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幕間 病院、初トイレ
しおりを挟む長い間当たり前に出来ていた事が、ある日を境に出来なくなる。そのもどかしさもまた、僕を狂わせる一因になったのかもしれません。
これは入院中、やっと合う薬が見つかって、小便の管が取れたばかりの頃____
「っ……」
病室のベッドの上、重いカラダを起こして、徐に立ち上がろうとする。
「どうしたの? トイレ?」
側に居た母がそう訊いて来たので、こくりと頷きを返す。するとよろけるその身を支える為、付き添ってくれる事に。
「無理しないで、ゆっくり、ゆっくりね」
やっとの思いで辿り着いて、多目的トイレに腰を下ろす。
「何かあったら呼んでね」
母はそう言い残してトイレから立ち去り、スライドドアを閉めた。
しんと辺りが静まる。
「はぁっ……っ、はっ……」
熱い息を吐きながら腰を浮かせ、ズボンとオムツをずり下ろした。
「っ……くぅっ……」
露出した股座が空気に触れてこそばゆさを返す。
でも乾いてます。薬は、効いてるみたい。
しかし、別の問題が。
……これ……どうやって、おしっこすればいいんだろ……。
未だ重い薬が抜け切らない。ボヤけた頭では工夫を考えるまでには至らず、その前に尿が降りて来る。
ぷしっ、しーー…………。
「あっ、ぁ…………」
間も無く、開放感と共に小水が漏れ、便器の中へ不規則に落ちていく。
えっ、なんですか、これ……水流が全くコントロール出来ませんっ。
流れ出る一部の小水が、臀部の方へ伝ってから落ちていってしまう。
不快感で顔が顰む。しかし、なってしまうものは仕方が無く、知識も無い為受け入れる他無かった。
「……くぅっ………」
水流が止まり、尻や股からぽたぽたと水滴が垂れる。得も言われぬ悔しさを噛み締めながら、トイレットペーパーを手に巻き取って濡れた箇所を拭いていく。
「っ、っ……」
こそばゆさで身体が跳ねる。尻から太腿にかけて、触り心地の良い肌を紙でなぞる度、ぞわぞわとした感覚が背筋を走って、股座の方が鋭敏になる。
だめだっ、こわいっ。
シャワーでの気絶が過って、不十分な拭き具合で手が止まった。
薬、効いてても意識するとダメなんですね……大分マシだけど、これじゃ拭けません____あっ。
閃いたのはある種、鈍麻していなければ思い付かなかったであろう手段だった。
そうだ。オムツなんだから、吸わせちゃえばいいんだ。
「っ、よいしょっ……っ」
履いた。濡れたまま、履いてしまった。
……何となく、具合は良くない、ですね。
もう一度脱いだ。
一応吸ってはくれていますね。しかし、少し臭います。
仕方ありません……恥ずかしいですけど、我慢ならない場合は母にオムツの替えを頼みましょう。それで、なんとか。
「……ふぅ」
何とかなる。そう思って一息吐くと、不意に静けさが気になった。途端、邪な考えが過る。
「…………っ」
一度染み付いた習慣のフラッシュバックだった。身体が引っ張られる。うずっ、うずっ。ダボついた患者衣の下、張り詰めた胸の先が主張し疼く。
……ここなら、安心して出来ますね。しかも、この後取り替えるなら____丁度、いいか。
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