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プロローグ 性転の霹靂
しおりを挟むとある高等学校、授業中の教室。
「……ふぁ」
窓際最後列に座る少年は、退屈そうに大きく欠伸をかく。心地良い春の日差しには抗う事叶わず、その耳に最早授業の内容など入って来ていない。
(もう無理……眠)
彼が微睡んだその瞬間だった。景色は突如凍り付き、世界が眠りについた。
____否。その中を動く物体が一つ。人間大のT字型白色物体が音も無く浮遊し、窓の外から教室へ侵入。たった今、身体を机の上に伏せようとしている少年の背後についた。
《……ターゲットを確認。ミッションコードα。これより時空間隔離の下、TSシークエンスを実行します》
宣告直後、物体の面が開き複雑怪奇な機構が露出。中から無数の機械腕を伸ばして少年の身体を捕らえ、引き寄せる過程で制服を脱がし全裸の状態で磔にする。無論少年の時は止まっており、そこに意識の介在する余地は無い。ただ淡々と超常による冒涜的な行為が進んでいくのみである。
《捕縛完了。対象の肉体改変を開始》
機械腕は捕らえた彼の身体を取り囲む様に展開して楕円を形作り、迅速に頭上から足先まで光学スキャン。それを済ませるなり、また異なる種の光を彼の下腹部、胸部を中心に全身へ隈なく照射していく。
光が当たる度、少年の身体は絶え間無く変化する。骨格は徐々に収縮、節が立った部分は滑らかに、全身の筋肉はその輪郭が崩れ柔らかく丸みを帯びていく。他は相対的に細くなるのに対し、胸部、臀部、大腿部は膨らんでそのフォルムを強調し始め、体毛は頭髪、眉を除いて細って抜け落ち、肌はつるりときめ細やかになり光を弾く様になる。集中的に光を当てられ続ける下腹部及び陰部は、腹筋が臍に沿った正中線を残し影を潜め、内部で前立腺が変化して微かに膨らみを帯びていく。同時に陰茎、陰嚢はみるみるうちに縮小。睾丸が体内へ埋没していき、遂には陰嚢のあった箇所は皺も膨らみも縦一本の筋のみを残して失せ、その筋がぷつと割れて陰唇に、陰茎はその割れ目の上部、包皮の中へ収まって、小振りな陰核へと姿を変えた。
《完了。スキャン実行……》
光の線が変わり果てた体表を走った後、忙しなく動いていた機械腕が静かになり、施術は終わりを迎えるかに思われた。
が、しかし。
《複数の項目で数値目標未到達を確認。改変続行》
無機質な機械音声と共に機構は手数を取り戻すだけでなく、その様相を一変させる。
《目標値まで投薬を開始》
すっかり小さくなった股間の突起と、ぷっくり膨れた双丘の上に乗る桜色の小さな突起それぞれに微細な針が突き刺さると共に、膣や肛門、耳と口等女体の主要な穴孔に細く面妖な形状の管が挿入。合わせて仰々しい機構達が密着し柔肌を包んだ。さながら蛹、もしくは棺。しかし、その役割は過激である。
《パルスによる快楽中枢の改変、及び各性感帯の開発を実行》
激しく明滅を繰り返し、少女と化した少年の身体は不規則にビクビクと跳ねた。跳ねるたび身体も少しずつ変化。乳房は更に豊かに膨らみ、尻はハリと艶を増していく。果実が熟れるが如く、しかし幼いままに、健全に、妖艶に。
《……数値目標に到達。現行プロセスを停止》
激しい施術はそこで漸く止まった。
《数千回分のオーガズム蓄積を確認。肉体許容量を大幅に超過している為、生命維持プロセスに移行》
密着している機構が緑色に発光。これまでとは幾分か違う純粋な治癒の光が、これから起こる残酷な結末の輪郭を整えていく。
《……完了。対象の想定バイタル、良好。ミッションの完遂を確認》
宣告。今、少年は終わった。蛹が開かれ、羽を伸ばす寸前の蝶は刹那を取り繕う為だけに、素早くその身を変態前の衣で包まれ、元の体勢へと戻される。
《現場保全完了。当時空間に於ける次元情報の改竄……完了。フィルタリング、正常に作動。タスク完遂を確認。カウント3で隔離を解除します。カウント開始》
T字浮遊体は窓から外に出て忽然と姿を消し、静止した完全なる静寂の中、無機質なカウントのみがその場で木霊する。
《3、2、1……ゼロ》
刹那、大気はどっと賑やかさを取り戻し、教室は他愛も無い授業を再開した。
つつがなく日常が営まれ始める。たった一名を除いて。
「う……あ゛っ…………?」
後方の席故、最初はその異変に誰も気付かない。当の本人でさえ、何が起こったのかまるで分からなかった。
しかし、理解が追い付くその前に、間も無く彼は崩壊する。
「なっ……かっ、は……?」
否、既に崩壊している。これより起こるのはただの余波。
「きゅっ、ううううぅ…………!?」
その身に収まり切らない熱が内から無尽蔵に膨れ上がっていく。それは紛れも無く快感であったが、あまりに過剰で彼には熱としか形容出来なかった。息は一度吸ったきり吸いも吐けもせず、全身が痙縮して机に突っ伏す。瞳は虚ろに揺れ、顔面は紅潮し、開いたまま閉じる事の出来ない口はだらしなく舌を放り出し涎を滴らせる。
あつい。肌に触れる衣服があつい。胸に圧迫感がある。むね? がくるしい。おなかがあつい。こかんがやける。しまる。おなか、きゅうきゅうしまる。なんら、これ、あたまがしびれてろけて、あつい、あついくるしいくるしいあつあああちゅああああああ____
特大の引き波に思考は瞬く間に攫われ、最早抗う事は叶わない。ただ次の瞬間を享受するのみ。
「はっ、あ゛っ……」
くりん。白目を剥いた刹那、遂に熱は器の許容限界を超え、爆ぜた。
「ぅあ゛あ゛あああああああっっっはあ゛ああ゛ああああああ゛あああああああああああああああああああああ‼︎」
一斉に集まる衆目の中、少年は激しく痙攣しながら断末魔を上げる。体液を勢い良く垂れ流しながら、惨めに、盛大に。
「ぁ゛っ! はっはっあ゛っ、あああああっ‼︎ あ゛ぅっ、う゛ぉっお゛おおおおおぉほお゛おおおお!」
腰を引いて椅子を倒し、ずるずると机の下にずり落ちる。それでも尚過剰な快楽の波は押し寄せ続け止まる事を知らず、意識は飛んでは引き戻されてを繰り返しながら遠のいて、丸まった身体が異様な痙攣を繰り返す。
「____! ____」
只ならぬ状況に騒めく周囲の反応も、その中から誰かが駆け寄ってきた事も最早遠い世界の様で、少年は息も絶え絶えに苦しみ悶え、喘いだ末、
「ぉ゛ーーっ…………んぉぉっ…………」
常軌を逸した感覚の奔流に呑まれ、ふっと意識を手放したのだった。
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