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婚約者は見知らぬ人

第16話

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 素晴らしい!

 カーラは満面の笑みで宿に戻った。
 明日ローリス家に行って様子を窺って、動くのはそれからだが、何を調べればいいか絞り込むことができたのだから。

 ノーランに会うことが必要だ。
 逆に言えばノーランが不在なら、ローリス家に行っても無駄だろう。

「それならシルベスに行ってみたいわ」

 誰に言うわけでもない呟きに、トイルとエイミが反応する。

「いつ行かれるのでしょうか?私もピンが少なくなってきておりますの」
「まあ、それは大変じゃないトイル!近いうちに絶対に行きましょう!」
「シルベスで買いたいってピンなのですか?」

 エイミが訊ねると、カーラがウンウンと頷き、道具箱を手に取ってトイルに開けるよう促した。

「え?これ見たことがないわ」
「でしょう!先が丸くしてあって、痛くないのよ!」
「だから最近、トイルに髪を任せていらしたのですね!」

 エイミの言葉にトイルが頭を下げる。

「申し訳なく」
「あら、いいのよ。私とナラは護衛侍女で、正直なところ刺繍や髪結いより剣や投擲のほうが得意ですもの。役割分担してもらえるほうが、本来の役目に集中できて有り難いくらいよ」

 そう言いながら布製の花飾りをつけた簪を手に取り、その造作を楽しんでいる。

「可愛い!カーラ様、これ似合いそうですね」
「ありがとうエイミ。ねえ、シルベスってこういうのがもっとたくさん種類があるそうなのよ。行ってみたいわねえ、買い物が止まらなくなりそう!」

 ナラが戻るとさらに賑やかに、如何に美しく髪を纏め上げるか夢中になって話し続けた。




 カーラが辺境ローリスに来て四日目。
 まだローリス家からは何の報せもない。
このまま声がかからないなら、それこそ皆でシルベスに行きたいものだと、ボビンに書状を持たせて出したのだが、土砂崩れは予想以上の規模で手が離れるまで十日以上かかりそうだと、それまで町で待つようにと使いが来た。

「相変わらずだこと。いいわ、そっちがそうなら、こっちも好きなようにしましょ!

いざシルベスへっ!」

 カーラは使いの者に言付けた。

「こんな宿に何もすることなく、あと十日以上も缶詰めでいろなどと酷すぎる!買いたい物があるのでシルベスに行ってくる。十日以内に戻るので話はまたその後で」

 困った顔をして屋敷に戻って行ったが、こちらが毎回書状をしたためているというのに、あちらは使者に口頭で伝達させるだけ。非常事態とはいえあまりに失礼な対応に、カーラも我慢する気は失せていた。

「十日以内に戻ると言っておいたから、早めに出ましょう。こちらの宿はこのまま借りておくわよ」
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