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恋と仕事と
第12話
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スイーツの店は落ち着いた内装で、家族連れでも来てもらえるようにアルトスが家具も工夫を凝らした。
中でも小さな子どもが座る、ステップと落下防止のバーがついた椅子が秀逸だ。背もたれやバーには可愛らしい動物や花柄が彫り込まれ、座るだけでも楽しい造りになっている。
「子ども用の家具・・・」
貴族の屋敷にはもちろんあるのだが、小さな家具にこのような飾り彫りをしているのは見たことがなかった。
「そうだわ」
小さな子ども連れが来たら運ばせるものだが、店内飲食用のホールの端に最初から置いておくのはどうだろう。
家族連れでなくとも、小さな子どもが身内や親しいとは先にいれば、目につくだろう。
贈答品に選ばれるかもしれない。
子どもの家具は椅子一脚で買っても良いものだ。フルセットで買う家具よりはるかに手を出しやすいだろう。
カーラは自分の思いつきに満足し、アルトスの工房に向かうことにした。
「これはカーラ様」
作業台で小さな小さなベッドを組み立てていたアルトスと弟子たちが立ち上がる。
「気にせずに作業を続けて」
ぺこりと頭を下げた皆が座るのを待って、カーラがなんとアルトスの前にしゃがみこんだ!
「え、カ、カーラ様」
「いいの。ちょっと作業を見たいだけ」
「でしたら、どうぞこれに」
アルトスが椅子を一つ引き寄せて、カーラに押し出した。
貴族のご令嬢にするようなことではないが、背後に控えたエイミも、平民のアルトスの気遣いに目くじらを立てるようなことはしない。
「ありがとう」
にっこりしたカーラは、すんなりと座り直した。
黙々と作業を再開したアルトスの手元を暫く覗いていたカーラが、漸く口を開いた。
「そうやって作っているのね、それは何?」
「これですか?ヤスリですよ。彫ったあとそのままだと怪我をしますから」
ささくれた木目にヤスリを滑らせると、つるりと艶が生まれた。
「つるつるになったわ」
「はい。こうして仕上げております」
その答えにもカーラは満足した。
「アルトス。猫用家具とね、子どもの家具を作ってみてはどうかしら?まずはあのバーがついた椅子を、多めに頼みたいの」
床、天井、壁紙の張り替えと、テーブルセットの搬入が終わり、ホールの端に二つのサイズの可愛らしい子ども用椅子が並んで置かれると、カーラはその前をゆっくりと歩いてみる。
ノアランには相談せず、独断で進めてしまったが、出来映えの良さに頷いた。
それが置かれることで如何にホール内が子どもやその親の目を引くだろうかと考えると、上手くいく想像しか思いつかずに笑いが込み上げてくる。
「ノアラン様にも早くお見せしたいわ」
彼は何と言うだろう、褒めてくれるだろうか?と美しい銀髪を揺らすノアランを思い浮かべたカーラは頬を染めた。
中でも小さな子どもが座る、ステップと落下防止のバーがついた椅子が秀逸だ。背もたれやバーには可愛らしい動物や花柄が彫り込まれ、座るだけでも楽しい造りになっている。
「子ども用の家具・・・」
貴族の屋敷にはもちろんあるのだが、小さな家具にこのような飾り彫りをしているのは見たことがなかった。
「そうだわ」
小さな子ども連れが来たら運ばせるものだが、店内飲食用のホールの端に最初から置いておくのはどうだろう。
家族連れでなくとも、小さな子どもが身内や親しいとは先にいれば、目につくだろう。
贈答品に選ばれるかもしれない。
子どもの家具は椅子一脚で買っても良いものだ。フルセットで買う家具よりはるかに手を出しやすいだろう。
カーラは自分の思いつきに満足し、アルトスの工房に向かうことにした。
「これはカーラ様」
作業台で小さな小さなベッドを組み立てていたアルトスと弟子たちが立ち上がる。
「気にせずに作業を続けて」
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「え、カ、カーラ様」
「いいの。ちょっと作業を見たいだけ」
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貴族のご令嬢にするようなことではないが、背後に控えたエイミも、平民のアルトスの気遣いに目くじらを立てるようなことはしない。
「ありがとう」
にっこりしたカーラは、すんなりと座り直した。
黙々と作業を再開したアルトスの手元を暫く覗いていたカーラが、漸く口を開いた。
「そうやって作っているのね、それは何?」
「これですか?ヤスリですよ。彫ったあとそのままだと怪我をしますから」
ささくれた木目にヤスリを滑らせると、つるりと艶が生まれた。
「つるつるになったわ」
「はい。こうして仕上げております」
その答えにもカーラは満足した。
「アルトス。猫用家具とね、子どもの家具を作ってみてはどうかしら?まずはあのバーがついた椅子を、多めに頼みたいの」
床、天井、壁紙の張り替えと、テーブルセットの搬入が終わり、ホールの端に二つのサイズの可愛らしい子ども用椅子が並んで置かれると、カーラはその前をゆっくりと歩いてみる。
ノアランには相談せず、独断で進めてしまったが、出来映えの良さに頷いた。
それが置かれることで如何にホール内が子どもやその親の目を引くだろうかと考えると、上手くいく想像しか思いつかずに笑いが込み上げてくる。
「ノアラン様にも早くお見せしたいわ」
彼は何と言うだろう、褒めてくれるだろうか?と美しい銀髪を揺らすノアランを思い浮かべたカーラは頬を染めた。
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