謝する……ゔぇっ」

 絶え間のなかった、気の遠くなるような責苦。
 それが、あるとき、ついに。

 「あ……ああぁ!」
 「うう、今度は何だ?」
 「やっとだ、やっと」

 やっと、安置を見つけた……!

 安地。セーフゾーン。
 普通のダンジョンであれば、最下層であっても、構造を維持するために必ず幾つかは存在するものだ。
 それが、今までどれだけ探しても本当に見つかっていなかった。

 もう無いのではないかと思っていたところだ。いざ見つけても、しばらく幻ではないかと疑心暗鬼になっていた。

 だが、実在した。
 床にも壁にも、今までてんこ盛りだった触手罠の様なものが見当たらず、敵の寄ってこない空間が。

 「ここか……?」
 「はい、そのはず、なんですが」

 一体なぜ、学ばないのか。
 到着してすぐ、期待との差に愕然とした。

 「おい、出入り口が閉まったぞ」

 中央の台座のような場所へ向かって魔術的な紋様が走り、明かりが灯る。
 明らかになるのは、乳白色の床や壁に施された、邪教的装飾の数々。
 人工的に加工されたかのごとく整然としており、仕掛けになっていることは、容易に想像がついた。

 「オギト、あれ、なんて読むんだ」

 レノワが指差した先には、光る文字が浮かんでいた。
 古代文字だ。俺とリウカは読むことができた。

 “よく見て、気をつけて、注ぎ入れよ。形を変えれば、共通点が浮かび上がる。見いだし、台座の上で、罪深き罪人を処刑せよ。汝らの行為で、鍵は現れん”

 異例であるため、頭から抜けていた。何も敵のいない場所は、安地だけではないのだ。

 いわゆるリドルゾーン。肉体ではなく、頭脳が試される場所。
 我々は、誘い込まれるようにして、そこに辿り着いてしまった。
 
 「こういうのは、基本的に……ダンジョンから出ようとする者は、直面しないはず、なんですがね……」
 「まあ行きで解いてるものだからな、普通は」

 何から何までイレギュラーだ。かの主から向けられた悪意を感じた。



 「光、少しずつ減っていってるな」
 「制限時間、でしょうね」

 台座に向かう紋様の光は、ゆっくりだが確かに消灯している。
 ありがちだ。無くなった瞬間どうなるかは、考える必要はないだろう。

 「わかりやすくていい……丁度いいから、交代してくるよ」
 「え、いいんですよ、もう少し休んでも」
 「大丈夫だ。私たちは、片方ずつ休めるから」

 リドルは、「時間、空間、意思」の三つを用いた契約魔法の一種だ。最小の手間で確実に侵入者を狩るために、ダンジョン側が侵入者と行う。
 契約魔法は上位異界の力を借りる魔法だとされており、効果は強力無比だが、条件は分け隔てなく制約を受ける。
 ゆえに情報に嘘はなく、制限時間が急に減るということはない。性質上理不尽も罷り通りにくいのか、幸いこういったヒントの少ないものは時間も長めに設定される傾向にある。

 決して安心して長居はできない。ただそのときが来るまでは、敵から襲われないことに変わりはない。
 俺達は皆で謎を解く間、代わり番で休憩をとり、心身の回復に努めようとした。

 「リウカさん、時間だ。代わるよ」
 「ふーっ、じゅっ、じゅぷ」
 「リウカさ、んんん⁉︎」

 が、程なく上がった悲鳴で、束の間の平穏は破られる。

 「くっ、うっ」
 「泣くな、泣くぐらいなら、殺してくれ……!」

 カオスだ。両者、俺の前へ来たときに、なぜか顔を真っ赤にして瞳に涙を浮かべていた。
 「何があったんだ」と問うても中々答えは返らず、最終的にはレノワの中のオギトが発言権を取り戻すことで、話を聞くことができた。

 「その、口に出すのは憚られるんだが……どうもリウカさんが、えげつない邪淫を行っていたようなんだ」
 「はぁ…………は?」

 なんだそんなことかと、一瞬聞き流そうとしてから我に返った。
 謎解きに集中していたとはいえ、そう思ってしまったことに少し愕然とする。いくらなんでも感性が麻痺し過ぎだ。

 「っ、っ……はぁっ」

 一瞬レノワのほうを睨んで何かを言おうとした目の前の俺が、結局何も言えず、情けない声をあげて膝を折った。
 自分の身体に起きている一大事のサインだ。一瞬躊躇したが、「オギトさん、ズボンを脱がしてくれ」と頼む。
 彼は複雑な表情を覗かせながらも、渋々、妙な前傾の正座で泣き崩れている男のズボンを脱がせた。

 「う゛っ……!」

 ぬろぉっと、白濁の糸が引き、瘴気の如き臭気が解き放たれ、とうに鼻がバカになっているはずのレノワが嘔吐く。
 リウカ側も何やら悶え、うつ伏せから横向けに転がり、問題の箇所を晒した。

 「……はは」

 笑うしかなかった。
 様子からして予感はあったが、あからさまに、前より酷くなっている。
 赤く怒張した肉棒の脈動があまりに強く、どくどく、どくどく。浮き出た血管がもはや痛々しい。それに合わせて明滅している茎部に刻まれた紋様も、色濃く深く、今にも張り裂けそうだ。

 「いや、まあ、そりゃそうだよな」

 生かすための栄養とはいえ、あの触手が出す液体だ。
 あんなものを飲んで、身体が無事で済んでいるはずはない。

 「くそっ、くそ……!」

 張り詰めていた何かの糸が、ぷっつりと切れてしまったようだ。

 「なんという屈辱だっ! 私は、なんて、なんて……!」

 表情から覇気を失わせた彼女は、股間を隠して懺悔した。

 「ずっとこれだ……常に肉欲が付き纏うっ……! 我慢しても漏れて、力が抜けるっ……!」

 瞳を揺らし、声を震わせた。

 「今も、私自信の身体にもっ、粗末な只人の身体にも欲情してっ……気が狂いそうなんだ!」

 とんでもない発言だが、非難はできなかった。
 自業自得だと笑えたらよかったのだが、明日は我が身である。想像したら、恐ろしくなってしまった。

 よく考えてみれば、俺は相当最初の時点で、欲求に屈していた。
 遮断魔法がなければ、とっくの昔に正気を失っている可能性が高い。
 比べられるものではないが、媚毒にも、淫紋にも蝕まれながら、誘惑を前に長時間耐えていた彼女の精神力は、素直に賞賛すべきかもしれない。

 「貴様らを襲うわけにはいかないのだ……自分で、処理するしかないだろう……? それともなんだ? 契約違反の罰を覚悟で、やはり斬り落とすべきか……?」

 実際、本来ならば斬り落とすべき段階だ。
 だが、やはり最初に結んだ魔法契約書が問題であり、実行はできないし、させられない。

 「やめろ、やればどうなるか、わかるだろ」

 俺たちの結んだ契約には、“お互いの傷害”を禁じる内容が含まれていた。
 強力で、融通の効かない制約だ。他人に傷付けてもらうことも許されていない。意図して結果へ導いただけでも、きっちりと罰が下される。

 罰は、専門家が契約書を弄らない限り、名前と魔力の剥奪が実行される。
 死に等しい罰だ。だから皆、滅多なことでは契約は破らない。だからこそ、魔法契約書はあらゆる場面で重宝されている。

 しかし、まさか今回は、こんな形であだになるとは。

 「落ち着いて、リウカさん」

 声の感じからして、恐らくオギトだ。
 彼は果敢にも、彼女を宥めるように声を掛けた。

 「オレたちは、あなたとアルさんの献身で救われたんだ。この状況で、あなたを責めたりはしない」
 「うっ、うううっ」

 彼女はただ嗚咽を返す。
 彼はこちらへ向き直ると、「アルさん、やれるだけやってみるから、任せてくれないか?」と申し出た。
 未だに涙が止まっていない。しかしその表情からは、ある程度の自信が窺えた。
 ただ「やれるだけ、何をやるんですか」と問うと、もじもじとして口籠もり始める。

 「その、オレたちも実は、限界なんだ。カラダの具合が」
 「まさか」
 「ああ、そのまさかだ」

 提案は、房中術だった。
 彼女らには、一応の心得があるらしい。
 毒素をまわして、浄化しようというのだ。

 「はぁっ、ほんと、まいったよ」

 視線を下げると、肉付きのいい内太腿が擦り合わされており、その素肌に透明な汁が伝って、艶かしい光沢を放っていた。
 想像できたことだ。アイツほどではないにしても、彼女らも、空腹を凌ぐために飲んでいるのだから。

 「レノワがさっきからずっとおかしくなっていて……泣いてるのは、まあアレのインパクトが半分くらいあるが。もう半分は、カラダがそれで、おかしくなってるってことが、怖くて嫌で泣いているんだ。その気持ちが、嫌というほど伝わってくるから……ほんとうに、いたたまれない」
 「……」

 彼と身を共にしながら、他所の男の逸物に発情する。
 その罪悪感はいかほどか。男の俺には、やはり想像がつかなかった。

 「房中術は、彼女からの提案だ。オレも、この方法しかないと思ってる」
 「そんな」

 いずれ性に狂ってしまうなら、いっそその前に、自ら身体を重ねて、共々回復を計る。尊厳を投げ打っての逆転の一手である。
 だが、簡単ではない。房中術は結局のところ性交渉だ。そのまま性的快感に溺れてしまうリスクもある。
 心得があったとして、かなりリスキーだ。上手くいかなければ、共倒れも有り得る。

 「決断してくれ。やるか、やらないか」

 とはいえ、他の案がない。
 またしても、選択肢が選択肢になっていない。

 「早めにたのむ。たぶん、あまりちんたらしているとのまれる。とくに、今のきみの前だとやばい」

 限界が近そうだ。濡れた焦点が何度かトロついて、声も甘くなっている。

 「いいんですか、そんな」
 「よくはないが、やるしかないだろ」
 「でも、や」

 彼は言葉を遮って、「安心してくれ、たぶん、悪いことにはならない」と笑顔を作った。

 「このダンジョンに取り込まれかけていたからか、なんとなくわかるんだよ」
 「……なにが?」
 「このダンジョンの、攻略のカギは────」

 耳を疑うような言葉に、俺は思わず唖然として、「は?」と声に出してしまった。

 「なぞときの答えにも、きっとつうじてる」
 
 戻ってくるまでに、頼んだよ、と。彼はそう言い残して、茫然自失のリウカを担ぎ、物陰へと向かっていった。




 「ああああ゛っ、おっ、お゛おおおおおぉ!」

 ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ。
 濡れた肉と肉がぶつかり合う音が響く。

 「おっ……んっ、ちゅふっ、ふっ、んんっ」

 始めこそ湿っぽく静かだったものの、これまで散々聞いたものと同じ、理性なき獣のような嬌声が木霊すようになるまでに、そう時間はかからなかった。
 まさかもう呑まれてしまったのではないか。もしくはまた敵が成り代わっているのではないか。
 つい不安になったが、その兆候は聞くだけではわからない。

 「んっ……っーー~~~~!」

 くそっ、気が散る。
 首から下が遮断されているとはいえ、頭に響いて、芯の部分が熱を帯びてくる。

 せめて耳栓を頼むべきだったと思いながら、俺は謎解きに専念する。

 “よく見て、気をつけて、注ぎ入れよ”

 気をつけて、注ぎ入れる? 何に、何を注げというんだ。

 「くぅうぅっ!」
 「うあぁっ、なかに、なかにそそがれてっ、たえっ、りゃ、れぇ……っ、んおお゛ぉーー~~~~!」

 ああ、うるさい。まんまなわけがないだろ。“形を変えれば、共通点が浮かび上がる。”って書いてあるんだから。

 “見いだし、台座の上で、罪深き罪人を処刑せよ。汝らの行為で、鍵は現れん”

 ここがおかしいんだ。前の文と繋がりを欠いてる。
 見いだせるものは罪人なのか? そもそも処刑って、どうやるんだ。

 この場に動かせそうな仕掛けは見当たらない。
 紋様や、石膏像のような装飾は、どこか動かせる場所があるのかもしれないが、一番それらしい台座の上に何もないのは違和感がある。

 違う。きっと、これも言葉通りじゃない。なにか一捻り必要なんだ。
 それも含めて、上の三つの言葉の共通点が、ヒントになるはず────

 知恵を振り絞って、候補をいくつか立て、その中で有力なものを選択して、詰めていった。

 ────いや、これも、これもあやしい。

 しかし、いくら考えても確信は待てず、時間は過ぎていく。

 ダメだ、今の俺じゃ、案を試せない。どうしても、選択肢が絞れない。
 彼女らに、早く戻ってきてもらわないと。

 「はぁっ、おれだって、げんかい、なんだぞ……」

 時間が経てば経つほど、思考力の低下も顕著になり、意識は集中しているようでいて、感覚を閉ざし耐えるために力を割かれて埋没していく。

 よく見る、気をつける、注ぎ入れる……。
 形を変える……言い換える……?

 一つ、通るものを思いついた。
 初心な自分が、このダンジョンにきて散々、経験させられてきた行為の、少し稚拙な呼び方だ。
 しかし、あまりに冗談じみていて信じられない。答えとして断じるのは憚られた。

 気づけば、部屋の光の数も僅かとなっている。
 いよいよ焦り始めた、そのときだ。
 ずっと鳴り止まなかった行為の音が、いつの間にやら止まっていたことにふと気づくと、むわり。動いた空気に乗った性臭に鼻腔を刺激されるとともに、後ろから声がした。

 「はぁ……っ、解けたか?」

 コンプレックスだった、大人の男にしては少し高い声。
 リウカだ。やたら呼吸が荒いが、声音ははっきりとしている。

 「二人は、どうした」
 「やつらなら、まだ向こうでへたり込んでいる」

 探知魔法は、柱の裏で、産まれたての小鹿のように震える女ドワーフの姿を捉えた。

 「そうか」
 「安心したなら、質問に答えろ」

 拙い滑舌で、ヒントが少なすぎて絞り込めていないことを伝える。
 彼女は若干弱々しくも「ふん」と、調子よく鼻で笑った。

 「こんな簡単なものを……いや、ある意味、馬鹿馬鹿し過ぎて、解けないほうがいい気すらするな……」

 らしいセリフだ。ほっとすると共に、バカにしたくなる。

 「なら、おまえのこたえを、聞こうか」
 「ああ、かまわないが、時間がもったいない。とっとと実践しよう」
 「んなっ」

 彼女は背負子ごとオレを持ち上げて、台の上に乗せた。

 「ほんとは只人となどあり得ないが、見た目上は私相手だ。一番抵抗感がないゆえ、しかたない」

 自分自身と目が合う、鏡を見ているような絵面。
 それが、意図もしていないのに急接近する。
 「なにを」と言葉を発しようとした。が、その途中で、口元は対面の唇によって塞がれた。

 「んっ、んんんぅっ⁉︎」

 仰天する。舌まで入れてきた。
 おおよそ想像できる彼女の行動と一致しない。結局失敗だったのか。
 そう感じ、絶望に打ちひしがれ、頭が真っ白になりながらも、反射的に抵抗して、離れようとした。
 しかし、ごんっと背もたれに後頭部が当たる。逃げられない。

 くそっ、おい、こらぁっ。

 「んっ、っ、ちゅっ、っんんぅ」

 こちらの舌は、すでに爛れきっていた。
 れるれる、くちゅり。簡単に受け入れるどころか、自ら快感を得ようと相手を迎えにいき、絡みつきにいってしまう。

 「ふっ、っ……」

 唾液と呼吸が交わされる。溺れそうで、溺れない。滑らかだが、確実に摩擦のある粘膜同士が擦り合わされ、脳髄で快熱が迸る。
 懸命に目を開く。焦点は合わない。暈けて明滅する視界の中、怪訝な視線を幻視した。いっそうの恥辱を掻き立てられ、倒錯した官能は、それを薪にしてさらに燃え上がり、膨れ上がって火花を散らす。

 もう、だめ、だ……。

 力を抜き、諦めかけたそのとき。
 下ろそうとした瞼の端、涙で滲んだ目尻のほうで、少しずつ登っていく光の柱を見た。

 「う…………?」

 ええ、うそだろ、まさか。
 まさか、直前に思いついた冗談が、答えだったっていうのか。

 「ふっ、正解のようだな、っ」

 彼女は、少し自慢げにぽつりと呟いて、再びキスに戻る。
 なんだよ、なんなんだよ。
 ムカつく。しかし言い返せない。物理的にも、心理的にも。

 「っ、んぅっ……!」

 それ自体がいっそう腹立たしかった。悔しかった。
 なのに、俺は怖かった。
 その気持ちすら、燻る劣情に結びついている感じがして、たまらなく恐ろしくなった。

 「っ、はぁっ、少しでも離すと、光が戻っていくな」
 「はーー……なら、はやくっ、んんんっ」

 またこれだ。自分で自分が分からなくなる。
 今なんで催促した。光を伸ばしたいからなはずだ。キスがもっとしたいわけじゃないはずだ。
 でも、否定しきれない。快感で灼け爛れた頭の芯の部分は、間違いなく求めている。
 怖い。こわいこわいこわい。いやだ。

 「んっ……ふっ、っーー~~……!」

 はやく、はやくおわれ。はやく。
 俺が、おれじゃなくなる前に、はやく────

 「っ゛!」

 中身がはじける、その直前。
 光が満ちたのか、部屋の駆動が始まった。

 「っは! やっとか!」
 「っ、っーー……」

 ちゅはっと唇が離れてできた銀の糸の架け橋が、振動によって揺れて、はたと落ちた。
 取り残された気分の中、俺はぼーっと、部屋が開けていくのを眺めてしまう。
 そんな場合ではないのに。

 「って、おい、おいおいおい、ちょっと」

 リウカだけが、いち早く気付いた。

 部屋が開き、この場が安地ではなくなるということを。

 「きさ……おい! おいってば!」

 彼女が背負子を揺らす。「呆けている場合ではないぞ!」と。
 それでハッとした俺の目線の先に、新たに光の文字が浮かび上がる。

 “満たせ”

 たったそれだけだった。

 満たせって、何をだ。

 その疑問に答えるように、台座が変形していく。
 背負子が押しのけられ、バランスを崩し、前方へと転げ落ちる。
 それなりの高さだ。痛みを覚悟し、目を瞑った。
 が、リウカに受け止められ事なきを得る。

 ……俺、だよな?
 見上げると、真剣な横顔があった。
 何故か、感じないはずの胸の高鳴りを感じ、顔がかーっと熱くなる。

 「クソッ」

 吐かれる悪態すら、やけに甘美に────なんだこれ、ありえないだろダメだダメだ! 

 「なあ」
 「う、あ、そうだ、ありがと……⁉︎」

 我に返って、慌てて口にした感謝は、彼の視線の先を辿った瞬間消え入った。

 「やること、わかってしまったんだが……ちがうと言ってくれないか」

 浅いすり鉢状に変形した台座の、中心部。
 そこからせり出していたのは、卑猥な形をした張型であった。

 「……悪い、むりだ」

 周囲から続々と、敵の気配が近づく。
 壮絶な理不尽を予感した俺は、ただ青ざめた。
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