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9話
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ナミリアは静かな時間を過ごしていた。
膝にトレを乗せ、刺繍に打ち込んでいる。
最近はレース編みも始めた。
着ることのなかったウェディングドレスを思い出してひとしきり泣いたあと、華麗なレース編みに魅入られたことを思い出したのだ。
いつか刺繍やレース編みをしっかりと習ってみたいと呟くと、聞きつけたテリーエがすぐに講師を探してきてくれた。
「丁寧で細やかで、始めたばかりとは思えませんわ」
講師のロリーンが手放しで褒める。
それは社交辞令などではない。
本物を知るナミリアだからこそで、適当や大雑把は許さず、高い目標を掲げて励んでいるのだ。
「大変よろしい!もう次を教えてもよいでしょう」
進み方も凄まじく早く、普通なら週に一回、一つの編み方を教えるくらいだが。
その吸収の早さに驚いたロリーンの申し出で、ナミリアには週に三回、それぞれ複数パターンを教えている。
勿論その分授業料はかかるが、ミヒアが渡してくれた金を使うのは今だと、贅沢に個人授業を受けていた。
「ありがとうございます。是非よろしくお願いいたします」
ロリーンもナミリアの事情は知っている。
何かに打ち込むことが必要なのだということも。
ナミリアの才能を見抜いたロリーンは、傷ついた、人柄も良い素晴らしい生徒を、自分の手で大切に育てたいと心から考え始めていた。
ジョリーズやロリーンの思惑など知らず、猫の世話と手仕事に打ち込むうち、ナミリアは夜中に嗚咽を漏らしたり、魘されることも少なくなっていく。
穏やかな、ただディルーストだけがいない日々を取り戻していった。
ディルーストの事故からじきに半年が経とうという頃、ロリーンが一つの提案をした。
「王妃様主催のコンテストがあるの。よかったら何か出してみてはどうかしら」
「王妃様のコンテストですか?そんな、私なんてまだまだですわ」
「いいのよそれで。伸びしろのある人を見つけるための機会ですもの」
「伸びしろ?」
「そうよ。私も若い頃は何度も出品したものよ。最高でも銀賞だったけれど。それでも何かの賞を獲ると王妃様の後援が受けられて、こうして講師をやれたり、工房を開いたりできるの。一度で入賞する人はめったにいないから、皆、みんな賞をとれるように何度も挑戦するのよ」
正直働かずとも、また嫁ぐことなく何人か使用人を雇っていても、贅沢をしなければ一生暮らせるくらいの金をミヒアから貰っており、ただ自分の何かを埋めるために習い始めたものだが。
その話を聞いたとき、ふとディルーストならやってみればと勧めたに違いないと、そんな気がして。
じわりと涙がこみ上げるのを俯いて誤魔化し、考えてみるとだけロリーンに答えた。
レース編みはまだまだだ。
だがロリーンの話で、ナミリアはあるモチーフを思いついた。
宝箱の中に入れてある押し花。
ディルーストが髪に挿してくれた大切な花の図案をハンカチに刺繍し、まわりを花びらのようなレースで飾ってみたくなった。
下絵は記憶の中の咲き誇る花を。
レースの花びらは自分で編み図を考えて、ロリーンには暫く秘密に、取り組んで。
何度もやり直して出来上がったそれは、ナミリアの目にもかなりの仕上がりに見えた。
膝にトレを乗せ、刺繍に打ち込んでいる。
最近はレース編みも始めた。
着ることのなかったウェディングドレスを思い出してひとしきり泣いたあと、華麗なレース編みに魅入られたことを思い出したのだ。
いつか刺繍やレース編みをしっかりと習ってみたいと呟くと、聞きつけたテリーエがすぐに講師を探してきてくれた。
「丁寧で細やかで、始めたばかりとは思えませんわ」
講師のロリーンが手放しで褒める。
それは社交辞令などではない。
本物を知るナミリアだからこそで、適当や大雑把は許さず、高い目標を掲げて励んでいるのだ。
「大変よろしい!もう次を教えてもよいでしょう」
進み方も凄まじく早く、普通なら週に一回、一つの編み方を教えるくらいだが。
その吸収の早さに驚いたロリーンの申し出で、ナミリアには週に三回、それぞれ複数パターンを教えている。
勿論その分授業料はかかるが、ミヒアが渡してくれた金を使うのは今だと、贅沢に個人授業を受けていた。
「ありがとうございます。是非よろしくお願いいたします」
ロリーンもナミリアの事情は知っている。
何かに打ち込むことが必要なのだということも。
ナミリアの才能を見抜いたロリーンは、傷ついた、人柄も良い素晴らしい生徒を、自分の手で大切に育てたいと心から考え始めていた。
ジョリーズやロリーンの思惑など知らず、猫の世話と手仕事に打ち込むうち、ナミリアは夜中に嗚咽を漏らしたり、魘されることも少なくなっていく。
穏やかな、ただディルーストだけがいない日々を取り戻していった。
ディルーストの事故からじきに半年が経とうという頃、ロリーンが一つの提案をした。
「王妃様主催のコンテストがあるの。よかったら何か出してみてはどうかしら」
「王妃様のコンテストですか?そんな、私なんてまだまだですわ」
「いいのよそれで。伸びしろのある人を見つけるための機会ですもの」
「伸びしろ?」
「そうよ。私も若い頃は何度も出品したものよ。最高でも銀賞だったけれど。それでも何かの賞を獲ると王妃様の後援が受けられて、こうして講師をやれたり、工房を開いたりできるの。一度で入賞する人はめったにいないから、皆、みんな賞をとれるように何度も挑戦するのよ」
正直働かずとも、また嫁ぐことなく何人か使用人を雇っていても、贅沢をしなければ一生暮らせるくらいの金をミヒアから貰っており、ただ自分の何かを埋めるために習い始めたものだが。
その話を聞いたとき、ふとディルーストならやってみればと勧めたに違いないと、そんな気がして。
じわりと涙がこみ上げるのを俯いて誤魔化し、考えてみるとだけロリーンに答えた。
レース編みはまだまだだ。
だがロリーンの話で、ナミリアはあるモチーフを思いついた。
宝箱の中に入れてある押し花。
ディルーストが髪に挿してくれた大切な花の図案をハンカチに刺繍し、まわりを花びらのようなレースで飾ってみたくなった。
下絵は記憶の中の咲き誇る花を。
レースの花びらは自分で編み図を考えて、ロリーンには暫く秘密に、取り組んで。
何度もやり直して出来上がったそれは、ナミリアの目にもかなりの仕上がりに見えた。
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