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13話
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馬車が城に着く頃には落ち着きを取り戻したナミリア。
「取り乱してしまって申し訳ございませんでした」
ハンカチを握りしめた指先が震えている。
「いえ謝ることはないわ。貴族は感情を抑えるのが美徳と言うけれど、私はそうは思わないの。自由にうれしいとか悲しいと感じられる心や感性が良い作品を生み出すと思うから。だから気にしないでいいのよ」
ロリーンはチェルリー伯爵の正妻だが、子がいないため自ら第二夫人にその座を譲り、身分と寝食だけを夫に保障してもらって自由に生きている。
そのためにあえて、チェルリー伯爵夫人ではなく、ロリーン夫人と呼ばせていた。
何にも縛られず、仕事に邁進する彼女だから言えることかもしれないが、それはナミリアには一筋の光のような言葉!
「さあ。お化粧を直してから会場に行きましょう」
(娘がいたら、こんな感じなのかしら)
たくさんの生徒を持つロリーンにとっても、ナミリアは特別な存在となり始めていた。
馬車を降りたふたりは、ロリーンの案内でコンテストの作品が並べられた会場へと向かう。
その道すがら、「どうしてあんなのが銀賞なのかしら、絶対おかしいわよ!」と憤りながら歩く女性ふたりとすれ違った。
「・・・困った方々ね」
「先生、お知り合いですか?」
「いえまさか。知り合いなら挨拶を交わすもの。何処のどなたかは一応知っていますけどね。それにしてもコンテストは王妃様が良いと思われたものが選ばれるのだから、不正もなにもないというのに、あんなことを城内で口にするなんてねえ」
肩をひょいと竦め、ロリーンは前を向いた。
「王妃様はとてもプライドの高い方でいらっしゃるから、あんな勘繰られるようなことはけっしてなさらないわ。よろしくて?」
「はい勿論私もそう思っております」
「よろしい。では会場に行きましょう」
コンテスト会場は、パーティーなどが行われる中規模な広間を利用され、並べられたテーブルには作品の色味に合わせたクロスがかけられて、どの作品も見映えするよう飾られている。
入口のそばにはブロンズ受賞の数点が、奥に行くほど上位の作品だ。
「あったわよ」
真っ白いナミリアのハンカチは、赤い毛氈の上に飾られていた。
「刺繍の美しさとレースの繊細さが素晴らしい」
手書きのカードが置かれていて、覗き込んだロリーンが目を丸くする。
「ねえ、これ王妃様の直筆よ!」
ふたりで顔を寄せ、もう一度覗き込む。
「手が震えます」
「ええ、わかるわその気持ち!ナミリア様のを選んだのは間違いなく王妃様だわ」
「違うこともあるのですか?」
「王女様のときもあるし、女官長のときもあるわよ。よかったわね!コンテストが終わったら、これ戻ってくるのよ。いいわねえ」
「ロリーン夫人にもカードあったのではありませんか?」
「私のときはまだなかったのよ!」
ふて腐ったようにいうロリーンに吹き出しそうになるのを堪え、他の作品も見てみることにした。
銀賞のところに来ると、不思議な作品が置かれている。
「さっきの方たち、きっとこれを言っていたのね」
動物の刺繍なのだが、そのリアルさがまるで飛び出してきそうなのだ。
「うーん。技術はすごいし独創的だけど、ちょっとグロテスクね」
王妃様のカードが置かれ、そこにも技術がすごいと書かれていた。
「これだけ上手いと無視もできないのよ、きっと。でも金賞はあげたくなかったってところかしらね」
「そうかもしれませんね」
ナミリアたちの興味は隣の手袋に移っていった。
「取り乱してしまって申し訳ございませんでした」
ハンカチを握りしめた指先が震えている。
「いえ謝ることはないわ。貴族は感情を抑えるのが美徳と言うけれど、私はそうは思わないの。自由にうれしいとか悲しいと感じられる心や感性が良い作品を生み出すと思うから。だから気にしないでいいのよ」
ロリーンはチェルリー伯爵の正妻だが、子がいないため自ら第二夫人にその座を譲り、身分と寝食だけを夫に保障してもらって自由に生きている。
そのためにあえて、チェルリー伯爵夫人ではなく、ロリーン夫人と呼ばせていた。
何にも縛られず、仕事に邁進する彼女だから言えることかもしれないが、それはナミリアには一筋の光のような言葉!
「さあ。お化粧を直してから会場に行きましょう」
(娘がいたら、こんな感じなのかしら)
たくさんの生徒を持つロリーンにとっても、ナミリアは特別な存在となり始めていた。
馬車を降りたふたりは、ロリーンの案内でコンテストの作品が並べられた会場へと向かう。
その道すがら、「どうしてあんなのが銀賞なのかしら、絶対おかしいわよ!」と憤りながら歩く女性ふたりとすれ違った。
「・・・困った方々ね」
「先生、お知り合いですか?」
「いえまさか。知り合いなら挨拶を交わすもの。何処のどなたかは一応知っていますけどね。それにしてもコンテストは王妃様が良いと思われたものが選ばれるのだから、不正もなにもないというのに、あんなことを城内で口にするなんてねえ」
肩をひょいと竦め、ロリーンは前を向いた。
「王妃様はとてもプライドの高い方でいらっしゃるから、あんな勘繰られるようなことはけっしてなさらないわ。よろしくて?」
「はい勿論私もそう思っております」
「よろしい。では会場に行きましょう」
コンテスト会場は、パーティーなどが行われる中規模な広間を利用され、並べられたテーブルには作品の色味に合わせたクロスがかけられて、どの作品も見映えするよう飾られている。
入口のそばにはブロンズ受賞の数点が、奥に行くほど上位の作品だ。
「あったわよ」
真っ白いナミリアのハンカチは、赤い毛氈の上に飾られていた。
「刺繍の美しさとレースの繊細さが素晴らしい」
手書きのカードが置かれていて、覗き込んだロリーンが目を丸くする。
「ねえ、これ王妃様の直筆よ!」
ふたりで顔を寄せ、もう一度覗き込む。
「手が震えます」
「ええ、わかるわその気持ち!ナミリア様のを選んだのは間違いなく王妃様だわ」
「違うこともあるのですか?」
「王女様のときもあるし、女官長のときもあるわよ。よかったわね!コンテストが終わったら、これ戻ってくるのよ。いいわねえ」
「ロリーン夫人にもカードあったのではありませんか?」
「私のときはまだなかったのよ!」
ふて腐ったようにいうロリーンに吹き出しそうになるのを堪え、他の作品も見てみることにした。
銀賞のところに来ると、不思議な作品が置かれている。
「さっきの方たち、きっとこれを言っていたのね」
動物の刺繍なのだが、そのリアルさがまるで飛び出してきそうなのだ。
「うーん。技術はすごいし独創的だけど、ちょっとグロテスクね」
王妃様のカードが置かれ、そこにも技術がすごいと書かれていた。
「これだけ上手いと無視もできないのよ、きっと。でも金賞はあげたくなかったってところかしらね」
「そうかもしれませんね」
ナミリアたちの興味は隣の手袋に移っていった。
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