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8.推定監禁12〜1?日目 前編 破綻
しおりを挟む例によってガスで眠らされ、更に翌日、十二日目。
「っ……ふぅっ……!」
目が覚めた瞬間、筋肉痛の肉体の芯がじーんと熱く痺れて動けなかった。夢、ないし幻覚の内容は多幸傾向で変わっていないのに、そこで味わった体験の尾の引き方が一気に悪化し始めたのだ。
前までは現実との落差による喪失感とか、諸々の嫌悪感が先行してたのに……身体が、中々冷めてくれない……!
悪感情への慣れか、身体に薬が溜まってきているのか。恐らく両方である事は容易に想像が付いた。だとすればする事は一つ。
「くっ、ぅ……!」
心身に鞭を打ち、痛みを堪えて筋トレで誤魔化した。しかし何とか凌げはするものの、効果は一時的。読書中ふと集中が途切れた時や、トイレで排泄する時。身体を意識してしまえば、再び苛まれる様になる。
う、わぁっ……。
股座の濡れ感が酷くはしたなく、汚らしくて堪らなかった。仕方が無いので、声を掛ければ当たり前の如く開くトイレにいつも通り入ってトイレットペーパーを拝借し、ズボンの中に折り畳んで敷いたりしたのだが。
っ、ダメだ、擦れるっ……!
耐え兼ね、結局出来る限りズボンを履かずに過ごす様になった。結果としてベッドに座れなくもなってしまったけれど、これまた可能な限り立って過ごし、休憩中は寝そべって凌いだ。
これだけでもかなりの支障だが、更に翌日の十三日目。
「はぁー……っ、ふー……」
前日同様に何とも言い難い火照りに悩まされる寝起きの中、病衣の下でひりりとひりついたのは、何と乳首だった。比喩や心理的現象ではなく、物理的症状として乳頭部を微かな痛みと灼熱感が襲ったのだ。
な、なにこれっ……いた、い……?
身を揺すれば、チクリ。衣類と擦れて胸の先から奥まで痛む。覗けば、見た目に少し赤く晴れている様に見えた。
筋トレで激しく動き過ぎたせいだと思いたかった。が、その深めの痛感と何とも言えない歯痒さがそうではない可能性を過らせる。
でも、気にしなければこれは大丈夫、大丈夫……。
とはいえ筋トレには差し支えたので、折角得た尊厳を自ら手放す痛恨の行為だがやむを得ず、動く時だけ全裸になって運動した。
起きて、食事して、排泄して、運動して、読書して、眠らされる。昼夜不明の一日のサイクルが淡々と進む中、肉体の熱感に悩む時間が着実に増えていく。監禁を日常化されるだけでも精神は鈍っていくのに、そこで容赦無く薬漬けにされるのだ。どんなに意思を研ぎ澄ましても耐えられる物では無かった。
十四日目。ふとした時、思考力が徐々に奪われ、いつの間にかぼーっと過ごす割合がその他を上回っている事に気付いた。
一日の体感時間が加速度的に短くなっている。そこに危機感を覚え焦燥する自分は必死に考えようとした。
しかし、何が出来る訳でも無し。ただただ耐え難きを耐えるだけで時間が過ぎていく。
「っくっ……ふぅっ…………!」
ひとえに、分からないから耐えられていた。手段は思い付く。けれどこうなってしまった身体ではまだ経験した事が無いから、腹奥で溜まった熱を発散するイメージが正確に付かないのだ。
頭が鈍っているせい、というのもあるだろうが、いかんせん発散を任されていた器官は取り除かれてしまっているのは大きかった。さながら蛇口という概念そのものが失われた行き止まりの水道管に水が送り込まれ続けているかの如き状態。
故に、やがて訪れる破綻へ向かって、綻びは段々と無視出来ない有様になっていく。
っ、きたないっ、きもちわるいっ……なめくじかよ、ぼくはっ……。
ある時ぬるりとした足元を見たら、股座から溢れた分泌液が垂れて床に移動した痕跡を残していた。その光景に嫌悪出来ている内はまだまともだと思いたくて、僕は必死に悪態を吐いて、発想する。
そうだ……トイレにすわってすごせばいいんだ……これならすわってられるし、よごさなくてすむ……。
いいアイデアだ、何で考え付かなかったんだろう。などと僅かな歓喜に心躍らせながら、ふらつく身体でトイレを呼び開けて、本を片手に中の便座に腰掛けた。
けれどふとした瞬間、思えばとっくにまともでは無かった事に気付く。それもその筈、耐える為に自分の取った行動の数々は、どれもこれも人間として真っ当な道からはかけ離れていたのだから。
……だったら。
その時、甘えた心の隙間に魔が刺した気がした。いやだめだ、そんなのだめだとすぐに反抗したけれど、震える身体は確実に期待を含んだ行動を始めてしまう。
っ、だめだよね、こんなの……ふかないと……。
ここで寝る訳にはいかないんだ、なんていう今更でズレた意地、もとい建前を作りながら、トイレットペーパーを多めに巻き取り、濡れっぱなしの股座に当てがう。
「んひっ……! っ……!」
ぞくぞくぞわぞわ。いつにも増して深く酔狂な電流が背筋を駆け上がり、身体と声が一緒に跳ねた。快感が滲み出して、忽ち手に取った紙をしっとりと重くする。
「あっ、あてるだけっ、あてて、すわせるだけっ……!」
暫し吸わせ、手元が湿った感触で一杯になったら離す。ふぅっ、と腰が引けて息が漏れると共に、ぬちゃぁっ……。たっぷりの粘液がはしたない糸を引いた。
だめだ、もういっかいっ……。
濡れ紙で糸束を巻き取り、捨てたらもう一度同じ工程を行う。それでダメならまたもう一度。
「はぁっ……! っ、ふっ……ふーっ……ふぅーっ……」
だめだ……ふいてもふいても、おわんない……ぜんぜん、ヌメりけが、おさまらないっ……。
中途半端だった行為が、気分が、回数を重ねる度大胆な方へと傾いていく。そして四度目の紙が湿ったその時、手は煩わしさに耐えかね、くちゅり。股に触れたまま、分泌液を掻き回してしまった。
刹那、腹の奥の熱は荒れ狂い、抑えきれなくなった。「んっ……!」と腰がくの字に折れたのも束の間、勢い良く溢れたかと思えば、キュゥっと収縮。
「っ~~~~!」
その瞬間に雷に撃たれたかの如き衝撃が体内を駆け巡り、肉を震わし、肌を波打たせ、脳髄を白く焼き、尚も収まり切らずに喉から聞き取れない程高い金切り声となって漏れ出す。それが一度じゃ終わらない。キュッ、キュッ、キュッ、収縮は繰り返され、その度心身はバラバラになるのではと錯覚する程の衝撃に晒される。
堪らず口元を手で抑えると涎が端から伝った。真っ直ぐ座って居られなくなり、すぐ隣の壁にゴンと軽く頭を打つ。すると漸く息が吐ける様になって、現象は過ぎ去ったかに思われた。
「ッ……ぁーっ……あ゛ああぁ……!」
しかし、大きな波が通り過ぎただけであり、余波はまだ繰り返し襲い来る。全身は暫し痙攣し、視界は白黒し続ける。僕は肩で息をしながら、ただ落ち着くのを待つ事しか出来なかった。
「はー……っー……ぅ……」
少し経つと、強張っていた身体が弛緩して、壁から少しずり落ちる。すると漸く、息が整ってきた。
────なんだったんだ……いまのっ……。
落ち着いたものの、ぼーっと放心した頭は中々働かず。先の体験が何であったかを理解するのに時間がかかった。
「はぁーっ……はぁー……っ」
そっか……いまの、もしかして……。
じんっ、じんっ。患部は熱を持ち、脈打つ度強烈に痺れて、甘やかな陶酔を齎す。その余韻は中々鎮まらない。
自分の知っている物とは全く異質の体感。だがしかし、恐らく、これこそがオーガズムなのだろう。本能に嫌という程語りかけて来る体感を知識と照らし合わせたら、最早疑い様は無かった。
けれど理解した所で、僕は再び込み上げて来る衝動に戦慄する。
うそ……さっきので、カイショウ、されないの……?
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