【完結】父さん、僕は母さんにはなれません 〜息子を母へと変えていく父、歪んだ愛が至る結末〜

あかん子をセッ法

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17.某日前編 裂かれる

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 「んっ、んんんんっ……!」

 眉間に皺を寄せ脊髄反射で離れようとしたものの、強い力で後頭部を抱かれてしまい動けず。思考が追い付くその前に口内にコーヒー風味のザラつく舌先が入り込んで、此方の舌を絡め取った。
 行為の存在は知っている。けれど、こんな感触だなんて知らないし、こんな形で味わう事になるなんて思いもしなかった。それだけに激しくパニックに陥り、その隙にあっという間に引きずり込まれていく。

 「んうううっ、ちゅっ、んんんんんっ!」

 どうしてこんな事をするのか、されるのか。動機以前に生理的に理解が及ばない。が、お構いなしに容赦無く教え込まれる。舐られ、啜られ、貪られ、脳髄に叩き込まれる。唾液がかき混ぜられる音を。甘苦い味を。生々しい性の触感を。

 「っ…………」

 そうして間も無く酸欠か、はたまた真の淫蕩か。音は遠ざかり、涙で滲んだ視界はボヤけて、頭がぼーっとし始める。

 「んんん……っ、んろ……」

 蕩ける。汚くて不快な筈なのに、刺激が頭に響いて下腹部に伝搬し、浮遊感に襲われる。ぺたんと内股で座ったベッドの上、腰がソワソワして浮き足立つ。

 だめだっ、いやっ、いやだっ……。

 本格的に危機を感じた所で、もうどこもかしこも力の入れ方が分からなくて。舌先を逃がそうとしても逃げ場など無かった。出来るのは一方的な蹂躙が過ぎ去るのを待つ事だけ。そう覚悟し強く目を瞑って耐え忍ぼうとしたが、擦り切れた精神にはそんな余力すら残っていない。あっという間にそれすら蕩かされ、ぼーっとして、身体は徐々に弛緩し後頭部を抱く腕に体重を預けていく。

 「んっ……っ……」

 相手の腕はゆっくり、僕の頭をベッドの上へと誘った。そしてそっと置かれた後、此方の舌に根本から絡み付いた舌先がぬろぉーっと先端まで滑り、ちゅはぁ、と引き抜かれ唾液の糸引く線と余韻を残して離れる。

 「っ……はー……っ……!」

 酸素が戻ってじんわりと視界が戻っていく。が、相手は回復を待ってくれない。一呼吸置いて再度貪られる。同時に病衣の中に手を入れられて、片方は胸を、もう片方は股座を、下着の上から弄って来る。惚けていたせいで無防備で抵抗は間に合わない。此方の手はただ相手の手首を掴むに留まり、勝手を許す。

 「ぅっ、んっ、んんんっ……! んっ……っ!」

 くちゅっ、ぐちゅっ。股座は既に音が立つ程水気を蓄えていたらしい。滑り、卑猥な水音が響く。その中心たる痼りを弄ばれる度、散々自分で弄った胸がくにゅっと形を変え、乳首を指先で転がされる度滑りと音は酷くなって、灼ける様な快感に身体は一々くぐもった声を漏らし、びくびくと浅ましい反応を返してしまう。
 恥ずかしい。こんなの嫌だ、最悪だ。相手は父で、自分は本当は息子なのに。自分の物とは到底思えない程の艶声と共に抵抗する感情が噴き出す。が、入念な下準備によって淫靡な女体に変えられた肉体にとっては性感の炎を燃え盛らせる糧にしかならない。思えば思う程悶えて、股から蜜が滲み出す。

 「っ、んん゛っ……!」

 と、その時。指先が敏感な突起の下、割れ目の筋に沿って滑ったかと思えば、ちゅぷり。一本、這入った。今まで自分でも怖くて触った事の無い領域に、体内に這入ってきた。
 指の形が分かる。艶かしくうねって、鋭敏な神経に狙いを定め、直接刺激してくる。

 ありえないっ、やだっ、やだぁっ……。

 ぎゅんっ、ぎゅんっ。否定しても腹奥が締まる。腰が跳ね、背筋をぞわりと電流が駆け上がる。まるで夢に見た、否、夢より遥かに倒錯的な快感の暴力に翻弄される。一切抵抗出来ず、危険な方へ流されていく。

 「っ……やぇっ、んっ……っ……」
 
 解されていく股座に意識を向けていると、胸を弄る方の手によってあれよあれよと服は脱がされていって、熱い肌はシーツの冷たさと、覆い被さる男の熱気を知る様になる。

 ちがうんだ、ぼくは、ぼくはぁっ……。

 自分の気持ちが分からない。止めなきゃ。こんな事、いけない。しちゃいけない。確かにそう思っている。けれどもうぐちゃぐちゃで、ぼろぼろで、拒絶心が建前程の力も持ってくれない。その癖身体の欲求ばかりが強大で、膨れ上がり張り詰める切なさを解消しようとひたすらはしたなく求めてしまうから。やめて欲しいのにもっとして欲しくて、自分の本当が分からない。

 心身のズレは最早決定的だった。思った行動はまるで取れず、抵抗の為に突き立てるべき腕は相手の求めに応じ演じる様にその背中に周り、腰は弄ぶ手の方へ向かう。すると、

 「んっ……っ~~~~!」

 間も無く快感が弾け、背筋が跳ねて脚がピンと伸びた。目の端で星が飛び、チカチカ明滅を繰り返す。そして不自然な痙攣と硬直で察知されたか、暫し口内に絡みつく舌と、此方の胸を揉む手がぎゅーっと絞り上げる形で止まった後、力が抜けて徐に離れた。

 「っはぁっ……はーっ……はーっ……」

 滲んで歪む視界一杯にやつれた妙齢の男の顔が映る。垂れ下がった眉尻、細まった瞳、紅潮した頬。これまた見た事もない表情だった。
 彼もまた荒く息を吐いている。はぁ、はぁ、熱い吐息が鼻先を撫でる。視線は揺れる。揺れて、不意に重なる。

 爆ぜそうな程に早まった心音が鼓膜を叩く中、彼は言った。「……いいか?」と。
 余韻の最中で惚けた自分でも意味は理解出来た。良くない、ダメだ、それだけは。今までは求めていた筈の本能が急激に警鐘を発し、ほぼ脊髄反射でそう意識表示しようとした。が、喉元に出掛かった所で止まる。

 ここで、拒んだら……っ。

 性感から来る口惜しさだけではない。おかしな事に気付いてしまった。本当に、おかしな事だ。自分は今や避けていた筈の最悪の結末よりも、それを拒んだ後の方が怖く感じてしまっているのだ。

 拒まれたら、この人はどうなる……? ぼくは……?

 逡巡した。この人は、母さんに縋って生きている。果たしてこの場面で、その拒絶に耐えられるだろうか。

 縋るものを失った自身と、先日僕に拒絶された時の彼の姿が重なり、共感すると共に確信した。二度目の喪失は、とても耐えられないと。
 そしてそんな事になれば、一人残された自分もきっと耐えられない。この疼きを抱えたまま、狂い死んでしまう。

 「……わたしが、ひつよう?」

 初めて、自ら一人称を改めた。元より僕と口にする度態度が冷たくなるのが嫌で意図して一人称を使う事自体を避けていたが、今、受け入れる意図を込めて刹那的に使ってしまった。
 すると案の定、「ああ、当然だ」と、心底嬉しそうな返事が返って、愛おしげに頬を撫でられた。

 そっか……いいんだ、これで。

 関心を向けてくれるなら、愛してくれるならもう、いい。

 「なら……いいよ」

 少し強張っていた身体の力を抜き、視線を逸らして言った。半ば自棄で、殆ど一時の気の迷いで、自分が何を言っているのかも分からない内に、自身の嫌悪に邪魔される前に、出来る限り全てを放り投げる様に吐き捨てた。

 「……ありがとう」

 感謝の言葉の直後、股座に硬い棒状の肉感が突き立てられる。嫌だと腰を逃したのも束の間、しっかり手で腰骨を抑えられて、ずにゅり。めり込んできた。

 「あ゛っ、ぐっ……!」

 苦痛で声が漏れ、全身痛い程に強張る。痛みの発信地の他、少し前に治った筈の右腕が特に痛んで爪を突き立ててしまったが、相手はお構い無しに荷重を増し、めりめりめりめり、ゆっくりと入り口を押し開きながら挿入って来る。

 「い゛っ、や、あ゛ぁっ……!」

 痛い。裂ける。嫌だ。もう、無理。

 いき、できな゛っ……だっ、あ、さけるっ……!

 刹那、ぶちんっ。心と身体が裂けた音がした。
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