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32話
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母テリーエは、ローズリーについては予想通り嫌な顔をしたが、ミヒアとロリーンと娘の女四人で食事と聞くと、うれしそうに即決でイエスと答えた。
食事会はロリーンの新しい屋敷で。
工房の売上が爆増して、十分稼げるようになったロリーンは、夫の存在が不要になったととうとう離縁したのだ。
「私だけのお城へようこそ!」
薄い淡いブルーと白を貴重にまとめた、美しい配色の屋敷はさほど大きくはないが、趣味の良さはさすがのもので、ナミリアたちは屋敷の隅々まで歓声をあげながら歩き回った。
「素敵なお屋敷ですわね」
「ええありがとう!そう言って頂けると本当にうれしいわ」
ロリーンの晴れやかな笑顔が眩しい。
「やっときれいさっぱりになりましたわ!こんなにも気持ちが軽くなるなら、もっと早くにさよならするのでしたわね」
「まあ!そんなに?」
「ええ。迷われている方がいたら、私は別れるべきと背中を押すわ。ああ、ここにはいらっしゃらないわね。ふふふ。さて、そろそろお食事を頂きましょう」
ロリーンの料理人は素晴らしい腕前で、皆が舌鼓を打った。
満足し、やや重くなった腹をさりげなく支えながら、居心地のよい居間へ連れて行かれる。
「さあ、ではナミリア様の例のあのお話しを、じっくりと聞かせて頂きましょう!」
テリーエはちょっと嫌な顔をしたが、まるで浮かれた女子学生の茶会のようなティータイムが始まった。
「先日ナミリアさんにもお話ししたのたけど、家で調べたかぎりでは特に後ろ暗いところはなかったわ」
「ミヒア様が調べてくださったの?うちも夫に調べさせているのだけど」
「何もなかったでしょ!」
いつもは品行方正なナミリアが、口を尖らせて文句を言うのが可愛らしく、ミヒアは口元を緩めて見守っている。
「何もなくても、嫌なものはイヤなの」
「だからそれではローズリー様も直しようがないから止めてと言っているの!」
完全にただの母子ゲンカの様相で、ロリーンはにやにやと楽しげだ。
「テリーエ様、ナミリアさんの言うことにも一理ありますわよ。はっきりしたことやものは何もないとしても、そこまでお嫌なのは、きっとテリーエ様の癇に障る何かがあったはずですもの。思い出してみてくださらない?」
穏やかにミヒアに諭されたテリーエは、視線を天井に走らせながら考え込んだ。
窓からやわらかな陽射しがキラキラ入り込み、テリーエは大きなサンキャッチャーが下げられていることに気がついた。
「きれいね・・・あ」
「思い出しました?」
「そう・・・そうねえ。実は私、ワンド子爵には一度しか会ったことがないのだけど」
「「「えっ?」」」
「そのときなんかニヤついててね、口元から白い歯がキラリとしたのよ。ナミはディルースト様を亡くして深く傷ついているのに、三ヶ月経つかどうかで後釜を狙うように申し込んで来て!厚かましいったらないじゃない」
女性たちは静まり返った。
言いたいことを言ってスッキリした顔のテリーエと、黙り込んだ三人である。
ミヒアはテリーエの言葉に感謝していた。亡くなった息子への思いが、彼女の中に息づいているからこその嫌気と感じたのだ。
ロリーンは、呆れもしたがテリーエの感じた女の勘は自分にも経験があり、意外と当たると考えた。
「今度私の新しい屋敷のお披露目をしようと思うの。そのときにナミリア様はワンド子爵といらしたら?そして私たちに紹介してくださらない?」
「いいわねそれ。私もお招き下さるかしら?」
ナミリアはミヒアとロリーン、母がローズリーを見極めてやろうと手ぐすねを引いているのだと知り、子犬のように懐こいローズリーを気の毒に思いつつ、なんとか乗り越えてくれることを祈るばかりだった。
■□■
いつもありがとうございます。
本日はもう一話、21時更新予定です。
よろしくお願いいたします。
食事会はロリーンの新しい屋敷で。
工房の売上が爆増して、十分稼げるようになったロリーンは、夫の存在が不要になったととうとう離縁したのだ。
「私だけのお城へようこそ!」
薄い淡いブルーと白を貴重にまとめた、美しい配色の屋敷はさほど大きくはないが、趣味の良さはさすがのもので、ナミリアたちは屋敷の隅々まで歓声をあげながら歩き回った。
「素敵なお屋敷ですわね」
「ええありがとう!そう言って頂けると本当にうれしいわ」
ロリーンの晴れやかな笑顔が眩しい。
「やっときれいさっぱりになりましたわ!こんなにも気持ちが軽くなるなら、もっと早くにさよならするのでしたわね」
「まあ!そんなに?」
「ええ。迷われている方がいたら、私は別れるべきと背中を押すわ。ああ、ここにはいらっしゃらないわね。ふふふ。さて、そろそろお食事を頂きましょう」
ロリーンの料理人は素晴らしい腕前で、皆が舌鼓を打った。
満足し、やや重くなった腹をさりげなく支えながら、居心地のよい居間へ連れて行かれる。
「さあ、ではナミリア様の例のあのお話しを、じっくりと聞かせて頂きましょう!」
テリーエはちょっと嫌な顔をしたが、まるで浮かれた女子学生の茶会のようなティータイムが始まった。
「先日ナミリアさんにもお話ししたのたけど、家で調べたかぎりでは特に後ろ暗いところはなかったわ」
「ミヒア様が調べてくださったの?うちも夫に調べさせているのだけど」
「何もなかったでしょ!」
いつもは品行方正なナミリアが、口を尖らせて文句を言うのが可愛らしく、ミヒアは口元を緩めて見守っている。
「何もなくても、嫌なものはイヤなの」
「だからそれではローズリー様も直しようがないから止めてと言っているの!」
完全にただの母子ゲンカの様相で、ロリーンはにやにやと楽しげだ。
「テリーエ様、ナミリアさんの言うことにも一理ありますわよ。はっきりしたことやものは何もないとしても、そこまでお嫌なのは、きっとテリーエ様の癇に障る何かがあったはずですもの。思い出してみてくださらない?」
穏やかにミヒアに諭されたテリーエは、視線を天井に走らせながら考え込んだ。
窓からやわらかな陽射しがキラキラ入り込み、テリーエは大きなサンキャッチャーが下げられていることに気がついた。
「きれいね・・・あ」
「思い出しました?」
「そう・・・そうねえ。実は私、ワンド子爵には一度しか会ったことがないのだけど」
「「「えっ?」」」
「そのときなんかニヤついててね、口元から白い歯がキラリとしたのよ。ナミはディルースト様を亡くして深く傷ついているのに、三ヶ月経つかどうかで後釜を狙うように申し込んで来て!厚かましいったらないじゃない」
女性たちは静まり返った。
言いたいことを言ってスッキリした顔のテリーエと、黙り込んだ三人である。
ミヒアはテリーエの言葉に感謝していた。亡くなった息子への思いが、彼女の中に息づいているからこその嫌気と感じたのだ。
ロリーンは、呆れもしたがテリーエの感じた女の勘は自分にも経験があり、意外と当たると考えた。
「今度私の新しい屋敷のお披露目をしようと思うの。そのときにナミリア様はワンド子爵といらしたら?そして私たちに紹介してくださらない?」
「いいわねそれ。私もお招き下さるかしら?」
ナミリアはミヒアとロリーン、母がローズリーを見極めてやろうと手ぐすねを引いているのだと知り、子犬のように懐こいローズリーを気の毒に思いつつ、なんとか乗り越えてくれることを祈るばかりだった。
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