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30話

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 ディルーストが高みへと旅立って、一年を迎えようという頃。


 ローズリーから頻繁に誘いがかかるようになっていたナミリアは、悪い気はしないものの少々困っていた。

「ローズリー様ってお暇なのかしら」

 ナミリアは今、超多忙なのだ。

 チューラルンゲから連やって来た女工たちが指導と生産の二手に分かれ、工房では早くも糸が作られ始めている。
 女工たちの作る物はもとより一級品質であり、それが輸入品より安いと知った大小様々な商店から、イールズ商会に問い合わせが殺到していた。

 売れるからといって、値をつり上げることはしない。最初から女工たちに十分な賃金を払える設定にしてあり、それでも輸入品よりはるかに安いというだけ。

 反響の大きさに、今はまだ多くの量を作ることはできないが、国内で女工たちを育成していけばいずれは大産業になると、ミヒアたちは踏んでいる。



 大切な働き手の女工たちをしっかり引き留めるため、ナミリアはチューラルンゲ王国に残している女工の家族たちも呼び寄せることにした。
 子が小さい者はイールズ商会の裏に借りた家で子守りが預かり、なんの心配もせずに仕事に打ち込めるよう整えた。

 それを知ったダリアの既知の者が我も我もと集まり始め、あれほど探すのに苦労した採用も、今度はレレランたちがこれ以上は面倒みきれないと音を上げるほど。
採用は一時ストップすることになった。

 仕事をしっかりと教えてもらうことができて、男性並みの報酬を手にでき、しかもこどもも預かってもらえる仕事に就くチャンスは、城の女官にでもならねばありえないこと。

 平民たちには夢のまた夢だった仕事が、イールズ商会にはある。

 採用を取り止めたあとも、工房で働きたいと次の募集を待つ者がいると聞き、ナミリアとミヒア、ロリーンは驚いた。


 糸の生産が軌道に乗り始めると次は機織りだが、こちらはかなり難しいらしく、高級品はチューラルンゲの女工しか織ることができない。

機織りチームに入ったダリアは悔しそうに、機織り機をカタカタさせながら寝食を忘れて取り組んでいた。



「レレラン、みんなの様子はどうかしら」
「ミンナイッショケンメイ、イイカンジ」
「まだレレランたちのようにはできないと思うけど」
「ンー。デキルナンニンカイル」
「え?そうなの?」
「ダイジョブ」

 レレランは指を折り曲げて六人と示してみせた。

「六人も!」
「ソウネ、ミンナガンバッテル」

 レレランが歯をむいて笑う。

 ミヒアの手の者が調べたことを元に立てた計画でも、糸撚りより機織りを覚えることに時間がかかるだろうと、育成にかける時間を長めにみている。
 それよりだいぶ早く仕上がっている者がいると聞いて、ナミリアもうれしくなった。

「ダリアはどうかしら?」
「ダリア、モウスコシガンバルネ」

 レレランは肩を竦める。

 ものすごく頑張っているのはレレランも認めているのだが、その様子に、ダリアは糸チームのほうが向いているのかもしれないとナミリアは感じた。

「ねえレレラン、ダリアのチームを変えたほうがいいかしら」
「ダリア、ソレ、イヤ」

 そしてレレランは「ダリア、アタシニマカセル」と笑った。
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