【完結】父さん、僕は母さんにはなれません 〜息子を母へと変えていく父、歪んだ愛が至る結末〜

あかん子をセッ法

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6.推定監禁3日目 発熱、優しい幻想

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 穏やかで支離滅裂な夢の連続だった。先日の夢とは違い不思議な程に生々しさは無く、不鮮明で何処か遠くて、けれども異様な幸福感だけはある。そんな夢だ。

 「おーい」

 女の子の呼ぶ声がする。現れるのはもっぱらあの子、サトウさんだ。

 まったくもって、彼女とは親しい訳では無い。僕の一方的で密かな片思いだ。だからきっと、こんなのは全部自分の妄想でしか無いのだろう。
 しかしそれら一切を気にせず、僕は学校で仲睦まじく手を握り合い、デートと称してショッピングモールを歩く。陳腐で、理想的な幻想。

 したかった事が次々と形になる────あくまで、画面の向こうで。

 ドラマティックな二人だけの世界で、唇と唇が重なる。その直前にそう認識してしまった僕は、気付いたにも関わらずその映像の前で不意に劣情を催し、反り勃ち張り詰めた自身の肉茎を握り締めようとした。

 瞬間、その手は空を切り、目が醒める。

 「っ……はぁっ……はぁ……ふぅっ……」

 荒い息、激しい拍動。視界が揺れる中、いつの間にか被せられた掛け布団を退けて、右手の行き先だった箇所を見れば。そこには勃起した陰茎などは無く、つるりともぬるりともしている、浅ましくて虚しい現実の輪郭があった。

 虚脱感と熱ぼったさの中、僕は自分が今寝汗ぐっしょりのベッドの上に居る事を認識し、更に下半身の湿った生暖かさと、つんとしたアンモニア臭に気付いて羞恥する。

 っ、ぅっ…………!

 これが監禁生活三度目の起床だった。



 女性は男性よりトイレが近い、なんてのはよく聞く話だけれど……自分がそうだなんて認めたくない。きっと飲み物に利尿剤でも入ってたんだ、そうだろう。

 初っ端メンタルを削られ悶々とする中、身体を起こして辺りを見回す。また昏睡中に人が入った様だ。散らかした物、汚した物全てが綺麗に片付けられており、ついでにドアの前には水の入ったペットボトルと、コンビニで買ってきたであろう朝食のラインナップが置かれていた。

 っ、寒い……。

 身体の芯は火照ったまま妙な感じだけど、体表は冷感に襲われる。何せ未だ全裸だ、濡れた下半身は特に寒い。

 北風と太陽かよっ……どうしても、僕の判断で着させたいんだな。

 態々ベッドに運んで布団をかけるなんて事をしているのだ。眠っている間に服を着させる事など造作も無い筈。なのにしていない、という辺りに、何か悪辣な意図が感じられて仕方がない。

 何でも思い通りになると思うなよ。

 僕は改めて心を強く保ち、全裸のまま朝食を済ませた。

 尚、食事を終えれば寒さは和らいで気にならなくなる────なんて事はなかった。

 っ……ヤバいっ……震えが止まらないっ……。

 奥歯が微かに打ち合わさってカチカチと音を鳴らす。もしかしたら風邪をひいたのかもしれない。薬の影響と区別が付きにくいけれど、ぼーっとした熱っぽさの中に悪寒が混じってる気がする。

 いや、もしかしたらも何も、こんな環境下で裸のまま過ごしてるんだ。ひいて当たり前だよねっ……っ。

 「うっ……トイレっ……」

 寒いせいですぐ催す。しかも、大きい方も来ているみたいだ。お腹まで冷えてしまったのだろうか。キュルルルル。音を合図に特有の苦痛が増してきた。
 漏らせば惨事だ。僕は必死に声を上げる。

 「トイレっ……トイレ開けてっ……!」

 底意地の悪さを散々垣間見ている故、助け舟は出ないかに思われた。しかし、思いの外すぐ引き摺るような音がして、本棚横の壁が開きトイレスペースが露わになる。

 「っ…………!」

 大慌てで駆け込んで便座に座り込む。そして習慣から不意に開閉部の境目に手を伸ばしたが、掴むところなど何処にも存在せず。「ドアっ、閉めてっ……閉めらないのっ……⁉︎」と困惑した所で限界が来た。

 「ぅっ……!」

 結局、今一つ落ち着かないまま、僕は盛大に汚い水音を立てて大小同時に用を足す事に。

 「……ぅわぁっ…………」

 えも言われぬ恥ずかしさに思わず声を上げて悶える。公開用便な事もあるが、それ以上に、改めて気付かされる感覚の違いが酷く、はしたなく思えて仕方が無い。

 何だこれっ……蛇口が無いせいで、どうしても肌を伝って垂れ流す感じになるっ……!

 思い切って出さなければまともな水流にならず、股筋を伝ってお尻の方へ行ってしまう。正確な意味で、漏らしているみたいだ。

 「ぅっ、はぁっ……!」

 下痢も相まって、臀部表面は不快極まった。凄く貶められた気分だ。

 一体、どこまで人の尊厳を踏みにじれば気が済むんだっ……!

 怒り、恥、寒気、ないまぜになった震えの中、何とか出す物全てが出されて一応の安堵を得る。が、事はここで終わりではない。

 臀部の不快感がどうしようもなくて、僕はウォシュレットのボタンを探す。すると、有難い事に一般的な位置にあったので、特に意図せずいつもの気分でおしりと書かれたボタンを押した。

 駆動音が鳴り、直後、ノズルから尻穴に向けて水が噴射。

 「っ⁉︎」

 当たってすぐ驚いた。これもまた勝手が違う。普段の角度だと、当たった水流が股の方に行ってしまう。
 くすぐったさを感じ、慌てて強さを弱めつつ、腰を前後に動かして上手く当たる様に調整する。すると程なく不快感を洗い流せたので、ボタンを押して水を止めた。

 「……ふぅ」

 一息吐いて視線を上げる。トイレットペーパーも目の前にキチンとあった。いつもの要領で巻き取った後、股の前から尻の下に手を入れて濡れている箇所を拭いていく。

 「くっぅっ………!」

 習慣通りに無心で行おうとしたが、ダメだった。抵抗感、拒絶反応が強い。下半身のシルエットを否が応でも意識させられてしまう。
 無意味に目をギュッと瞑って、身を強張らせながら尻の上に押し当てた紙を這わせる。むにっ、むにっ。筋張った硬さの無い、柔らかな感触が返る。

 筋肉が落ちただけ。それだけなら良い。けど、問題は────

 粗方尻が済んで、いよいよ避けていた股へ差し掛かる。と、濡れた紙が恥丘の輪郭に触れた瞬間、

 「ふひぅっ……!」

 治りかけの傷口を不意に擦った時に近いが少し違う、何とも言えないひり付く様な刺激が走って、ビクンッと、大きく背筋が跳ねた。

 直感した。これは認めた瞬間、重要な何かが一気に瓦解すると。
 故に必死に自分に言い訳する。邪な思いが全く湧かなかったと言えば嘘になるけれど、自分の身体だ。気味の悪さが上回っているし、何より体調が悪い。だから如何わしい反応じゃない、純粋に、くすぐったかっただけだ、と。決して間違いは無い、最もらしい理由を並べて平静を保つ。

 でも、この感じっ……濡れた紙でそわそわして、指で直に触った時よりキツいっ……!

 「うっ……ふっ……!」

 恐る恐るやっているのが余計良くないのかもしれない。思い切れたらもう少しマシな可能性はある。しかし、怖くて出来ない。

 どうにもままならないので、一体世の女性はどうやって普段排泄を済ませているのか、そもそも今の自分の身体は女性のそれといって良いのか等々。仕方の無い事を考えて、うだうだ胸中で文句を吐き捨てながら、どうにかこうにか少しずつ慎重に水気を紙に吸わせていく。と、その最中。

 うぅっ……本格的に悪寒が酷くなってきた……。

 こそばゆさによるぞわりとした震えが身体の芯で残って、重怠い悪寒に変わる。いよいよ気分が悪い。吐き気もする。

 履き物は無いしもういいかとある程度拭けた所で思い至り、便座から立ち上がって水を流した後、トイレスペースからふらりと出て行く。直後に背後で駆動音が鳴り響き、トイレが閉まった。元の本棚横の何も無い壁に戻った様だ。

 どういう仕掛けだまったくっ……ぅっ。

 「っ……けほっ」

 息が苦しい。深めに息を吸ったら咽せるように咳が出た。

 ダメだこれ……きっと熱出てる……。

 脇を強く締め、腕で自身を抱き震えながら小便臭いベッドを目指す。汚いとか言っていられない。布団を被らなければ。

 「こほっ……うぅっ…………」

 倒れ込むようにベッドに転がり込んで布団に包まる。一部少し湿っていて冷たいし臭うけれど、無いよりは遥かにマシだ。

 咳き込みながら薄目で天井を見つめた後、ゆっくりと目を閉じ考える。こういう状況に陥った場合、向こうはどう動くのか、と。
 一応、これだけ手間を掛けてるのだから殺すつもりはないだろう。だから、癪だけどきっと、何処かのタイミングで応急処置に来る筈。

 思考しながらじっと耐える時間が続く。意識は朦朧としていて何度か浅い眠りに落ちるも、すぐ咳き込んで目が醒める。

 ……来ない。

 待てども待てども、何も来ない。何も起こらない。不安になってきた。

 どうしてだ……?

 誰かの助けを望み、縋っては諦めてを繰り返してしまう。ただでさえ弱っていた心が更に弱っていく。

 僕、このまま死んだらどうなるんだろう…………。

 ふと、今と同じ様に風邪をひいて寝込み、ベッドの中たった一人で心細さを抱え涙した幼少の頃と重なって、その時と同じ事を考えてしまった。

 母さん、悲しむだろうな……なんて。今はもう、いないけど。

 あの頃は漠然とそう思えた。けれどその唯一の人は、今はもうこの世に居ない。
 改めてそう思うと無性に切なくなって、涙が溢れて止まらなくなる。

 と、その時。照明が落ちないまま、ぷしゅーっとガスの噴出する音がした。
 まさかこの音で、ほっとするなんて。不覚を恥じる中、フッと意識は途絶えた。



 それから暫し、期間不明の朦朧とした時間が続いた。またしても、と言いたい所だったが、今回感じたのは異常な恐怖や興奮等とは全く異なる、平常の安堵や優しさ、暖かさだった。

 そもそも今までの気色悪い夢とは違い、比較的健全で明瞭な実感があった。常に側に誰かが居て、手を握ってくれた。身体を優しく拭いてくれたし、病衣の様な服まで着せてくれた。
 ふと僅かに醒める時には居なくなっているので、分かるのは朧げな輪郭のみ。何者かは分からない。しかし意識が明瞭でない間は、今までの心細さを埋めるかの如く、常にその存在を近くに感じられた。

 かあ、さん……。

 そんな訳はない。しかし救いを求める心の成せる技か。どうせ幻だと拒絶しつつも、状況が幼少のある時と重なった為か不思議とそう思えてしまって、そう感じる事が何より幸せだと思ってしまった。

 かあさん、おねがい、ずっといて。一人にしないで。

 その想いは胸に仕舞わざるを得なかった。自分から手を伸ばそうとしたけれど動かせず、口にしようとしても、何かに遮られて言葉に出来なかったから。
 諸々全て深く追究する事を避け、僕はその幻想に閉じ籠り、そして癒された。

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