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57話
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ナミリアが帰ったあと。
ロリーンが戻ると、ミヒアに睨みつけられたドレインが小さく肩を竦ませていた。
ナミリアも僅かな間に疲れた顔に変貌したが、こちらは生気を吸い尽くされでもしたかのようだ。
「やぁだ、果物の絞り滓みたいな顔してるわよ」
プッと吹きながら、ロリーンはミヒアの隣に腰を下ろす。
「ナミリアさんは?」
「心が処理しきれなくなったみたいで、帰ったわ。明日私が行くことになってる。
それで?こちらはどんな話なのか要点をまとめて教えてくださらない?」
ミヒアの指先はテーブルをコツコツと叩き続けて、その苛立ちを示しているが、落ち着きを取り戻した低めの声で話し出した。
「じゃあミヒアの姪が最初からナミリア様を狙って、ワンド子爵をけしかけていたのは間違いないのね」
「ええ。本当にあれが血の繋がった身内かと思うと恥ずかしいわ。アレは私が責任持って処理すると約束します」
(処理・・・、処理って?)
声には出さないが、ロリーンとドレインは自然と視線がかち合い、ミヒアにその動揺を知られないようサッと逸らした。
「本当か嘘かはわからないけど、ドレインが言うにはワンド子爵はナミリアさんを害する気はなく、むしろ今はエランディアからナミリアさんをどう守るか考えていて、それでドレインに相談したのですって。この話、ロリーンはどう思う?」
ドレイン・トロワーはテーブルの向こうで、ミヒアに言ったことは本当だと言わんばかりに頭を上下に振っている。
惨めでかわいそうな姿とも言えたが、それはロリーンには保身のあらわれのように見えて、逆鱗に触れた。
「ちょっと、埃が立つから頭振るの止めてよっ!おとなしく審判を待つことね。だいたいあなたが最初につまらない嘘なんかつくから、ナミリア様がいらぬ傷を負うことになったのよ!本当にどうしてくれるの、かわいそうに。泣きたいのはナミリア様なのよ」
ドレインは、それまでは比較的フラットに接していたロリーンが怒り始めて、自分の過ちに気づいたようだ。
「申し訳ない、まったく仰るとおりです。私は間違えました。人として、そして公僕としても」
そう言うと立ち上がり、ミヒアとロリーンに深々と頭を下げる。
「だから、私たちじゃなくナミリア様に謝りなさいよ!」
ロリーンの臍は完全に曲がってしまったようだ。ミヒアがため息をついた。
「はあ。ロリーン、そこは改めて謝罪させればいいわ。これじゃいつまで経っても話しが先に進まないもの」
顔をドレインに向け、ミヒアが話を仕切りだした。
「確認するわよ。まずワンド子爵はエランディアと今もつきあっているの?」
「いえ、足は遠のいています。ナミリア様を想う気持ちは本当なんです」
「そっ。エランディアはジメンクス伯爵の令息が本命というのも間違いないのね」
「はい、先ほどもベリートの話にありましたが、本人は伯爵夫人になるつもりです」
それを聞いたミヒアは眉間に深い皺を寄せ、呟いた。
「分不相応だと骨身に染みるほど思い知らせてやるわ」
その言葉はさっきまで怒り心頭だったロリーンの熱を冷まし、ドレインを震え上がらせるのに十分だった。
ロリーンが戻ると、ミヒアに睨みつけられたドレインが小さく肩を竦ませていた。
ナミリアも僅かな間に疲れた顔に変貌したが、こちらは生気を吸い尽くされでもしたかのようだ。
「やぁだ、果物の絞り滓みたいな顔してるわよ」
プッと吹きながら、ロリーンはミヒアの隣に腰を下ろす。
「ナミリアさんは?」
「心が処理しきれなくなったみたいで、帰ったわ。明日私が行くことになってる。
それで?こちらはどんな話なのか要点をまとめて教えてくださらない?」
ミヒアの指先はテーブルをコツコツと叩き続けて、その苛立ちを示しているが、落ち着きを取り戻した低めの声で話し出した。
「じゃあミヒアの姪が最初からナミリア様を狙って、ワンド子爵をけしかけていたのは間違いないのね」
「ええ。本当にあれが血の繋がった身内かと思うと恥ずかしいわ。アレは私が責任持って処理すると約束します」
(処理・・・、処理って?)
声には出さないが、ロリーンとドレインは自然と視線がかち合い、ミヒアにその動揺を知られないようサッと逸らした。
「本当か嘘かはわからないけど、ドレインが言うにはワンド子爵はナミリアさんを害する気はなく、むしろ今はエランディアからナミリアさんをどう守るか考えていて、それでドレインに相談したのですって。この話、ロリーンはどう思う?」
ドレイン・トロワーはテーブルの向こうで、ミヒアに言ったことは本当だと言わんばかりに頭を上下に振っている。
惨めでかわいそうな姿とも言えたが、それはロリーンには保身のあらわれのように見えて、逆鱗に触れた。
「ちょっと、埃が立つから頭振るの止めてよっ!おとなしく審判を待つことね。だいたいあなたが最初につまらない嘘なんかつくから、ナミリア様がいらぬ傷を負うことになったのよ!本当にどうしてくれるの、かわいそうに。泣きたいのはナミリア様なのよ」
ドレインは、それまでは比較的フラットに接していたロリーンが怒り始めて、自分の過ちに気づいたようだ。
「申し訳ない、まったく仰るとおりです。私は間違えました。人として、そして公僕としても」
そう言うと立ち上がり、ミヒアとロリーンに深々と頭を下げる。
「だから、私たちじゃなくナミリア様に謝りなさいよ!」
ロリーンの臍は完全に曲がってしまったようだ。ミヒアがため息をついた。
「はあ。ロリーン、そこは改めて謝罪させればいいわ。これじゃいつまで経っても話しが先に進まないもの」
顔をドレインに向け、ミヒアが話を仕切りだした。
「確認するわよ。まずワンド子爵はエランディアと今もつきあっているの?」
「いえ、足は遠のいています。ナミリア様を想う気持ちは本当なんです」
「そっ。エランディアはジメンクス伯爵の令息が本命というのも間違いないのね」
「はい、先ほどもベリートの話にありましたが、本人は伯爵夫人になるつもりです」
それを聞いたミヒアは眉間に深い皺を寄せ、呟いた。
「分不相応だと骨身に染みるほど思い知らせてやるわ」
その言葉はさっきまで怒り心頭だったロリーンの熱を冷まし、ドレインを震え上がらせるのに十分だった。
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