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19話 ローズリー・ワンド
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ナミリアの新たな挑戦を聞いた母テリーエは、これで娘の婚期は絶望的に遅れると思ったが、夫ジョリーズが勧めるローズリー・ワンド子爵が、これという理由もないのだがとにかく虫が好かなかったので、いつかナミリアが自分で結婚したいと思う相手を見つければいいと頭を切り替えていた。
夫が自分の反対をよそに、密かに見合いを進めているとは知らずに。
ジョリーズは何度も連絡してくるワンド子爵に情が湧いたこともあり、当人たちが気に入ればそれで良いと軽い気持ちでナミリアに顔合わせを持ちかけていた。
テリーエのいないときを狙っては、会うくらいしてみてはどうかとくり返すと、父のしつこさにナミリアも折れて、ローズリー・ワンドがレンラ家を訪ねて来ることになった。
自分の知らぬところで話を決められたテリーエは激怒。
もう四日、ジョリーズを完全に無視していた。
「お母さま、会うだけですから。
嫌ならお断りしていいとお父さまも仰られてますし、大丈夫ですわ」
母を宥めるのだが。
「ナミ、よく聞いて、お母様と約束して頂戴。あなたがミヒア様から頂いた財産とこれから始める事業については、けっして口にしては駄目よ」
「ええ、ミヒア様ともお約束しているし、顔合わせくらいのお相手にそんな大切なことは話さないわ」
「絶対よ!信用してはだめ」
「お母さま、ワンド子爵のことを何かご存知なの?」
「知らないけど、なんとなくよ。虫の知らせとか虫が好かないとか言うでしょう」
なんと漠然としたことを言っているのかと、思わず言いそうになったナミリアはぎゅっと口を噤んだ。
「とにかくお父さまも一度会えば義理も立つと仰っているから」
ミヒアたちに話しておきたかったが、ジョリーズの返事に、即先触れを寄越したワンド子爵のせいで、知らせることすらできなかったのが残念だった。
エーラが腕によりをかけ、ナミリアを磨き上げていく。
美しいブロンドの髪と陶器のような肌、光の加減によってはピンクにも見える赤紫の瞳。
その魅力を引きたてる淡いラベンダー色のドレスを着せられ、レンラ家の庭園でワンド子爵を出迎えた。
「ワンド子爵ローズリーと申します」
「レンラ子爵家のナミリアにございます」
顔を上げ、ローズリーの濃いブラウンの瞳と目が合ったナミリアは、その端正でありながらあたたかみのある容貌に目を奪われた。
ほんのりと笑んでいるローズリーは誠実そうで、アルトの声は聞く者を安心させる。
ディルーストを亡くしてまだ一年も経たないというのに、とてもそんな気にはなれないと思っていたが、心が揺れたナミリアだった。
侍女たちが見守る中、ガゼボに座り、茶を飲みながらゆっくりと話す。
あまりにも急に来訪が決まったせいで、ジョリーズもテリーエもこの場に立ち会うことができなかった。
それもテリーエの癇に障り、やっぱりこの話は気に入らないと怒りつつ、仕方なしに出かけていった。
「今日は一段とお美しいですね」
「お目にかかるのは初めてではございませんか?」
褒められて照れつつ、こんな素敵な男性なら、何処かで会っていれば忘れることはないだろう。
ナミリアは首を傾げる。
「街でお見かけしたことがございます」
「まあ!左様でございましたか」
見かけたくらいで覚えられているのかと思ったら、ナミリアは背筋がもぞもぞとした。
「その時は婚約者とご一緒されていて、素敵なおふたりだと目を惹かれたのです。当時は私も婚約者がおり、おふたりのように仲睦まじくなりたいと思ったものでしたが・・・」
眉間に皺を寄せ、悲しげな顔をしたワンド子爵は、振り切るように先を続けた。
■□■
いつもありがとうございます。
本日は21時にも更新します。
よろしくお願いいたします。
夫が自分の反対をよそに、密かに見合いを進めているとは知らずに。
ジョリーズは何度も連絡してくるワンド子爵に情が湧いたこともあり、当人たちが気に入ればそれで良いと軽い気持ちでナミリアに顔合わせを持ちかけていた。
テリーエのいないときを狙っては、会うくらいしてみてはどうかとくり返すと、父のしつこさにナミリアも折れて、ローズリー・ワンドがレンラ家を訪ねて来ることになった。
自分の知らぬところで話を決められたテリーエは激怒。
もう四日、ジョリーズを完全に無視していた。
「お母さま、会うだけですから。
嫌ならお断りしていいとお父さまも仰られてますし、大丈夫ですわ」
母を宥めるのだが。
「ナミ、よく聞いて、お母様と約束して頂戴。あなたがミヒア様から頂いた財産とこれから始める事業については、けっして口にしては駄目よ」
「ええ、ミヒア様ともお約束しているし、顔合わせくらいのお相手にそんな大切なことは話さないわ」
「絶対よ!信用してはだめ」
「お母さま、ワンド子爵のことを何かご存知なの?」
「知らないけど、なんとなくよ。虫の知らせとか虫が好かないとか言うでしょう」
なんと漠然としたことを言っているのかと、思わず言いそうになったナミリアはぎゅっと口を噤んだ。
「とにかくお父さまも一度会えば義理も立つと仰っているから」
ミヒアたちに話しておきたかったが、ジョリーズの返事に、即先触れを寄越したワンド子爵のせいで、知らせることすらできなかったのが残念だった。
エーラが腕によりをかけ、ナミリアを磨き上げていく。
美しいブロンドの髪と陶器のような肌、光の加減によってはピンクにも見える赤紫の瞳。
その魅力を引きたてる淡いラベンダー色のドレスを着せられ、レンラ家の庭園でワンド子爵を出迎えた。
「ワンド子爵ローズリーと申します」
「レンラ子爵家のナミリアにございます」
顔を上げ、ローズリーの濃いブラウンの瞳と目が合ったナミリアは、その端正でありながらあたたかみのある容貌に目を奪われた。
ほんのりと笑んでいるローズリーは誠実そうで、アルトの声は聞く者を安心させる。
ディルーストを亡くしてまだ一年も経たないというのに、とてもそんな気にはなれないと思っていたが、心が揺れたナミリアだった。
侍女たちが見守る中、ガゼボに座り、茶を飲みながらゆっくりと話す。
あまりにも急に来訪が決まったせいで、ジョリーズもテリーエもこの場に立ち会うことができなかった。
それもテリーエの癇に障り、やっぱりこの話は気に入らないと怒りつつ、仕方なしに出かけていった。
「今日は一段とお美しいですね」
「お目にかかるのは初めてではございませんか?」
褒められて照れつつ、こんな素敵な男性なら、何処かで会っていれば忘れることはないだろう。
ナミリアは首を傾げる。
「街でお見かけしたことがございます」
「まあ!左様でございましたか」
見かけたくらいで覚えられているのかと思ったら、ナミリアは背筋がもぞもぞとした。
「その時は婚約者とご一緒されていて、素敵なおふたりだと目を惹かれたのです。当時は私も婚約者がおり、おふたりのように仲睦まじくなりたいと思ったものでしたが・・・」
眉間に皺を寄せ、悲しげな顔をしたワンド子爵は、振り切るように先を続けた。
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