いつも凛々しい救世主少年様は私の前では少女で可愛い

あかん子をセッ法

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プロローグ 美女シスターと美少年(?)司教は廃都で躍る

可愛く着飾るだけの簡単な回復儀式※

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 ゼタが倒れるのはこれが初めてでは無い。この通り、救世主という重い使命を背負い、日々任務を全うする身だ。どうしても限界が来る時がある。

 「…………ごくっ」

 ベッドの上で苦しそうに横たわる彼を前にして、私は一つ息を呑んだ。
 現在、私達の身柄は廃都支部の一室にて保護されている。どうも支部の皆さんは一部始終をしっかり追っていた様で、現金な事に巨大蟒蛇の討伐後すぐ接触を計ってきたのだ。
 何で見ていたなら手を貸さなかったのか、籠っていた理由は何なのか等々、聞きたい事は山程あるが、それら全てを後回しにしてでもやらねばならない事がある。

 「鍵は……しっかり閉まってるよね」

 戸締まり、そして監視の目が無い事を確認後、私は彼の服を脱がして裸体を露わにした。

 「…………やっぱり」

 目の当たりにしたのは、男女が非常に曖昧な状態となった身体だった。日頃鍛えられている筈の肉体が、柔和で丸みを帯びた形に変わっている。胸元は微かに膨らみ、股座には小さな陰茎が付いているにも関わらず、根本に陰嚢はほぼ確認出来ない。

 加護の対価。彼の加護は因果に干渉するだけに対価も特殊だ。現状詳細についてはっきりと分かっている訳では無いが、どうにも払っているのも因果であり、そこには彼の男性としての機能や、男として生きているという存在そのものが含まれているらしい。

 ……今回は結構深刻だな。私の認識上でも、彼が男子なのか女子なのかがあやふやになってる。

 他の加護持ちの聖人達を何人か知っているけれど、大抵はシンプルに身体的な対価を求められるものである。一応これも肉体を対価としていると解釈出来なくもないが、かなり解せない点が多いのは確かだ。

 聖痕も……かなり進んじゃってる感じか、これ。

 彼のシルクの様に綺麗で柔らかな下腹部の肌に刻まれた、白銀に輝く華にも見える不可思議な模様の刻印。以前見た時よりも確実に広がっており、模様自体も複雑化しているのが分かる。

 このままじゃ放っておいても進行するだけだ。こうなってしまった以上、彼には速やかに強めの処置が必要だ。起きてる間より、寝ている間の方が抵抗されずスムーズに済む、という事もある。起きる前にやってしまおう。

 静かな部屋の中、ゴソゴソと荷物が漁られる音が暫し忙しなく立った後、しゅるしゅる……はらり。床に女物の修道服が滑り落ちた。

 「……んふふっ」

 対価によって失われた物は、回復出来る物と出来ない物がある。当たり前の話だけれど、ポピュラーな物で血液なんかは生きてさえいれば簡単に取り戻せるだろう。逆に視力、聴力等、五感の一部を対価とする加護の場合、失い方にもよるが回復は困難だ。その分強力な傾向にあるとはいえ、術者は確実に不便を強いられる。

 「…………んー……」

 では彼の対価である因果の場合はどうか。非常に微妙な所だが、一部回復は可能となっている。

 「っ……いいかんじ……」

 彼のこの状態は、彼自身の男子としての因果の欠乏によって起こる。推測だが、主に過去の該当領域が費やされているせいだ。それによって現在の状態との齟齬が発生して、この様な曖昧な状態になるのだろう。
 で、あればどうするか。答えは簡単。彼に男性的な行動と結果を強制する事で、強引に薄れている因果を補強するのだ。

 「…………んふっ」

 無論、今まで試行して得た結果から推測される後付けの理屈なんだけれど、今男子であれば男子なのだから、という寸法なんだと思う。曖昧である以上、そのどちらか一方であるとはっきりさせる事によって、一応性別の因果は取り戻せる。

 毎度毎度、何処まで戻せているのかは分からないけどっ。

 「……よーし、出来たっ! 完成!」

 出来上がったのは、自作の女性用修道服を着たゼタの姿である。下着までしっかり女性用の物を完備した、所謂女装だ。夜なべして作った最新作だったりする。

 刮目せよ、いつも通りの上品な黒を基調としたデザインに、襟やスカート部分に可愛らしい白のフリルをふんだんにあしらったふんわりトゥニカ(ワンピース型の服)を! 長い黒髪に花飾りが添えられたかの如きウィンプル(ベール状の頭巾)を! げに麗しく、愛らしきかな!

 「ある偉い人はこう言いました。女装は男性にしか出来ない、最高に男性らしい行動であると……んふふっ」

 別にこれはただ趣味でやってる訳では無い。実際にこれで多少男性因果が回復するのは既に何度か実証済みであり、実益を兼ねているのである。
 逆に悪化しそうなモノだけれど、回復してしまうのだから仕方ない。仕方ないのだ。

 個人用の記録端末を用いて、ありとあらゆる角度から撮影し姿形を収めた後、さてと改まる。

 では、ここからは更に各所を隈無く観察、及び触診を────

 「……っ、んんん…………んん?」
 「あっ」
 「ベッドの上か……はぁっ、オネスト。ここは廃都支部の中か? 僕は一体どのくらい寝て……?」

 タイミング悪く目を開け起きた彼は、私と顔が合うなり質問を投げ掛け、そしてすぐさま違和感に気付く。

 「……またか」

 最初の頃は取り乱したのに、すっかり慣れた様子で呆れられた。

 「あっ、あははは……」
 「これはなんなんだ? ……まさか、修道服なのか?」
 「ええ、ご名答です! 流石ですね!」
 「アホか、こんなフリフリで欲に塗れた服の何処が修道服なんだ」

  まっ、マジレスッ……! 最近リアクション薄く
なって来たとは思ってたけど、遂にデザインにダメ出しされたっ……!

 「えぇー……? 初見で言い当ててるんですから、何処がって否定される程じゃないでしょう?」
 「それは僕が君のセンスを知っているからであって……他人から見たら間違いなく別の何かに見えるデザインではないか」
 「何かって?」
 「…………給仕服、とか」
 「あら、またまた御慧眼です。昔の雑誌に載っていた、“メイド服”という給仕服の一種から着想を得ています」
 「成る程、道理でダメな訳だ」
 「ダメなんて事は無いでしょう、可愛いじゃないですか」
 「いや、前にも言ったが可愛ければ何でも許されるものではない。これは制服足り得ない」
 「メイド服は一応制服の類いですよ?」
 「そんな馬鹿な、アホっぽくて着ていて恥ずかしいぞこれ」
 「それが良いんじゃありませんか」
 「良くない、いつものに戻せ。そこに落ちてるだろ」
 「あっ、しまった、夢中でっ……!」
 
 慌てて拾い上げながら、ダメ出しを反芻して少ししょげた後ムッとして膨れる。何というか、流石にちょっと癪に触ったので挑発的に「もしかして、いつものが良いんですか?」と言ってみる。が、彼は表情を変えず「いや、別に」と即答。

 おお、素っ気ない……。
 
 「……効き目は今の方が良かったりするかも」
 「くどいぞ、早くしろ」

 食い下がってみたものの、無体にも彼は今着ている修道服を脱ぎ始めた。あっ、そういえばと気付いたのも束の間、顔を真っ赤にして震え出す。

 「っ、オネスト、きさまっ……!」

 あっ、この顔です。この顔が見たかったんです。

 「? 何のことでしょう?」
 「何かおかしいと思ったらっ……ぱんっ……ブラっ……」
 「ああ、可愛いでしょう?」
 「下着までは手を出すなと言っただろうがあああああああああああああああああああああああああああああ!」

 この後暫く口を聞いてくれなかったのは言うまでもなく、本題の事態収拾が若干遅れたのは反省である。
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