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夢は交錯する

第33話

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 シーズン公爵令嬢の侍女たちは今初めて、ぼんやりと惚けるカーラを見つめていた。

「どうしたらいいかしら」
「ヴァーミル侯爵ご令息をどう思われていらっしゃるのですか?」

 エイミに訊ねられて、カーラは唇をキュッと結ぶ。

「どうって・・・・。美しい方だと思うわ」
「男性に美しいって」
「だって間違ってはいないでしょ?」

 キャメイリアに瓜二つのノアランは、確かに美しい。
艷やかな銀髪、白い陶器のような肌に浮かぶような菫の瞳。月の精とも例えられるシルベス人の特徴的な容貌をしている。

 ─そういえば知り合ったばかりの頃は、ノアラン様との恋に憧れていたわ─

 偽ノーラン・ローリスとの婚約が解消出来そうだと知って、証拠集めに夢中になり、無事に解消した後は店に夢中になった。
 そして今はキャメイリアにも夢中。
ノアランのことを取引先ヴァーミル侯爵令息以外の目で見ること自体、忘れていた気がする。

「いいお話ではございませんか?次男とはいえ侯爵令息ですし。・・・ヴァーミル侯爵家に他の爵位があれば言うことないのですが」

 兄イズトが継ぐシーズン公爵家ではカーラも嫁ぐ身。本人は婚約解消により、仕事で生きたほうが気楽だと頭を切り替えているが、ナラたちは、いやビルスを筆頭にシーズン公爵家はまだ誰もカーラの結婚を諦めていない。優しく想いあえる相手に出逢って幸せになって欲しいと心から願っているのだ。
 しかし相手に爵位がない場合、没落貴族から爵位を買うか、夫婦養子とならねば貴族でいられなくなってしまう。

 (ヴァーミル侯爵令息はそのへんはどうお考えなのかしら)

 ナラが思いつくようなことは、勿論公爵家当主ビルスも確認しているだろうが、こどもの頃に母を亡くしたカーラに寄り添ってきたナラは、誰よりも幸せを掴んでほしいと願っていた。









 数日をかけ、ナラの手紙は無事シーズン公爵家に届けられた。

「ふむ。そうか、シルベスのヴァーミル侯爵家」

 読み終えたビルスはすぐに手の者をヴァーミルに向かわせる手筈を整える。
 そしてコーテズの友好国ベレアに留学中の、カーラの兄イズトにも進捗を報せておく。今のところ予定はないが、もし自分に万一が起きた場合、速やかにイズトに引き継がせねばならないのだから。

 (今すぐにカーラが誰かと婚約するとは言わないだろうが、婚約が早くに結ばれるコーデスでは、国内の有力貴族で相応しい相手を見つけるのは既に至難。
シルベスの貴族なら悪い話ではないな)

 辺境ローリスと接するヴァーミル家と姻戚となれば、ローリスの負担も抑えられ、国王も否とは言わないだろう。

「あとは爵位だな」

 さすがに公爵令嬢のカーラを平民にする気はない。
 それが解決でき、調査結果が良くてカーラも望めば、シーズン公爵家から申し入れてもいいと、先走ってビルスは考えていた。
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