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26. ⬛︎⬛︎約30〜40週目その1 過去の母、今の母
しおりを挟む十数年前の事。
「いい加減にしてよトシヤさん!」
「んがっ……!」
広い新築住居でなければ昼間の住宅街に響いていたであろう程の剣幕でリナは激昂し、一回り以上大きなトシヤを蹴り飛ばしていた。ドゴッと転倒した彼が壁に激突する音の後、彼女の甲高い怒号が居間の白壁に木霊する。
「言ったよね? 何度も何度も! その度し難い束縛癖は直した方が良いって!」
「あっ、あぁ……だからっ」
「だからって何? 悪化してるじゃない! 私の仕事先にまで脅迫まがいの事してっ……私の家族にまで嘘吹き込んでっ!」
「違うんだっ!」
「違うって何? 佐川教授まで抱き込んで! 訴えを取り下げろ……? 冗談じゃない……!」
そこまで口にした所で彼女は息切れし、ぽっこり膨れた腹部を抱えながらフラついて長テーブルに手を付く。そこへ「リナ!」と心配した様子でトシヤは駆け寄るが、「触らないで!」とすぐさま振り払われた。
「はぁっ……別れたくないからって普通ここまでする……? 異常だよ」
ひりついた空気の中、返事は途切れる。ぽたり。リナの目尻から伝った涙が一つ落ちれば、続けて同様にぽたり、トシヤの冷や汗が床を叩く。
「……リナ、ごめ」
「謝罪は求めてない」
彼の方が先に言葉を発せど、即座に遮られる。最早双方に話し合いの余地は無かった。暫くして荒い息が落ち着いた所で、彼女は冷ややかに告げる。
「はぁ……いいよ、もう。分かった。貴方の望み通り、別れるのは止めてあげる」
「えっ?」
「その代わり私にも考えがある」
彼が伸ばした手は彼女に届かず、机の上に置かれていた鞄の中から取り出された数枚の紙面に遮られた。
「その無駄に賢い頭、ちゃんと研究に使え」
紙面は彼に向かって投げ付けられ散らばる。広い上げ食い入るように読んでいけば、そこに書かれていたのは仕事によって彼を雁字搦めにし遠ざける為の口実の数々だった。
「っ、狡い、狡いぞリナっ、これはっ……!」
「逃せばこれまでの貴方の成果はぜーんぶ他所のモノになるわ。どうする?」
「こんな酷い事っ…………そんなに、僕の事が嫌いにっ……?」
「分かり切ってるでしょう? それとも、手に入らない結果のために全て捨てる?」
そこで全てを投げ打って引き続き彼女を支配しに行く程の覚悟は、当時の彼には持てなかった。結局、別れずに済むという現状維持に甘んじる選択を取り、彼は奥歯を噛み締め引き下がる。
「良かった。貴方がまだ研究者で」
「……僕は、君を」
「愛してない。でしょ?」
「…………っ」
「お願い。お腹の子には貴方の悪い面は見せたく無いの。全てを失いたくないなら従って」
否、純粋に、強かだったのだ。子の害となり兼ねない思想を持つ父親を御し母になると決めた、彼女の方が。
なお、現在。
でも、どうすれば……どうすれば、この子を守れるんだろう。
決して母程強くは無い彼では、同じ結果を得る事は叶わない。答えの出ないまま再び陵辱の時間が幕を開ける。
「こんなの、どこでっ」
「覚えてないか? 昔一緒にセットを買いに行っただろう?」
久方振りの裏切りがバレた後、案の定彼の警戒は再び増し地下への幽閉時間が増えた。しかし前の様に興味が薄れた感じの態度を取られる事は無い。寧ろ常軌を逸した熱視線を向けられる機会が増したり、嘘か真か分からない様な下品で恥ずかしい過去をサラッと話して来たり。心理的距離が雑に接近した様な、そんな状況が続いている。
「そんなわけっ……まってっ、お願いやめっ」
「君の為だ、我慢しなさい」
冷たいベッドの上、上下共にキツくなった母の服を着たまま性的趣向を感じる縛り方の縄で開脚状態で縛り付けられ、無理矢理太腿に針を刺され薬液を注入される。
「っ! だめっ、だめだめだめだってっ! それだけはっ、赤ちゃんがっ、っ…………!」
「心配しなくていい。子供に悪影響の出る薬では無い。寧ろ、少し楽になる筈だ」
「ほん、と……っ?」
投薬されればあっという間だ。痺れる様な感覚がぞわぞわぞわっと全身に染み渡り火照って来たかと思えば、食い込む縄の痛みや下腹部の重みやそれによるちょっとした疼痛が快感に変わり始め、頭は淫らで都合の良い事ばかり考える様になる。
ほんとだ……ちょっと苦しいの、楽に……っ!
違う。お腹の中で子供が暴れている。どんどこ蹴り上げられる。まるで助けを求めているみたいに。
「うそつきっ……こんら、のっ…………!」
清楚感のある白いレースのあしらわれた衣服の胸元、縛り上げられて強調され、ぱつんぱつんに張り上げている双丘。その頂点にじんわりと母乳のシミが出来ていけば、心臓は耳障りな程に早鐘を打ち、その振動が尚更状況を悪化させる。程なく下半身、穿かされたパンストの中も濡れた感触で溢れかえり、焦れて、堪らず根を上げた。
「っ、まってっ……トシヤ、さんっ…………くるしいっ……くるしいよぉっ…………」
「ダメだ。反省していないだろう?」
分かっていても腹の奥が煩わしくて、もどかしくて、堪らず身を捩りながら媚びた声を発してしまう。自身の頭よりも膨らんだお腹すらも背徳の種にして、浅ましく快感を貪ろうとする、酷く淫猥で、どうしようもない人の形をしたケダモノに成り果てる。
だめ、らの、にぃっ……。
「おねがいっ……おねがい、しますぅっ…………解いてっ……んっ、んんっ」
プライドも何もあったものではない。久々の露骨な薬漬けに抵抗はままならず、みっともない懇願が口を突いて出て止まらない。
これは明確な母への冒涜だ。彼もこの態度は望まない筈。そう思った。だが次に取られる行動はまたしても予想外。股座、パンストの上、ショーツの中への按摩器具の設置と縄による開脚体勢の固定という、下卑た欲望に塗れたものだった。
「えっ、あっ、なんれっ」
「罰が足りなさそうなんでな」
サディスティックな笑みでその面が歪み、振動が始まる。
「ゔっ、んんんんんっあああっ!」
「とは言え、昔は厳しくし過ぎて嫌われてしまったからなぁ」
「あああっ、はあっ、くっ、ぅあああっ!」
「仕方が無い。甘めに一時間だ。まず一時間、そのままでいなさい」
「んえっ、まっ、ああぁっ!」
彼は部屋から去って行った。何処か意気揚々と、興奮気味に。
っ……なにが、そこまでっ……っ!
皮肉にも信用と安心が齎した状況だった。おかしな話だが、これまではまだ取り繕っていたのだろう。抵抗の内容が過去の母の行動と重なった事で、彼の中での此方に対する認識がより強固になったのか、あれ以来疑う様な視線が全く無い。今の彼は恐らく本気で此方を屈した母だと思って、悦に浸っているのだ。
これが本性だと言うのなら幻滅せざるを得ないだろう。正常なら。
ちがうっ、かあさんならっ、こんなふうにっ、屈したりっ……!
「っ、わたしっ、ちがっ、ああああっ!」
疑いが完全に晴れたのは、単に此方のせいでもあった。半ば強制的に刻み込まれた母としての口調や振る舞いが思った以上に染み付いていて、今更異なった行動を取る事が出来なくなっていたのだ。
それは母であって母では無い。彼にとって理想の、都合の良いリナという奴隷の振る舞いであった。
ちがうっ、わたしはぼくでっ、わたし、はっ……いやっ、そんなのどうでもっ……いっ……!
「んぐっ、う゛うううぅっ……!」
都合に気付いた所で全ては手遅れだ。開発され切った身体に久々の薬物。腰を逸らしても逃れられない地獄の按摩。深く深く淫蕩に落とし込まれる程に素が出ると思いきや、寧ろ母としての自分が顕著になる。安全な腕の中というイメージ的余裕が剥ぎ取られて、上書きされていく。
「お゛かしくっ、な゛っ……ゔうううぅっ!」
股間から来る電撃に隅々を灼かれて視界は白黒し続け、とっくにおかしい頭が度を越した快楽でぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる。薬によって齎された、明らかな異常。なのに、当たり前の様により深く強い快感を求めている自分が居て、残された砂粒大のまともな思考を蝕んでいく。
「くっ、あっ、あ゛あああぁあああああぁ!」
それから一時間後、もとい不明瞭でそれより体感上ずっと長い時間が経過。
「ただいま」
「うぅ……ああぁっ、ああああぁ…………」
涙でボヤけ、絶え絶えな呼気と共に揺れる視界に彼の影が映るなり、自分は形にならない謝罪の言葉を譫言の様に発する。
「ほえんぁっ、あ゛っ、はああぁっ……」
「流石にだいぶ堪えた様だな」
按摩が外されると淫蜜が糸を引いた。機器全体がもう照明でてらつく程濡れていて、持ち手の下部分からも一本滴り落ちている。
「こんなに小水と愛液を撒き散らして、おまけに母乳まで……脱水気味だろう?」
息がかかる距離まで顔が近付いてきた。かと思えば、直接指先で秘所を触られ、「い゛んんっ!」と脊髄反射的に身体は大きく反り返って跳ねる。ビクンっという痙攣と共に、ぷちゅり。はしたない汁が噴き出す音がした。
「さ、口を開けてっ」
ペットボトルの水を口に含んだかと思えば、彼はそれを此方の口内に流し込んだ。
「やぇっ……んっ、んっ…………はぁっ、っ」
「んっ…………ふっ、ちゅっ…………」
それが何度も繰り返される。気が遠く成る程何度も。喉が潤う度頭の中が甘く痺れて、時間感覚が蕩けてしまう。
やめっ、うれしくなっひゃっ……ゆるしちゃっ、いけなぃっ。
漸く終わったらしく「っはぁ……」と、暫し互いにぼーっと見つめ合った。
滲んだ視界が回る。心臓が高鳴り、強烈な彼への愛欲が溢れて止まらない。
うぁっ、こえ、らめら、っ…………。
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