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恋と仕事と

第10話

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 ジューモ・トューリス子爵から買い取ったタウンハウスに住まいを移したカーラは、本格的にノアランとのスイーツの店に力を入れ始めた。

 タウンハウスの応接室にカーラとノアラン、それぞれの侍女侍従たちが集っている。

 ノアランが以前持って来た、見た目も味も素晴らしいスイーツの他、カーラの家のパティシエが作ったスイーツをそれぞれ選び、店に並べやすい値段や素材の吟味を終え、今日は最終の試食会。

 今既に『カーラ・シーズン』のカフェで提供されているものもあるが、あくまでもヘアサロンやドレスのアトリエの利用客に寛いでもらうことが主たる目的なので、スイーツの種類が多いとはいえない。
 しかし『カーラ・シーズン』の中でしか味わえないのは勿体ないと思っていたカーラは、ノアランのスイーツの他、新しいレシピも加えて、店とカフェの2か所で展開しようと考えた。

「やっぱりノアラン様のスイーツは華やかですわね!あるだけでテーブルが映えますわ。名前は何にされるかお決めになりましたの?」

 褒められたノアランは、うれしそうに微笑むとコクリと頷く。

「フロイリアにしようかと」
「あのお花の名前でしたわね、フロイリアって」
「はい、あれがなければ作れない菓子ですから」

 カーラの中で、何かが閃いた。
考えをまとめるために黙り込む姿に、ノアランは水をさすことなく見守っている。

「フロイリア、ゼラチン・・・」

 どこかで見たはずのゼラチンのスイーツの絵が、いくつもカーラの脳裏の中を高速で通り過ぎていく。

「あっ!そうだわ!ねえシュリエ」

 今回から参加するパティシエを呼ぶ。

「ねえ、このゼラチン、平らにのばしてあるけど、例えばこの上に固めたゼラチンを刻むとか切り込みをいれたものをね、お花のように立体的に乗せたりはできるのかしら」

 菓子など作ったことのない思いつきを言葉で表現するために、身振り手振りで一生懸命伝えると、シュリエは弾かれたような顔で、すぐ厨房へ踵を返した。

 カップに入ったフルーツジュレを持ち、戻ってくると、フロイリアの上にスプーンでそれを飾り付ける。

「如何でしょうか」
「いいわ!それよ。花茶のジュレがいいと思ったけど、色が違うほうがグラデーションになっていいかもしれないわね」
「後ほど花茶のジュレでも試作してお持ちします」

 ふたりの会話を聞きながら、ノアランは皿を持ち上げ、ジュレで飾られたフロイリアを日に透かしてその色彩を楽しんでいた。

 華やかな菓子であったが、ますます美しくなったフロイリアが、陽射しを受けてキラキラと光を放っている。

「宝石みたいだ」

 溢れた言葉にカーラが反応した。

「ええ本当に!そうだわ、宝石のようなスイーツと噂を流しましょうよ」

 ふふっと口元を上げて。

 とても楽しそうなカーラの微笑みこそが宝石のようだと、ノアランは頬を染めた。

 このあとシュリエは、花茶のジュレを乗せたものとフルーツジュレを乗せたもの、そして花茶のジュレの真ん中にフルーツジュレを置いて、一つのケーキで2色のジュレが彩りを添えたものを試作。
 どれか一つを選びきれなかったカーラとノアランは、フロイリアピンクのようにそれぞれに名をつけて、すべてを売り出すことに決めたのだった。
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