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2.短期集中女の子講習 クズ、女の子の努力を学ぶ

身嗜み2

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 そうしてしゅんとして口答えしなくなったクズを相手に、私は改めて話を進めた。

 「先ずは髪の手入れと……スキンケア方法から教えていきたいと思いまーす」
 「いや、服は……? 寒い……」
 「服は後。浴室行くぞ、そこで教えるから。マイは化粧の準備お願い」
 「……必要ですか?」
 「一応教えないとダメだろ、それも終わったら服買いに行くから、一応その辺のリストアップも頼めたりとか……」
 「かしこまりました」
 「ありがと」

 そしてマイに一番大掛かりな部分の準備を取り付けた後、絵面としては違和感しか無いが、彼を浴室に連れ込み、曇り硝子の前に座らせレクチャーを開始した。

 「…………まあ取り敢えず髪洗え」

 と言っても髪の方は寝る前のケアが重要だからこの段階で特に特別話す事は無い。コイツの髪が長いのなら少しは話す事もあっただろうが、アタシと大差無い程度に短いし。既に鏡台に出ているシャンプーとリンスを使わせたが特に問題は無かったので割愛。スキンケアに移る。

 「質問だ。アンタはいつも顔はどうやって洗ってる? まさか普通に石鹸で洗ってたりはしないよな?」
 「っ、舐めてんのか……? 一応オレはモテる為に人より美容には気を遣ってたつもりだ、ちゃんと洗顔剤泡立てて洗ってたぜ」
 「そう。じゃあ、どうやってたかここで見せろ。必要なものは全部ここに揃ってるから、どれが何なのか分からない場合は言いな」

 ガラリ。姿見の側にある棚を開けて見せた。日頃のケアは基本全て浴室で行っている為、洗顔剤に加え化粧水や乳液、美容液、クリーム等々は全てここに揃えている。古くよりマイ監修済みのラインナップなので、足りない物はまず無いと言って良い。

 「……分かったよ。洗顔剤どれ?」

 彼はその品揃えに少し気圧された様に見えたが、自信を崩す迄には至らず。ネットを手に取り洗顔剤を泡立て始めた。

 「ふっふーん……ちゃんと泡立てて、優しく洗うのが基本、だろ?」
 「ああ、そうだな」

 それだけで何故そこまで自信満々なのかは分からないが、不覚にも可愛らしくて我が子が居たらこんな感じなんだろうかとかつい思ってしまった。一抹の情を振り払い、取り敢えず見守る。

 「んで、後は濯ぎも優しく、ぬるま湯で流して……タオルも優しく当てて水気も取る、と。オレ肌弱いからさ、ちゃんと勉強してんのよ。シャワー直で当てない方が良いっての知ってるか?」

 どうやら気を遣っていたというのは本当らしい。一々声高にアピールするのはウザいが、ここまで一応問題無いのは少し賞賛しよう。

 「成る程、洗顔についてはしっかりしている様で何より。では、そこからどうする?」
 「ああ、そりゃ勿論化粧水付けて乳液で保湿だろ? 美容液とかも付けた方が良いか? 生憎オレはそこまでは使って無かったんだわ、普通に肌艶は良いから」

 あー、でもやっぱダメだストレス溜まる。

 「結構。では美容液無しで、やって見せて」
 「いいぜ。あー、コットンとかちゃんと使わないとダメな感じ? 普段は使わないんだが」

 とうとう唯の知ってる自慢になったし。相変わらず隙あらばすぐ話の主導権握ろうとする。

 「勿論、使った方がいいが。使わない場合の肌への刺激はご存知の筈だろ?」
 「ああ、まあね。ただゴミが増えるからさー……女ってほんと、ゴミ増やしたがるよなぁ」

 少女の皮を被った下衆が嗤う。愛らしい顔を醜く歪めて。

 「…………そうだな」

 ほんと何処までも冷めさせてくれる。

 「こういうとこで日々出しちまう細かいゴミの量なんかは、確かに男より多いのかもな」
 「へっ、だよな」
 「でも、ゴミみたいなアンタが日々怠惰に出すビールの空き缶だの煙草だの使用済みコンドームだの……そんな汚ったないゴミよかよっぽど必要な事で出るゴミだ」

 気持ちそのままに冷ややかに言い放って、背後からポンと肩に手を置いてやった。それでバツが悪くなったのか、彼はしどろもどろになってまたああ言えばこう言うモードに入る。

 「っ、タバコとかビールもストレス発散に必要……じゃん?」
 「肌には超絶悪いけどな」
 「っ、オレは、大丈夫だし……」
 「大丈夫、ね……アンタのそれは単に気にしてなかっただけだろ?」
 「……ん、んな事…………」
 「人にもよるだろうけど、アタシ含む大抵の女性達は皆そういうの気にして、毎日頑張ってんだよ……少しでも気付いてたか? そういう女性の地道な努力に」
 「き、気付いてたよ……アイリだって、良く、褒めてあげてただろ……?」
 「そうだったなー、今思えば上辺ばっかだった記憶しか無いけど」
 「ひ、ひどいなー……」
 「酷いのはどっちなんでしょうね……はぁ、手ぇ止まってんぞ、黙ってちゃんとやれ」
 「っ……」

 本性全開だ。知れば知る程嫌になる。疲れる。
 
 その後は此方が睨みをきかせる中、彼はおずおずと化粧水を肌に入れ、保湿液で蓋をする作業をこなした。

 「……先生、保湿出来ました、けど」
 「みたいだな」
 「っ、じゃあ、これでスキンケア講習は終わりだよな。はは、良かったね、教える事そんなに無く、てっ」

 一通り終えた彼ははぐらかし席を立とうとした。しかし、アタシは肩に置いた手に体重をかけてそれを阻止して言う。

 「ああ、安心したよ。知識だけでやっぱり心得がなってなくて」
 「っ!」
 「どうしても面倒なんだろうなぁ、明らかにフェイスラインのケア雑になってたし……はぁ、教える事一杯で先生困って愛想尽かしそうだわほんと……こればっかりは今日一日でどうこうなるもんじゃ無いしなぁ……」
 「ぐっ……んなの女じゃねえし分かるわけっ……ぐっ、うぅ……」

 自分で言って自分で凹んだらしい。そこまで言葉にして、言い淀んで俯いた。

 流石に幼稚過ぎてこれ以上はまともに相手していられない。最後に念押しして言ってやる。

 「ま、体感して学んでいくしかねーか。大丈夫、分かるまで付き合うからさ」

 という事で肌の手入れは一旦終了。浴室から出て、次は化粧についての話へ。
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