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74話 ルピアの願い
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「左様でございましたか・・・」
「あなたはわかってくれるの?」
縋るような視線を送るルピアは、両手を握りしめ、メイドが戻るまでにと息せき切って早口で捲し立てたからだろうか、若干汗ばんでいる。トリュースは相槌を打ち続けた。さらに先を促すように。
しかし残念ながらコツコツと足音が響く。
「戻ってきたわ、ああもっと聞いてほしいことがあったのに、もう話せない。私ここで見張られているのよ」
「えっ?本当に」
「ええ。夫はアレンの又従兄弟なの。ジメンクスから支援を受けているから逆らったりは絶対にしないわ」
考え込んでいたトリュースは顔を上げ、早口で囁く。
「・・・イールズの茶会にお招きしたらいらして頂けますか?」
「え?ええ勿論。イールズ商会とお付き合いできるなら夫や義親もダメとは言わないと思うわ」
コンコンとメイドが扉をノックした。
互いに目配せし、扉が開けられた時はルピアがティーセットに合いそうなカトラリーを見分しているていを装う。
メイドが部屋を出たときには、トリュースの隣に置かれた籠に入っていたラッピングされた箱は、今ルピアのそばに置かれ、すべてリボンが外されている。
淡々としたふたりの様子をちらりと見たメイドは、新しいカップに淹れてきた茶をカチャリと音を立てながらテーブルに置いた。
─夫人が言うとおり、メイドが監視役というところか─
とても貴族家のメイドとは思えないような態度で、じろじろと不躾な視線をぶつけるメイド。
とても不愉快な存在だが、だからといって同じようなことをしては、仕事にならない。
受け流したトリュースは、自分にも出された熱い茶をほんの少し口にしたあと、腰を上げた。
「ありがとうございました。ご馳走になりました」
内心ではムカついているが、白い歯を少しだけ見せた上品な笑顔でメイドに微笑みかけると、ハッとしたメイドが慌てて頭を下げた。
「それでは私はこれにて」
去り際、ルピアの視線は間違いなくトリュースに懇願していた。
たすけて!と。
最後にこくりと頷き返し、確かに伝わったとトリュースはその場をあとにした。
「トリュース、ヨークス男爵家はどうだったの?」
イールズ商会のミヒアの執務室を訪ねたトリュースに投げかけられた、ミヒアの言葉。
「ええ、夫人はやはり両親が急に手のひらを返したと言ってましたよ。不審死を訴えた夫人はアレンの又従兄弟の男爵に嫁に出されて見張られ、たいそう窮屈そうでした。ジメンクスから支援も受けているそうで」
「そう・・・それでは逃げ場がないわね、気の毒に」
「そこでお願いなのですが、イールズ家の茶会に夫人を招いて頂けないでしょうか」
トリュースの思惑を理解したミヒアは、こくりと頷いて大きく息を吐いたあと、トリュースを見る。
黒髪にしたことでかなり地味になったが、優雅にティーカップを持つトリュースは、市井に下りて数年経つとはとても思えない。
─穢れを知らないかのようだわ。そんなことは決してないはずだけれど。不思議な男・・・─
そんなことを考えながら、商会の女主人は聞いた情報を整理していく。
サラサラとペン先が紙を滑る音がする。
「トルグス子爵(ジ)─ヨークス男爵(ジ)」
その繫がりも細かく書き込んで。
「又従兄弟、強固、経済支援あり」と書き足していった。
「あなたはわかってくれるの?」
縋るような視線を送るルピアは、両手を握りしめ、メイドが戻るまでにと息せき切って早口で捲し立てたからだろうか、若干汗ばんでいる。トリュースは相槌を打ち続けた。さらに先を促すように。
しかし残念ながらコツコツと足音が響く。
「戻ってきたわ、ああもっと聞いてほしいことがあったのに、もう話せない。私ここで見張られているのよ」
「えっ?本当に」
「ええ。夫はアレンの又従兄弟なの。ジメンクスから支援を受けているから逆らったりは絶対にしないわ」
考え込んでいたトリュースは顔を上げ、早口で囁く。
「・・・イールズの茶会にお招きしたらいらして頂けますか?」
「え?ええ勿論。イールズ商会とお付き合いできるなら夫や義親もダメとは言わないと思うわ」
コンコンとメイドが扉をノックした。
互いに目配せし、扉が開けられた時はルピアがティーセットに合いそうなカトラリーを見分しているていを装う。
メイドが部屋を出たときには、トリュースの隣に置かれた籠に入っていたラッピングされた箱は、今ルピアのそばに置かれ、すべてリボンが外されている。
淡々としたふたりの様子をちらりと見たメイドは、新しいカップに淹れてきた茶をカチャリと音を立てながらテーブルに置いた。
─夫人が言うとおり、メイドが監視役というところか─
とても貴族家のメイドとは思えないような態度で、じろじろと不躾な視線をぶつけるメイド。
とても不愉快な存在だが、だからといって同じようなことをしては、仕事にならない。
受け流したトリュースは、自分にも出された熱い茶をほんの少し口にしたあと、腰を上げた。
「ありがとうございました。ご馳走になりました」
内心ではムカついているが、白い歯を少しだけ見せた上品な笑顔でメイドに微笑みかけると、ハッとしたメイドが慌てて頭を下げた。
「それでは私はこれにて」
去り際、ルピアの視線は間違いなくトリュースに懇願していた。
たすけて!と。
最後にこくりと頷き返し、確かに伝わったとトリュースはその場をあとにした。
「トリュース、ヨークス男爵家はどうだったの?」
イールズ商会のミヒアの執務室を訪ねたトリュースに投げかけられた、ミヒアの言葉。
「ええ、夫人はやはり両親が急に手のひらを返したと言ってましたよ。不審死を訴えた夫人はアレンの又従兄弟の男爵に嫁に出されて見張られ、たいそう窮屈そうでした。ジメンクスから支援も受けているそうで」
「そう・・・それでは逃げ場がないわね、気の毒に」
「そこでお願いなのですが、イールズ家の茶会に夫人を招いて頂けないでしょうか」
トリュースの思惑を理解したミヒアは、こくりと頷いて大きく息を吐いたあと、トリュースを見る。
黒髪にしたことでかなり地味になったが、優雅にティーカップを持つトリュースは、市井に下りて数年経つとはとても思えない。
─穢れを知らないかのようだわ。そんなことは決してないはずだけれど。不思議な男・・・─
そんなことを考えながら、商会の女主人は聞いた情報を整理していく。
サラサラとペン先が紙を滑る音がする。
「トルグス子爵(ジ)─ヨークス男爵(ジ)」
その繫がりも細かく書き込んで。
「又従兄弟、強固、経済支援あり」と書き足していった。
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