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夢は交錯する
第26話
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ディルドラの自慢気な顔が鏡に映り込んでいる。
それも仕方がないと、さすがのカーラも唸るほどの素晴らしい出来映えだ。
合わせ鏡で見せられた自分の頭に咲き誇る大輪の花は、想像以上の美しさで。どんなアップスタイルも、これほど美しい造形とはならないだろうと思えた。
「如何でしょう?お気に召されましたか」
鏡に気を取られ、ぼんやりしているカーラを引き戻すようにもう一度声がかけられた。
「シーズン様如何ですか?お気に召されましたら、ぜひ貴族のお友だちをご紹介くださいませ」
それを聞いて我に返る。
確かに素晴らしい。ディルドラはすごい技術者だと思うが、それにしても一晩ももたないヘアセットがこんなに高かったら、流石に誰も紹介出来ない。
コーテズの貴族は侍女がヘアメイクからドレスまでを手掛けることが殆どだ。ディルドラほどではなくとも、国王夫妻の前に出ても遜色のない仕上がりにしてくれる優れた侍女も沢山いる。
その牙城を崩そうというのに、ディルドラのような非常識な値段は有り得ない。
─腕はいいけど、欲をかきすぎだわ─
コーテズより物価が安いシルベスでは、トリートメントならまだしも、このフラワースタイルに大枚払う者は・・・
ディルドラが言うよりも、実際はもっと少ないだろう。
それこそ一世一代の結婚式くらい?それでも人気なら今、これほどの閑古鳥が鳴いているはずがない。
─やっぱり高すぎる!─
対面を重んじる貴族が値段のことを言うのは無粋とは思うが、やっぱりこの値段はありえない。
カーラの胸中を知らないディルドラが、外したケープを腕にかけてニカーッと笑った。
─まあいやだ、歯を出して笑ってるわ。私のことがお金に見えるのかしら─
そう思うと、感じたまま褒めるのは癪に障り、努めて淡々と告げる。
「代金を払いますわ」
「は?」
てっきり褒められると思っていたディルドラは肩透かしを食らったように、そう言った。
「だから支払いを」
一切褒めないカーラを信じられないものを見るような目で見つめている。
「せ、先輩!」
トイルの声にハッとし、漸くディルドラは伝票を持ってきた。
エイミが受け取ろうとしたが、カーラが手を伸ばして指で挟んで引き寄せた。
と同時に、目が数字に吸い付ていく。
何故か?聞いていたよりさらに高いから!
「なにこのチップ代金とかサービス料って?シルベスの習慣なの?」
鋭いカーラの目がトイルを見ると、パッと伝票を引ったくったトイルが斜めに確認し、ディルドラに毅然と言い放った。
「ディルドラ先輩っ!先輩だからカーラ様をお連れしたのにこんなことをされては困りますわ!サービス料って何ですの?セット代金にすべて入っているではありませんか!
それにチップって何ですの!技術者から請求するものではありませんよね?放っておいても気に入ればお客様は下さるじゃありませんか!こんなことしているからお客様が来ないのですわよっ!」
トイルは自分の顔に泥を塗られた気がして、怒りが大爆発していた。
それも仕方がないと、さすがのカーラも唸るほどの素晴らしい出来映えだ。
合わせ鏡で見せられた自分の頭に咲き誇る大輪の花は、想像以上の美しさで。どんなアップスタイルも、これほど美しい造形とはならないだろうと思えた。
「如何でしょう?お気に召されましたか」
鏡に気を取られ、ぼんやりしているカーラを引き戻すようにもう一度声がかけられた。
「シーズン様如何ですか?お気に召されましたら、ぜひ貴族のお友だちをご紹介くださいませ」
それを聞いて我に返る。
確かに素晴らしい。ディルドラはすごい技術者だと思うが、それにしても一晩ももたないヘアセットがこんなに高かったら、流石に誰も紹介出来ない。
コーテズの貴族は侍女がヘアメイクからドレスまでを手掛けることが殆どだ。ディルドラほどではなくとも、国王夫妻の前に出ても遜色のない仕上がりにしてくれる優れた侍女も沢山いる。
その牙城を崩そうというのに、ディルドラのような非常識な値段は有り得ない。
─腕はいいけど、欲をかきすぎだわ─
コーテズより物価が安いシルベスでは、トリートメントならまだしも、このフラワースタイルに大枚払う者は・・・
ディルドラが言うよりも、実際はもっと少ないだろう。
それこそ一世一代の結婚式くらい?それでも人気なら今、これほどの閑古鳥が鳴いているはずがない。
─やっぱり高すぎる!─
対面を重んじる貴族が値段のことを言うのは無粋とは思うが、やっぱりこの値段はありえない。
カーラの胸中を知らないディルドラが、外したケープを腕にかけてニカーッと笑った。
─まあいやだ、歯を出して笑ってるわ。私のことがお金に見えるのかしら─
そう思うと、感じたまま褒めるのは癪に障り、努めて淡々と告げる。
「代金を払いますわ」
「は?」
てっきり褒められると思っていたディルドラは肩透かしを食らったように、そう言った。
「だから支払いを」
一切褒めないカーラを信じられないものを見るような目で見つめている。
「せ、先輩!」
トイルの声にハッとし、漸くディルドラは伝票を持ってきた。
エイミが受け取ろうとしたが、カーラが手を伸ばして指で挟んで引き寄せた。
と同時に、目が数字に吸い付ていく。
何故か?聞いていたよりさらに高いから!
「なにこのチップ代金とかサービス料って?シルベスの習慣なの?」
鋭いカーラの目がトイルを見ると、パッと伝票を引ったくったトイルが斜めに確認し、ディルドラに毅然と言い放った。
「ディルドラ先輩っ!先輩だからカーラ様をお連れしたのにこんなことをされては困りますわ!サービス料って何ですの?セット代金にすべて入っているではありませんか!
それにチップって何ですの!技術者から請求するものではありませんよね?放っておいても気に入ればお客様は下さるじゃありませんか!こんなことしているからお客様が来ないのですわよっ!」
トイルは自分の顔に泥を塗られた気がして、怒りが大爆発していた。
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