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恋と仕事と
第32話
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1/1から1/3まで数話ずつ更新します。〔最新話を読む〕をご利用の場合はご注意ください。
※本日二回目の更新です。
※お詫び
いきなり最終話をアップしていたことが判明し、おわーおわーと焦って、うっかり削除してしまいました(泣)
もう一度下書きには戻せなかった・・・、栞はさんでくださった方、本当に申し訳ないです。
下書きから、もう一度順番どおりに更新できるよう準備をしておりますので、何卒ご容赦下さい。
■□■
恐る恐る乗った昇降機は快適で、あっという間に最上階まで二人を運んだ。
廊下に吐き出された夫妻を、一つの扉に案内するとパスを受け取ったドアマンが、ドア横の金具を動かして差込口を見せてから、差し込んでいく。
カチリ
音がして、鍵が開いたことを教えてくれた。
「すごいな!それは厚紙じゃないのかね」
「それは秘密にございまして」
それまで淡々としていたドアマンへが、初めて申し訳無さそうな顔をする。
「ああ構わないよ、ちょっと聞いただけだからね」
と言いながら、招待状のカードにしか見えないのに鍵としての役割を果たす、初めて見るカードキーに興味津々だった。
部屋に入ると、見たことのない景色が広がっている。
5階まである建物はヤーリッツの知る限り、シルベスにはない。窓から見渡せる街並みに目を瞠り、流れる風を楽しんだ。
「コーテズはとんでもないな」
「そうね、国力の違いを感じさせられるわ」
「それにこんな部屋を押さえているシーズン公爵家がね、規格外過ぎる」
キャメイリアも小さく頷いた。
一息つくと、ふたりは侍従たちを連れ、徒歩で街の散策に出た。
勿論『カメリア』と『カーラ・シーズン』を覗きに。
ホテルにより近いのは『カメリア』の方だ。
うろうろと探さなくとも、店の前に華やかな行列が出来た店を簡単に見つけることができた。
よく見ると行列は二列に分かれており、表側は貴族の侍女のようだが、裏側に並ぶ人々は市井の人々のようだ。
ヤーリッツは気になり、裏側に回ってみて驚いた。
もう一つ店の入口が広がっているのだ。
「あの、こちらは?」
振り向いた女はヤーリッツとキャメイリアをじろじろと見たあとで、素っ気なく言った。
「お貴族様は表口に行ってくださいよ!こっちの入口は平民用だから」
「平民用?」
「そうですよ、こっちは小さく切ってあって、安く買えるようにしてくれてるんだ」
シルベスの王都では貴族街は明確に分けられ、このように混在することはない。
一瞬差別かと思ったが、区別と受け止められているようだ。
「並んでるんですか?」
邪魔と言わんばかりに睨まれ、居心地が悪くなったヤーリッツたちはすぐに道を開けた。
離れて見ていると、次から次から客が並ぶ。
店から出てくる客が、皆うれしそうに笑顔なのが興味深かった。
表側に回ると、こちらはやはり侍女やメイドたちが並んでいる。
しかし店から出て来るときはやはり笑顔を浮かべていた。
ヤーリッツはキャメイリアと離れて列に並んでみることにした。買うだけなので、回転は早い。すぐ店に入ることができ、ショーケースに並べられた菓子たちを見ると、あまりの美しさに目が吸い付いて。
「ピンクフロイリア?」
その美しいピンク色は、花茶の色だろうと気づいて言葉が洩れた。
「はい、ピンクフロイリアでございますね。おいくつになさいますか」
注文したわけではなかったが、そのように聞こえたらしい。
ではと、ヤーリッツは使用人たちの分もと多めに頼んだ。包んでもらう間に他の菓子を見て、少し後悔する。
というのもどれもシルベスではあまり見ないような美しい造形だから。
違うのも買えばよかったと思いながら、菓子が詰められた箱を受け取った。
店を出たヤーリッツは、少々の後悔はありつつも、菓子を手に入れた満足感に満たされている。ガラスに映った自分は微笑みを浮かべていた。
「やっぱりこういう顔になってしまうんだな」
くすりと笑うヤーリッツは、人々に喜びを与えているノアランの仕事が誇らしく思えたのだった。
※本日二回目の更新です。
※お詫び
いきなり最終話をアップしていたことが判明し、おわーおわーと焦って、うっかり削除してしまいました(泣)
もう一度下書きには戻せなかった・・・、栞はさんでくださった方、本当に申し訳ないです。
下書きから、もう一度順番どおりに更新できるよう準備をしておりますので、何卒ご容赦下さい。
■□■
恐る恐る乗った昇降機は快適で、あっという間に最上階まで二人を運んだ。
廊下に吐き出された夫妻を、一つの扉に案内するとパスを受け取ったドアマンが、ドア横の金具を動かして差込口を見せてから、差し込んでいく。
カチリ
音がして、鍵が開いたことを教えてくれた。
「すごいな!それは厚紙じゃないのかね」
「それは秘密にございまして」
それまで淡々としていたドアマンへが、初めて申し訳無さそうな顔をする。
「ああ構わないよ、ちょっと聞いただけだからね」
と言いながら、招待状のカードにしか見えないのに鍵としての役割を果たす、初めて見るカードキーに興味津々だった。
部屋に入ると、見たことのない景色が広がっている。
5階まである建物はヤーリッツの知る限り、シルベスにはない。窓から見渡せる街並みに目を瞠り、流れる風を楽しんだ。
「コーテズはとんでもないな」
「そうね、国力の違いを感じさせられるわ」
「それにこんな部屋を押さえているシーズン公爵家がね、規格外過ぎる」
キャメイリアも小さく頷いた。
一息つくと、ふたりは侍従たちを連れ、徒歩で街の散策に出た。
勿論『カメリア』と『カーラ・シーズン』を覗きに。
ホテルにより近いのは『カメリア』の方だ。
うろうろと探さなくとも、店の前に華やかな行列が出来た店を簡単に見つけることができた。
よく見ると行列は二列に分かれており、表側は貴族の侍女のようだが、裏側に並ぶ人々は市井の人々のようだ。
ヤーリッツは気になり、裏側に回ってみて驚いた。
もう一つ店の入口が広がっているのだ。
「あの、こちらは?」
振り向いた女はヤーリッツとキャメイリアをじろじろと見たあとで、素っ気なく言った。
「お貴族様は表口に行ってくださいよ!こっちの入口は平民用だから」
「平民用?」
「そうですよ、こっちは小さく切ってあって、安く買えるようにしてくれてるんだ」
シルベスの王都では貴族街は明確に分けられ、このように混在することはない。
一瞬差別かと思ったが、区別と受け止められているようだ。
「並んでるんですか?」
邪魔と言わんばかりに睨まれ、居心地が悪くなったヤーリッツたちはすぐに道を開けた。
離れて見ていると、次から次から客が並ぶ。
店から出てくる客が、皆うれしそうに笑顔なのが興味深かった。
表側に回ると、こちらはやはり侍女やメイドたちが並んでいる。
しかし店から出て来るときはやはり笑顔を浮かべていた。
ヤーリッツはキャメイリアと離れて列に並んでみることにした。買うだけなので、回転は早い。すぐ店に入ることができ、ショーケースに並べられた菓子たちを見ると、あまりの美しさに目が吸い付いて。
「ピンクフロイリア?」
その美しいピンク色は、花茶の色だろうと気づいて言葉が洩れた。
「はい、ピンクフロイリアでございますね。おいくつになさいますか」
注文したわけではなかったが、そのように聞こえたらしい。
ではと、ヤーリッツは使用人たちの分もと多めに頼んだ。包んでもらう間に他の菓子を見て、少し後悔する。
というのもどれもシルベスではあまり見ないような美しい造形だから。
違うのも買えばよかったと思いながら、菓子が詰められた箱を受け取った。
店を出たヤーリッツは、少々の後悔はありつつも、菓子を手に入れた満足感に満たされている。ガラスに映った自分は微笑みを浮かべていた。
「やっぱりこういう顔になってしまうんだな」
くすりと笑うヤーリッツは、人々に喜びを与えているノアランの仕事が誇らしく思えたのだった。
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