【完結】父さん、僕は母さんにはなれません 〜息子を母へと変えていく父、歪んだ愛が至る結末〜

あかん子をセッ法

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4.推定監禁2日目 前編 拘束解放、部屋の物色

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 「はぁ……ぁ……」

 眠った、起きたという感覚は無かった。あるのはただ薬が抜けたという体感のみ。時間感覚に次いで生物にとって重要な睡眠まで壊されてしまったのだろうか。はっきり分かるのは、ようやく意識が定まったという事だけ。

 こうまでして追い込んで。一体何の目的で……っ、電気が点いてる。眩しい。

 煌々と照らす照明に目を細めたが、瞼を閉じても明るく感じられる。耐え兼ね不意に手を動かした。そこであれ、と気付く。

 っ、もう、縛り付ける必要はない、ってか……そりゃ、いざとなったらガスで眠らせればいいもんね。

 いつからか、どうしてか。理由は分からないけれど、幸いな事に口枷含め全ての身体の拘束が外れていた。輸液パックやそれに繋がる管なんかも跡形も無く片付けられており、視界が些かすっきり、さっぱりしている。

 いや、だったら何でこれまで縛ってたんだ……? 今までは、動かれると困る事があったのか?

 疑問はある。あるけれど、何はともあれ息苦しさと窮屈さから解放されたのは喜ばしい。僕は早速掛け布団を退かし、何度か寝返りを打って固まった身体をバキバキ鳴らしながらほぐした後、手を付きながら徐に重怠い上体を起こす。体力が酷く落ちているらしく、その一連の動作だけでも一苦労で少し疲労感があった。
 それでも何とか起こして、ベッドの上に座ったまま視線を下ろす。すると、さらり。伸びた黒髪が肩を撫でた。

 うっ、ウソ……髪、こんな伸びてんの……?

 どれだけの時間が経っているというのか。分からないが相当だ。毛量があるせいで物理的に頭が少し重く感じる。

 ……現実、なの?

 あり得ない程の変化に息を呑みつつ、下げた視線を改めて股座に向け、まじまじと見て愕然としてしまう。未だ幻覚の続きと思いたいが、やはり無い。十年以上当たり前の様に股間にあった、所謂男のシンボルが見当たらない。

 「うぇっ、すかすかする……って、んん゛っ、なんか、声、変……っ⁉︎」

 発声した瞬間、新たに声変わり前の少年時代の如く高くなった声の変調に気付いたのも束の間。驚いて顔を上げれば、まるで計ったかの如く正面の壁に姿見が置かれていて、そこに痩せこけた裸体を晒す人間が映し出されていた。

 「えっ、僕、こんな……」

 照明に照らされ艶めく伸びた黒髪を肩甲骨の辺りまで降ろしたその姿はまるで女性の様で、一瞬、訳が分からなかった。連動する動きと割とそのまんまなやつれ顔で辛うじて自分だと理解出来たが、それ以外、まるで関連の無い別人にしか見えない。

 なんだこれ……えっ、なんなのこれ……?

 髪の毛を手で撫でる。サラサラしていて、少し良い香りがする。どうやら手入れされているみたいだ。

 きっ、気持ち悪い……いや、違う、それよりもっ……!

 彼方此方疑問符と嫌悪感が尽きないけれど、諸々二の次。見たくは無いが見ない訳にもいかず、恐る恐る股を開く。

 「っ、うわぁっ……」

 何度目を瞬いても変わる事は無い。映るのはやっぱり、太腿の付け根の間には剃られたのか毛の一本も無く、陰茎の影も形も無くなったつるりとした股間だった。
 尚、それだけでも十分ショックだが、更によく観察するとその少し下、陰嚢があった筈の箇所に、淡く白に近い薄桃色をした、縦に付いた皺のない唇の様な膨らみがあるのが目に入る。触れて位置を確認するついでに、その中央の谷間に縦に一本入った切れ込みを指でなぞれば、酷く生々しいこそばゆさが走った。

 っ……! 本当に、自分の身体なの、これ……?

 凄まじいクオリティで再現された、女性の陰唇。より現実味を増す取り返しのつかない空虚な手触りは、場所は違えど心理上の胸に空いた穴と似ている気がした。
 一層の喪失感に襲われてほろほろと涙が溢れ太腿を打つ。ぴちゃり。未だ少しばかり熱ぼったい皮膚に冷感が刺さり、背筋が微かにびくんと跳ねた。

 「っ……うぅ…………」

 悔しさと怒り、恐怖と悲しみ。扱い切れない負の感情が胸中で渦巻き、暫し目を伏せ涙ながらに呻いた。更に、めそめそめそめそ、啜り泣く声はまるで女子のそれで、際限なく気分が悪くなる。

 もう嫌だ……死にたい、死なせて欲しい……。

 元より生きる理由のない人間だ。それだけに、肉体を冒涜された屈辱とあまりの惨めさに心はあっという間にへし折られてしまった。もう立ち上がれる気がしない。絶望に染まって、間も無く涙は枯れ果てる。

 どうやって死のう……どうやって…………。

 自殺方法を考える為、徐に顔を上げて辺りを見回す。ただ目が留まったのは目的のものではなく、またしても花瓶に挿された花だった。

 ……ダメだ。死に切れない。

 刹那、不意に枯れ枝の様な心にふっつと憎悪の火が灯った。

 死ぬなら、その前にあのクソ親父に一矢報いてからだ。

 感情をバネにして立ち上がる。そして、ふらり、ふらり。壁に手を付きながら、おぼつかない脚取りで部屋の物色を開始した。



 尚、やはりと言うべきか。鑑みられる状況は何れも芳しく無かった。

 まずこの部屋の模様の中、最も浮いている冷たい鉄のドア。確認したはいいが、案の定施錠されている。そもそもノブの無い、つんつるてんの扉である。何か小さな投入口として機能しそうな四角い模様が付いているだけで、手が掛かりそうな出っ張りが一切見られない。
 押したり、スライドさせたり。数度試して早々に諦めた。模様すらびくともしなかった。ふうっと一つ息を吐き回れ右した後、ドアを背にして寄りかかる形で一度辺りを見回す。

 ……ほんとに、こうして見ると普通の部屋にも見える。

 無論そうでは無い事は分かっている。次に窓を確認しに行って、それを確信し項垂れた。

 「……はぁ」

 カーテンの先は、磨りガラスの向こうに光源が存在するのみ。せめて鉄格子であれと思ったがそれすら無く、そもそもが窓に見せかけたただの壁の窪みという有様であった。

 推察するに、地下なんだろうなぁ。

 これではここが何処なのか、検討するヒントすら得られない。運ばれている間の意識も全く無かった以上、何処ぞの推理小説やドラマ、アニメなんかの主人公の様に、自分が運ばれている間の情報から現在地を逆算するなんて手段も取れない。

 間違いなく、凄く手の込んだ事をされてる。気が滅入る。

 幾度もはぁ、と震え混じりの吐息が口から漏れる。現状を理解する度、悲壮と恐怖に追い付かれそうになる。脚を止めても迫って来るのに、一体どうしろというのか。

 「はぁっ……っ…………」

 震える身体を押して、兎に角何か状況を良く出来る物は無いか探す事にした。意味のある無しなど考えず、ただ無造作に、空き巣に入った泥棒の如く箪笥の戸棚を開けたり閉めたりして中を確認していく。

 「服だ……けど、これ、女モノ……?」

 全裸で肌寒い今、服は有難い筈だったが、広げて愕然とする。

 「服、服……これも服だ……ぅっ、これっ、女モノの下着⁉︎」

 最初の印象通り、この部屋のコンセプトは女子の一自室で間違いない様だ。幾ら他を探しても、中身は全て女性の衣類で埋め尽くされている。
 ほのかにそれっぽい、懐かしいミルクの様な甘やかで良い香りまでふんわり淡く漂ってくる。触れているだけで言いようの無い禁忌を感じる。こんなの、着られる筈が無い。

 なんなんだこれ……僕を、女の子にしようってのか?

 自らの発想に薄ら寒さを感じてまた身震いした。本当に意味が分からない。いっそただの怨恨で、苦しめる為の拉致監禁であって欲しいけれど、これはダメだ。そうではないと裏付ける要素が、狂気が滲み出ている気がする。

 っ、理解、したくないっ……!

 嫌悪感に耐えかね、またしても心は逃避を選んだ。今すぐここから逃れたい。その一心で震える手で部屋を物色し続ける。クローゼットの中や、小物入れの様な小さな棚の中。ベッドの下等も隈無く覗き、好転材料を探し求めた。

 しかし、見つかる物といえば男の頃には縁の無かった物、気が滅入る様な物や、見たく無かったばかり。

 これは化粧品……これは、生理用品? これも化粧品? これも、これもか……? 

 これでもか、これでもか、と、よく分からないモノだらけ。徐々に考えるのが億劫になっていく中、

 これ、マッサージ器具、じゃ、ないよね……?

 一部目に余る酷い物が混じっていたお陰で、一周回って気分はマシになった。

 はは、この棒状の猥褻物、これなら鈍器に使えるかな。バッテリー充電式みたいだし、解体して罠とか作れないかな。どうせまた入って来るんだろ父さん。はは、ははは。

 否、追い詰められて頭がおかしくなってきただけなのかもしれない。何故こんな物を置いているのか。そんな事これっぽっちも考えず、僕は暴力に思考を逸らして使えそうな物だけ床に転がし笑った。

 「最悪だ、ははは……はぁ」

 一頻り空元気を絞り出したら、くーっと大きくお腹が鳴った。

 そういえば、ここに来てから何も食べてないな……。

 あの大量のチューブの中には栄養剤も含まれていたのかもしれないが、それが無くなった今、僕は食事を摂る必要があるのだろう。

 何でだろ、空腹感が凄く落ち着くや。ああ、喉も乾いてきた。

 久々のまともな感覚に肩を撫で下ろしたその時、ドアの一部分、下の方が突如微かな駆動音をたてながらスライドして開いた。身構えたのも束の間、そこから食事らしき物が出て来て、すぐ閉まる。

 「…………へ?」

 三色サンドイッチに野菜ジュース、そして唐揚げ入りのサラダ弁当だろうか。割り箸まで備え付けられており、コンビニで買って来た事が容易に想像出来るラインナップだった。

 「だっ、ちょっ、おいっ!」

 僕は大慌てでドアの前に駆け寄って叩き叫び、それから聞き耳を立てた。しかし、何も聴こえては来ず。恐らく居たであろうドアの向こうの存在の感知は叶わなかった。

 「くっ……はぁっ……はぁっ……」

 体力が落ちているのか相変わらずすぐ息が切れる。跳ね上がった心拍数を落ち着かせながら、送られた食べ物を見下ろし熟考する。

 タイミングが良過ぎる。監視は……まあされてるんだろうな。

 既に部屋のあちこちを探したが、今までそれらしいカメラは見当たっていない。
 神経質になり過ぎているだけかもしれない。しかし、ここまでされた事を考えると監視カメラが無い方が不自然だ。この部屋の壁は不自然な隙間が多いから、それらの何処かに隠されていてもおかしくないと思う。

 しかし、何故コンビニ飯?

 手に取って確認してみると、冷めた感触が手に伝わって来た。賞味期限が気になるけれど、ラベルは全て丁寧に剥がされており伺い知る事が出来ない。

 買い置きした物を出してる? まあ、手間を考えたらそんなもんか……?

 ただその割には無駄にバランスが考えられていて、こちらの健康状態に配慮している事が窺える。部屋の子綺麗さと同じだ。気味が悪くて仕方が無い。

 それ以前に、百歩譲ってそうでなくとも、得体の知れない相手から送られた物だ。気軽に口は付けられない。安全面でも、プライド的な面でも。
 
 「っ…………」

 僕はぐっと堪え、それを尻目に物色を再開しようとした。が、如何に物が豊富と言えど、既に探せる場所は殆ど探している。これ以上は無駄だ。

 どうしよう、何か工作でも始めるか? でも、監視されてるんだとしたら全部筒抜けだから、大掛かりな物は出来ないしな……。

 それが前提だとするならば、カメラを探して死角に仕掛けを施すか、布団の中で、何か武器を────いや、無理があるだろう。

 強硬策は通用する気がしない。自分で考えていて、そう思ってしまった。
 そもそも元よりこうして自由を与えている時点で、向こうには反撃されないという絶対的な自信があるのだ。ガスで意識が混濁した時以外入室して来ないという懸念も、複数人数である可能性も捨て切れない。

 情報が足りなさ過ぎる。動く為の情報が。

 諦観が心を覆っていく。最中、その気持ちとは全く関係無しに、身体は尿意を催し始める。

 ……そういえば、この部屋トイレが無いのでは?

 嫌な事に気付いた。思えば尿瓶の様な類いも無い。排泄は考慮されてないのか、そんな馬鹿な。

 「おい! 誰か! 居るなら返事してくれ! トイレに行きたいんだ!」

 一時的に外に出してくれたりしないかなどと一縷の望みを抱きつつ、ほんの思い付きでそう言葉を発した。するとその直後、駆動音と共に本棚の横の壁が開いて便座の様な物が存在する小さなスペースが出現。僕は戦慄し絶句した。

 「…………はっ」

 それから僅かな間を経て、震える声を絞り出す。
 
 「あっ、はは……いるんだな」

 何故こんな仕掛けを作っているのかはこの際どうでもいい。今だけなのか、ずっと付きっきりなのか。分からないけれど、確信した。今、まさにドアの向こうに、自分を見ているか、はたまた単純に部屋の前で見張り番をしている存在が居ると。

 「なぁ、だったら答えてくれよ。父さんなのか、それとも他の誰かなのか。目的は、何なのか……!」

 当然答えは返って来ない。部屋の冷たい空気はしんと静まったままだ。

 「なんだよ、いるんだろ? 返事してくれよ……!」

 ここに来て幾度も迎えていた精神的限界。それが今一度振り切れる。「おい! 本当に何なんだよ⁉︎ この部屋、この身体! 元に戻せよ! 外に出してくれよ! おい!」と、爆発した感情のまま、弱々しくも目一杯叫び、強くドアを叩く。が、何を言おうと、何をしようと。うんともすんとも返事は返らず、代わりにトイレの扉が閉まる。

 「っ、そうじゃなくてっ……! 何でも良いからなんか言えよ! なあ! 言ってみろよ! 答えろ! 答えっ……っ、答えろよぉっ……!」

 太腿を熱い液体が勢い良く流れ落ちる感触がしたが、最早気にならなかった。同じく流れる汗と涙が冷たくても、身体の熱は冷めず。ドアを叩いて、叩いて、叩いて叩いて叩いて、狂った様に叫び続けた。体力上そう長くは持たず、喉も手も痛み、減衰していっても。泣き崩れ、力尽きても尚、叩いて、叫んで、また叩いて。

 「ふざけんなっ……答えろっ…………くそっ、くそっ、くそぉっ……!」

 やがて言葉もあやふやになって、声も出なくなる。と、その時。

 『食べなさい』

 何かスピーカーを通したかの様な、微かなノイズ混じりの音声が部屋に木霊し、耳を疑った。

 「えっ……」

 今、一番聴きたくない声だった。聴き間違い? 否、間違える筈もない。回数こそそう多く無いものの、不服ながら昔から馴染みのある声だ。関心をこれっぽっちも抱いていない、父の冷淡な声。

 「はっ……あぁっ……⁉︎」

 尚、それだけだった。以降、どれだけの質問や罵詈雑言を投げ掛けても返事は皆無。僕の言葉や行動は、鉄のドアに跳ね返されるのみに終わった。

 
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