【完結】父さん、僕は母さんにはなれません 〜息子を母へと変えていく父、歪んだ愛が至る結末〜

あかん子をセッ法

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16.??〜某日 愛と欲

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 ガシャン、ギィー。長らく停滞していた室内の空気が特徴的なドアの開閉駆動音によって動き、「ただいま」という男の低くしわがれ疲れ切った声が響く。

 「帰ったぞリナ。起きているか?」

 待望と忌諱。二律背反を抱かせ続けたそれが、苦悶の元凶が近付いてくる。

 「なんだ、起きてっ……」
 「……っ」
 「……なんて顔をしているんだ」

 布団の下に隠していた此方の顔を覗いた彼と目が合った。また一段とやつれただろうか。哀しげで寂しげな表情を浮かべて、またしても僕をそっと抱き寄せようとしてくる。
 が、僕はその手をパチンと払い退けた。

 「……悪かった。出来る限り早く帰ると言ったのに、遅くなった」

 愛想笑いと謝罪が返った。違う。そこは気にしてない。予定より遅くなったかなんて分からないから。恐らく一日以上の経過はしていない筈だろうし、全然、問題無い。

 「やはり君の体調がすぐれない時に離れるべきでは無かったか」

 それについても謝る必要なんて無い。自分は行けと言った。心配無いと虚勢まで張って。体調だって熱っぽくて怠いだけ。辛そうに見えるなら、それは内面が、僕自身が原因だ。

 何も思っていない訳じゃない。誠意を見せようとしてくれるのは嬉しい。でも、ダメだ。
 自分で自分が分からなくなる。許したいのに許せない。受け入れたいのに受け入れられない。怖くて堪らない。

 「すまない、悪かった……」

 彼は今一度、的外れなニュアンスの謝罪を零しながら縋り付く様なボディーコンタクトを求めて来た。対し「やっ……!」と、僕は再び反射的に彼を突き飛ばし、拒絶してしまった。

 「…………悪かった」
 「ぁ……!」

 彼は露骨に表情を曇らせ、その場を去って行った。



 それからというもの、彼と自分が顔を合わせ、言葉を交わす機会はめっきり減った。会うのは朝昼晩三回の食事と、サポート無しの運動の指示監督の時だけ。時折互いに距離感を測る様に遠回しのやりとりをしては離れてを繰り返す、煮えきらない日々が続く様になった。

 「リナ、体調は……」
 「っ……」
 「……必要があれば呼んでくれ」

 頭は自分が母として見られている事を強く意識し、身体は慰めを求めている。その状態はあまりに人として不健全で、封じていた恐怖や嫌悪を呼び覚ますには十分だったらしい。彼が手を伸ばして来る度身体が強張ってしまい、それを察知した彼は手を引く。それが毎度繰り返され、その度心が傷んでいく。

 なんで、そんなカオ……ぼくが、わるいことしてるみたいじゃないか……。
 


 「はぁっ……はぁっ……!」

 増えた一人の時間、荒く熱い息を吐く度理解する。父性愛にも異性愛にも飢え、満たそうとしても母への罪悪感と生理的嫌悪に苦悩し、その元凶たる存在を敵視しながらも同情し、期待し、依存する。混沌とした心理の境でぐちゃぐちゃになっていく自分を。
 子供として優しくされたい。愛されたい。無視されたくない。それが一番な筈なのに、それが叶わないと確信しているから、欲求も自制もどんどん歪んでいく。その欲するままに振る舞った先の破滅を予感し、恐怖に身を強張らせながら、暗く淀んだ劣情を催してしまう。

 「ふっ……ううっ」

 抵抗も虚しく、遂に手指は膨らんだ胸を揉み、半ば無意識に甘く疼き芯を持つその先端を弄る様になっていた。
 最初は本当に意図は無かった。弄らなければ落ち着かなくて、耐えられなくて。あまりにも手近に存在する、母の要素を感じるその感触に甘えてしまっただけだった。

 しかし、返る感覚はあまりにも官能的で、実感して以降は自慰行為に他ならなかった。おかしいのは自覚している。親愛に飢えての行為が、性愛を満たしてしまうのだから。どうしたって母を性的に見てるみたいで、意識をすれば嫌悪に押し潰されそうになった。

 けれど、違うのだ。あくまで求めているのも自分で、感じるのも自分。手は母性を、身体は性感を求めている。自分の歪んだ姿から目を逸らせば、こんなに都合良く欲求を満たせる行為は無い。

 かあさんじゃない……かあさん、かあさんっ……。

 性的快感と、壊され退行した自身の幼さまで結び付けば、もう止まらなかった。

 「っ、く、ぅっ……っ゛!」

 腹奥に溜まった淫熱は暴れ、脳天を白光が突き抜ける。何度も、何度も何度も何度も。胸だけで身体を仰け反らせ、狂った様に繰り返した。
 しかし一向に発散されず、情欲は膨れ上がっていくばかり。いつしか耐え兼ね股座も下に擦り付けずにはいられなくなってしまい、行為は更に悪化。

 んっ……かあさんっ、ごめん、なさぃっ……ごめんなっ……ぃっ……。

 遂には母への罪悪感すら、呆気なく歪曲してしまった。

 滑落は一度始まれば歯止めは効かない。行為の時間は瞬く間に増加し、果ては夢の中でも自身を慰める様になる。

 くっ、ぁっ……。

 夢の中でも自分はもう、男の身体では無かった。女の身体で、女の性感を味わっていた。ベッドの上で、シャワー室で、学校で、昔の家で。いつの間にか女体となって、その持て余した肉欲を貪っていた。

 ぁっ……っ……!

 それすらも短期間でエスカレートしていき、見知らぬ男に襲われて、犯される夢が増えた。電車や通学路で身体を弄られたり、連れ去られて窓の無い監獄で陵辱を受けるのだ。勿論経験は無いから現実味が無くて、ポルノ映像を体感する気分で想像上の快楽を堪能する事になるが、快感は完全に女性側の視点で被虐的なものばかり。目覚めて自己嫌悪に陥る様になった。

 深刻化すればするほど現実の時間で父を避ける様になり、一人の時間が長くなればなる程内容は生々しくなっていく。そして見知らぬ男は気付けば父の姿をする様になって、シチュエーションは現実に即したものへと変わる。

 っ、い、や……いやだっ……!

 はっきりと形になって、現実との区別が付かなくなった瞬間、流石に怖くて、決定的な行為の直前で醒めた。そして今更改めて自覚し項垂れる。自身の内面が、完全に歪められてしまったと。

 理解し遠ざけた所で、間も無く限界が来る。ある日の就寝時間前。



 「……おやすみ」

 消灯時間を伝えに来た彼が、先んじて寝たふりをする僕へ、態々ベッドの傍まで来てそう告げ去ろうとしたその時。僕は遂に慌てて身体を起こし、「まって……!」と、離れていく彼の袖口を細く心許ない指先で引いてしまった。

 「…………?」

 引き留めておきながら考える時間を要し、少しの間が開く。そしてなぜ止めてしまったのかと後悔しながら、後戻り出来ずに酷く拙く言葉を紡いだ。

 「その、ごめん、なさい……」
 「……何がだ」
 「まえ、キツくあたったから……」
 「それは、僕の方が悪いと謝っただろう」

 死相に満ちた彼の横顔が悲痛に歪む。少し前ならきっと喜んでいた筈なのに、今ではそれを見ると堪らなく胸が苦しい。ちがう、ちがうと首を振り、自分が何故あんな事をしたのかしどろもどろになりながら説明する。

 「ちがうんだ……その、カラダ、おかしかったから……さわられたくなくて……」
 「そう、なのか……? 何処がおかしかったんだ?」

 食い気味に詰め寄られて心臓が跳ねる。聞かれたく無かった。今触れられたら気が変になる、なんて。そんな事言える筈が無い。

 「っ、とにかく、さわるのダメ……! そもそも、よくないんだよ、そういう、の……!」

 そもそも今までがおかしかったんだ。馴れ馴れしく触るな。そんな関係じゃないだろう。そんな言葉を相手を傷付け過ぎない様出来る限りオブラートに包んで、しどろもどろになりながら伝えた。

 「……はは」

 彼は涙ながらに正気のない顔面に笑顔を作った。そして歓喜した様に声を震わせ言う。

 「そうか、そうか。漸く、真に男女意識が芽生えたんだな」
 「っ! ちがっ、そうじゃ」
 「良かった。なら、改めて伝えないといけないな」

 この上なく嫌な予感がするのに、胸が弾む。頬が熱くなる。

 「ずっと聞きたかっただろう? なんでここまで良くしてくれるのか、って」

 聞きたくないのに、聞きたい。辛うじて首をゆるゆると振るが、言葉は続く。

 「ふふっ、言わずとも伝わっているかもしれないし、さり気なくもう口にしたかも分からないが、改めて言うよ」
 「や、ぁ」
 「リナ、僕は君を愛してる」

 聞いた瞬間、皮膚が泡立った。肉親の生々しい色恋にその子供が立ち会えば、誰しも感じるであろう不快感。それだけならどれだけ良かっただろうか。

 「僕のこれまでの行動の大半は、全て君への愛が為だ」

 ズキリと傷んだ胸の内、気持ち悪い。羨ましい。虚しい。妬ましい。嬉しい。本当に気持ち悪い。膿んだ感情が次々滲み出す。

 「どうか受け入れてほしい。見返りはいらない。ただ、僕が君を愛する事を許して欲しい」

 親愛じゃない。向けられているのはドロっとした性愛と依存と、支配欲。分かっている。分かっている分かっている分かっている。
 けれど、欲しい。偽りでも、不潔で醜く歪んでいても。愛が、安寧が欲しい。

 気持ち悪い。この期に及んでこんな事。羨ましい。この愛情を真っ当に受けていた母が。虚しい。決して見向きもされない自分が。妬ましい。名前を呼んで貰える母が。嬉しい。形はどうあれ、愛情を受けているという実感が。

 ────ほんとにきもちわるい。この人も、ジブンも。

 キャパシティを超え硬直する僕の身体が彼の身体に包まれる。なけなしの理性から来る倫理観が胸を刺した時にはもう遅かった。

 「んっ、っ…………!」

 唖然として開いていた口が、彼のがさついた唇で塞がれた。

 

 
 
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