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91話
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「無事摘発となりました、ご協力に感謝いたします」
ドーラスは今イールズ商会でミヒアに報告中だ。
あの裏帳簿を謀反の疑いありと治安部に渡すと、意気揚々とジメンクス伯爵家な乗り込んだ治安部の査察官たちは床下に天井裏は勿論、床に鋲で固定された分厚い絨毯の裏まで引き剥がし、徹底的な家探しをして、とうとういくつかの証拠を見つけ出した。
謀反を立件できるほどではなかったが、金の流れを追ううちにある破落戸に辿り着き、それがホングレイブ伯爵夫妻の死に関わっていること、アレンに毒薬の手配をしたこと、トルグス子爵令息を意図的に賭博に誘い込んで借金まみれにしたことなど、様々な悪事が明らかになった。
「まあ、思っていた以上だわ」
「まったくです。私もここまでとは思わず・・・もっと早くに私たちが動いていれば被害者を少なくすることができたはずだと思うと、慙愧の念に堪えません」
「・・・こういうことは、時が満ちてはじめてわかることもあるから。貴方は力を尽くされましたわ」
慰められても、ドーラスは自分を許せないような気がしていた。
「トリュースも貴方のお陰で救われたと思いますし」
「あ!トリュース、いえトリスタン・ホングレイブのことですが、ご相談がございまして」
窓から入る陽射しが微笑むミヒアを包んで、慈愛に満ちた聖母のような趣きだ。
一瞬見惚れたドーラスだが、そんなタマではないことは、あらゆる関係者を調べまくったドーラスはよく知っていた。
トリュースを気に入っているミヒアから、彼を貰い受けようというのだ。丁寧に、まずはホングレイブ伯爵家の現状から説明を開始した。
「トリスタン・ホングレイブはあれ以降こちらへ顔を出しましたか?」
「いいえ。ただお兄様が捕まったから後処理が大変とは聞いておりますわ」
勿論ドーラスも知っている。
「此度の調査で、ホングレイブ伯爵家現当主ゲイザードがグルプに唆されて、両親と妹の事件に共謀したことが判明し、既に投獄されております。
罪状が罪状なので厳罰は避けられない事態を知った、メルカス公爵閣下の御指図により、ゲイザードからトリスタンに爵位を継承させる手続きをしているところです」
「ま!まあ!メルカス公爵閣下ですって?何故?」
メルカス公爵は前国王の王弟だ。
思いもよらぬ大物が出てきて、流石のミヒアも驚いてしまう。
「メルカス公爵閣下は、ここ数年奥方様のために領地別邸にて静養されていたのですが。
奥方様の御隠れに伴い、こちらに戻られて、ホングレイブ伯爵家が事件に巻き込まれていたことをお知りになられたそうです。
トリスタンの曽祖父が閣下の教育係だったということで、トリスタンの後見を申し出られたと聞いております」
「随分と義理堅い方・・」
ポツッと呟いたミヒアに、表情を変えることなくドーラスは頷いた。
「ええ、閣下は大変な人格者で、またとても面倒見のよい方と知られております。仕えた使用人たちが退職される際には、万一困ることがあったらいつでも戻るよう必ずお声をかけてくださるそうです」
「素敵な方なのですね、そんな方がトリュースの後見・・・」
お気に入りが一気に遠くに行ってしまったことに、ミヒアの寂しそうな顔を見て、これなら自然に諦めるかとドーラスが踏み込んでいく。
「ええ。トリスタンはホングレイブ伯爵となりますので、今後は今までのような仕事や商会の手伝いは難しく」
「そう・・・ですわね。トリュースは領地経営に専念するのでしょうか」
「本人の希望があれば、私の元で文官に採用することも考えております」
緑色のミヒアの瞳がドーラスを捉えた。
「なるほど。でもそれがよろしいでしょうね。私もゲイザード様の罪が暴かれたらトリュースが伯爵を継ぐと思っておりましたから。では私は今後は新たなホングレイブ伯爵様と、他の貴族よりほんの少しだけ昵懇な付き合いをさせていただくことにいたしますわ」
あっさり言われたのでドーラスのほうが驚いた。ドーラスはミヒアがトリスタンに執着していると思っていたのだ。
「トリュースの上司になられるなら、一つお願いがございますの」
キラリと輝いた瞳が、いたずらっぽく笑う。
「トリュース、いえトリスタン様にはまだ婚約者がいらっしゃいませんでしょ?レンラ子爵家のナミリア様をお勧め頂けませんこと?器量もお人柄もよい、私の共同経営者で、本当に間違いのないご令嬢ですのよ」
そう言い切ったあと、ぐいぐいと顔を寄せてきてニヤリと笑うミヒアであった。
ドーラスは今イールズ商会でミヒアに報告中だ。
あの裏帳簿を謀反の疑いありと治安部に渡すと、意気揚々とジメンクス伯爵家な乗り込んだ治安部の査察官たちは床下に天井裏は勿論、床に鋲で固定された分厚い絨毯の裏まで引き剥がし、徹底的な家探しをして、とうとういくつかの証拠を見つけ出した。
謀反を立件できるほどではなかったが、金の流れを追ううちにある破落戸に辿り着き、それがホングレイブ伯爵夫妻の死に関わっていること、アレンに毒薬の手配をしたこと、トルグス子爵令息を意図的に賭博に誘い込んで借金まみれにしたことなど、様々な悪事が明らかになった。
「まあ、思っていた以上だわ」
「まったくです。私もここまでとは思わず・・・もっと早くに私たちが動いていれば被害者を少なくすることができたはずだと思うと、慙愧の念に堪えません」
「・・・こういうことは、時が満ちてはじめてわかることもあるから。貴方は力を尽くされましたわ」
慰められても、ドーラスは自分を許せないような気がしていた。
「トリュースも貴方のお陰で救われたと思いますし」
「あ!トリュース、いえトリスタン・ホングレイブのことですが、ご相談がございまして」
窓から入る陽射しが微笑むミヒアを包んで、慈愛に満ちた聖母のような趣きだ。
一瞬見惚れたドーラスだが、そんなタマではないことは、あらゆる関係者を調べまくったドーラスはよく知っていた。
トリュースを気に入っているミヒアから、彼を貰い受けようというのだ。丁寧に、まずはホングレイブ伯爵家の現状から説明を開始した。
「トリスタン・ホングレイブはあれ以降こちらへ顔を出しましたか?」
「いいえ。ただお兄様が捕まったから後処理が大変とは聞いておりますわ」
勿論ドーラスも知っている。
「此度の調査で、ホングレイブ伯爵家現当主ゲイザードがグルプに唆されて、両親と妹の事件に共謀したことが判明し、既に投獄されております。
罪状が罪状なので厳罰は避けられない事態を知った、メルカス公爵閣下の御指図により、ゲイザードからトリスタンに爵位を継承させる手続きをしているところです」
「ま!まあ!メルカス公爵閣下ですって?何故?」
メルカス公爵は前国王の王弟だ。
思いもよらぬ大物が出てきて、流石のミヒアも驚いてしまう。
「メルカス公爵閣下は、ここ数年奥方様のために領地別邸にて静養されていたのですが。
奥方様の御隠れに伴い、こちらに戻られて、ホングレイブ伯爵家が事件に巻き込まれていたことをお知りになられたそうです。
トリスタンの曽祖父が閣下の教育係だったということで、トリスタンの後見を申し出られたと聞いております」
「随分と義理堅い方・・」
ポツッと呟いたミヒアに、表情を変えることなくドーラスは頷いた。
「ええ、閣下は大変な人格者で、またとても面倒見のよい方と知られております。仕えた使用人たちが退職される際には、万一困ることがあったらいつでも戻るよう必ずお声をかけてくださるそうです」
「素敵な方なのですね、そんな方がトリュースの後見・・・」
お気に入りが一気に遠くに行ってしまったことに、ミヒアの寂しそうな顔を見て、これなら自然に諦めるかとドーラスが踏み込んでいく。
「ええ。トリスタンはホングレイブ伯爵となりますので、今後は今までのような仕事や商会の手伝いは難しく」
「そう・・・ですわね。トリュースは領地経営に専念するのでしょうか」
「本人の希望があれば、私の元で文官に採用することも考えております」
緑色のミヒアの瞳がドーラスを捉えた。
「なるほど。でもそれがよろしいでしょうね。私もゲイザード様の罪が暴かれたらトリュースが伯爵を継ぐと思っておりましたから。では私は今後は新たなホングレイブ伯爵様と、他の貴族よりほんの少しだけ昵懇な付き合いをさせていただくことにいたしますわ」
あっさり言われたのでドーラスのほうが驚いた。ドーラスはミヒアがトリスタンに執着していると思っていたのだ。
「トリュースの上司になられるなら、一つお願いがございますの」
キラリと輝いた瞳が、いたずらっぽく笑う。
「トリュース、いえトリスタン様にはまだ婚約者がいらっしゃいませんでしょ?レンラ子爵家のナミリア様をお勧め頂けませんこと?器量もお人柄もよい、私の共同経営者で、本当に間違いのないご令嬢ですのよ」
そう言い切ったあと、ぐいぐいと顔を寄せてきてニヤリと笑うミヒアであった。
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