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9. 推定監禁12〜1?日目 後編 転落
しおりを挟むこれまでの経験上、一度発散されてしまえばもうそこで終わりであって、こんな風に再度ぶり返す事なんて無かった。いや、ましてや。
っ、さっきまでより、ひどい……?
より悪化するなど、万に一つも有り得なかった。一体どうして。感覚が歪められているにしてもおかしい。先の感覚は絶頂体験では無かったのか。疑問は泡の如く浮かんでは消えていく。
「ふーっ……ーっ」
自分の吐息、濡れた股。必死に気色悪いと否定していた物が、今や拒めない程淫猥に感じられてしまう。最早それ程に思考は惚けていて、纏まらない。
もうむり……ガマン、できないっ……!
「こん……なのっ…………!」
一度覚えたら、抗えなかった。敏感な粘膜を刺激する目的で、指先が直に股座へ伸びる。そして、ぴとり。
「くっぁっ……!」
触れただけで腰に響いた。忽ち身体の芯が痺れて、神経の中枢が快感に支配されていく。
欲求が加速する。くちゅっ、くちゅっくちゅっくちゅっ。手指は少しずつ、少しずつ大胆に、より鋭敏な箇所を探る様にして弄る。水音が立つ程に不快な筈の滑りは快感へと変わり、そこから小水と甘酸っぱい果物か何かが混じったみたいなクセになる淫臭が漂えば、「はうっ……ふっ、ふぁっ、ぁっ……!」と、明確に艶っぽい声音が喉から絞り出される。自制も無駄だ。いけない、ダメ、こんなこと。頭の中に止めどなく色っぽくて女ったらしいニュアンスの言葉で再生されてしまい寧ろ興奮を誘う。
「くしょっ……くそぉっ……ぉっ、っ、んんんっ……!」
意中の女の子の自慰する姿が強固に思い浮かべられて、妄想もその目的も固まってしまった。そうなればもう、後は自分への言い訳を用意するだけ。
もう、しかたないんだ……スッキリしないと、なにもままならないから……しかたなく、するんだっ……。
発散の為の、正気に戻る為に仕方なく行う行為だと割り切った瞬間、全てのタガは外れた。悶々とした妄想の赴くまま、後先も今も何も考えず腰をくねらせ、探し当てた熱く疼く患部の一番敏感な箇所。剥き出しの神経の様な痼った突起を思う存分刺激し始める。
「んっ、おっ、おおおっ……! っ、んふぅっ……!」
ここっ、ここがすごいっ! でんきはしるっ! びくびくするっ! やばいっ、いいぃっ!
さながら鬼頭の名残り、唯一残った芯の部分だ。分泌されるトロトロの粘液を潤滑油にして、くりゅくりゅくにくに、擦り回したり摘んだりする度脳天まで電流が迸り、身体はびくびく痙攣を繰り返す。あまりの快感で涙が溢れて瞳は上ずり、口元は切なさの味に耐え兼ね舌を放り出して涎が垂れる。
「っ、んひっ、ふっ、ぅっ……んへぇっ、へぁああっ、ぁっ、ぁああっ……!」
艶声も自分の物という意識は最早遠くの彼方。意図せずより媚びた印象の物へと変化し、より淫らにエスカレートしていく。そうして聴覚が昂れば嗅覚が、嗅覚が昂れば触覚がと、五感全てが興奮材料に繋がれば、身体は緩急を繰り返しながら徐々に徐々に早まり、上り詰める。そこに俄に恐怖を感じた、次の瞬間。
「ぁっ、くっ、んんんんんんんぅっ!」
またしても熱が溢れて、今度は先程より大きく激しい白い閃光に灼かれた。今までの人生で味わった衝撃と比べそれはあまりにも過剰で、僕は悶えながら気を失っていった。
果たしてこうなる事に何の意味があるのか。ただの悪趣味な嫌がらせか、それ以外の意図があるのか。一切分からないまま、その経験を境に、僕を司る全ては一気に音を立てて崩れ始めた。
推定十五日目。最後にトイレの中に居たはずの僕はいつも通りベッドの上で目覚めたのだが、日付けを考えるよりも先にベッドに腹這いになって股座を押し付け、浅ましい行為に耽ってしまった。
「んっ……はっ、あっ……っ……」
でっぱってるとこっ、すれてっ、っ……。
「っふっ、う゛っ、っっっ! っっ…………!」
そうしてやがて訪れる深い絶頂感と、倦怠感と筋肉痛。喉の渇きと空腹も相まって、漸く生存欲求が性的欲求を上回る。
……くぅっ……おなか、へった……のどからから……カラダだるい……。
もっとも、状況は好転しない。重い疲労と燻る淫熱でぼーっとした頭は漠然と感じていた。これまでの危機の中で最も深刻だ、と。しかしながら最早対処する余裕は無く、食事と用便を済ませる事で精一杯。案の定再びトイレでスイッチが入って、身体を慰め始めてしまう。
「はぅっ……ぅっ、んふっ、ふぅっ……!」
白い閃光に貫かれるあの瞬間が頭から離れない。またアレを味わいたいと、そう願わずにいられない。くちゅくちゅびくびく、止まらない。やればやるだけ快感が深くなって、その先を目指したくなる。
「ぁっ、ああぁっ、あっ……あ゛ぁっ!」
腰をくの字に折り曲げて、また達した。ぷしゃーっと股座から小水が噴き出して、その心地良さに心酔する。
あはっ、ああっ、これっ、だめだっ、だめになるっ……。
快感の底が見えない。余りの深さに恐怖と焦燥を抱き、胸中が掻き乱された。息が詰まって苦しくなる。
いやだっ……もうぜんぶ、いやだっ……!
「はあっ……っ……!」
弱り切った僕の心は最悪の逃避を選んだ。全てを忘れさせてくれる快楽に、しがみつこうとしてしまった。
転がり込む様にしてトイレから出た僕はクローゼットの方へ向かい、そこに仕舞い込まれていた電気按摩に縋り付いて嗤った。まるで自刃用の道具みたいだ、と。
あはは、そっか……これ、このためにあったんだ……。
現実が僕を行為へと追い立て、行為が現実をより深刻な方向へ運んでいく。そんな悪循環が始まればもう、分かっていても止められない。真っ逆さまに転げ落ちていく。
「んくっ……っ、んんんっ! っ~~~~!」
そうして始まった道具を使った行為は、ガスが焚かれるまで終わらなかった。素手より簡単に発散出来ると思いきや寧ろ逆。ベッドの上で楽な体勢のまま行えるせいで、一層終わりが分からなくなってしまったのだ。
馬鹿みたいに達して、漏らして、気絶しても、快感が凄過ぎて叩き起こされる。止めるには、強制的に眠らされる他無かった。
次の日も同じだった。そう表現するしか無い程、希薄な時間を過ごしてしまった。そしてその内、きっとその次の日もそのまた次の日も同じだろうと、諦観に堕ちた僕は日付けが数えられなくなって、遂に唯一残っていた基準が壊れた。
時折今がいつなのかも、此処が何処なのかも分からない不安と焦燥に苛まれれば、またそこから逃避する為に自身を慰める。不安と陶酔を行ったり来たりしていくうち、自己の認識も希薄になっていき、ある時。
「…………ぇっ?」
起き抜けに腹奥を襲う鈍い痛みと血生臭さの中、股の下、赤く染まった布団を見た瞬間、今の自分を自分だと認められなくなった。
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