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第60話
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ビュワードが提案したスミール伯爵領への支援は順調に進んでいる。
アクシミリオはスミール芋農家の経済的な体力を底上げする支援策として、スミール伯爵家とは別に、ミリタス侯爵家から三年間無償で肥料を配布すると決めた。
すると支援策を施した初年度から収穫量が増えた上、保管方法の見直しで廃棄されるスミール芋が減ったので、その分ミリタス侯爵領での流通量が大幅に増やされた。
支援への見返りに他より安価で購入する協定を結んだので、手頃な価格で芋が買えるようになった領民から大好評を得るようになり、アクシミリオは早速それが次期侯爵配ビュワード・スミールの手腕によるものだと噂を流す。
すると当然、ゴールディア様は素晴らしい旦那様をお迎えになる、我らは安泰だ!と領民たちの侯爵家への支持はウナギ登りになった。
「最近、ユワ様の人気がすごいのですわ」
父の執務室に顔を出したゴールディアがうれしそうに話す。
ふたりで領内に視察に行くと、ビュワードに声をかける者が格段に増えたと。
「スミール芋のこと、ユワ様のお手柄とお話くださっているの、お父様でしょう?」
「本当のことだからな!スミール芋が安く買えるようになってみんな喜んでいる。うちでも完璧な保管倉庫を作ったから、これからは季節関係なく安定した値段で民にも食べさせてやれるぞ」
「まあ、倉庫ですって?いつの間に?どこにお建てになったの?」
「ふふふ。驚かせようと思ってな、こっそり建てさせていたんだよ。あとでお披露目するから場所はそれまで秘密だ。楽しみに待っていてくれ」
そんな風に浮かれているのはミリタス家だけでない、スミールの民からもビュワードの評価は高まる一方。
というのもミリタスの支援が入ったことで、芋農家だけではなく、他の領民にもチャンスが訪れたから。
例えば農閑期に農家の女性たちが織り上げる布は、スミールの中で自分たちの普段着に使われていた。
芋を受け取りにミリタスの馬車が来たとき、偶々反物に気づいた御者が一反買い求め、アクシミリオに布とともに報告した。
その布を見たアクシミリオは即座に、正式にスミール伯爵家に商取引を申し入れる。
薄いのに暖かいその布は、農家の女性が動きやすい上に体を温めてくれる優れもので、スミール芋に付く虫が吐き出す糸を撚り織ったもの。艶はないが、すべすべと肌触りもよいそれを格別に気に入ったアクシミリオは、他にも売れる物があるのではないかと、陸路運送で各地を回る御者たちに号令がかけられたほど。
因みに名もなかったスミール芋虫の布は、簡単にスミール布と名付けられ、騎士たちの鎧の下のインナーに大変に重宝されることになる。
売れるとわかったスミールの女性たちは、芋につく虫をせっせと採取して糸を吐かせては、余暇に織り上げるようになった。
十反も売れば、平民のこどもが公立の学校を卒業するまでの学費になるほどの高値で売れるのだから。
スミールの領民は俄然活気づき、その縁をもたらした次期スミール伯爵ビュワードの人気はさらに高まっていく。
そんなこんなで、いろいろと準備が整った春のある日、いよいよゴールディアとビュワードの結婚式を迎えた。
______________________
いつもご愛読ありがとうございます、残すところ三話となりました。
最後までよろしくお願い致します。
アクシミリオはスミール芋農家の経済的な体力を底上げする支援策として、スミール伯爵家とは別に、ミリタス侯爵家から三年間無償で肥料を配布すると決めた。
すると支援策を施した初年度から収穫量が増えた上、保管方法の見直しで廃棄されるスミール芋が減ったので、その分ミリタス侯爵領での流通量が大幅に増やされた。
支援への見返りに他より安価で購入する協定を結んだので、手頃な価格で芋が買えるようになった領民から大好評を得るようになり、アクシミリオは早速それが次期侯爵配ビュワード・スミールの手腕によるものだと噂を流す。
すると当然、ゴールディア様は素晴らしい旦那様をお迎えになる、我らは安泰だ!と領民たちの侯爵家への支持はウナギ登りになった。
「最近、ユワ様の人気がすごいのですわ」
父の執務室に顔を出したゴールディアがうれしそうに話す。
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「スミール芋のこと、ユワ様のお手柄とお話くださっているの、お父様でしょう?」
「本当のことだからな!スミール芋が安く買えるようになってみんな喜んでいる。うちでも完璧な保管倉庫を作ったから、これからは季節関係なく安定した値段で民にも食べさせてやれるぞ」
「まあ、倉庫ですって?いつの間に?どこにお建てになったの?」
「ふふふ。驚かせようと思ってな、こっそり建てさせていたんだよ。あとでお披露目するから場所はそれまで秘密だ。楽しみに待っていてくれ」
そんな風に浮かれているのはミリタス家だけでない、スミールの民からもビュワードの評価は高まる一方。
というのもミリタスの支援が入ったことで、芋農家だけではなく、他の領民にもチャンスが訪れたから。
例えば農閑期に農家の女性たちが織り上げる布は、スミールの中で自分たちの普段着に使われていた。
芋を受け取りにミリタスの馬車が来たとき、偶々反物に気づいた御者が一反買い求め、アクシミリオに布とともに報告した。
その布を見たアクシミリオは即座に、正式にスミール伯爵家に商取引を申し入れる。
薄いのに暖かいその布は、農家の女性が動きやすい上に体を温めてくれる優れもので、スミール芋に付く虫が吐き出す糸を撚り織ったもの。艶はないが、すべすべと肌触りもよいそれを格別に気に入ったアクシミリオは、他にも売れる物があるのではないかと、陸路運送で各地を回る御者たちに号令がかけられたほど。
因みに名もなかったスミール芋虫の布は、簡単にスミール布と名付けられ、騎士たちの鎧の下のインナーに大変に重宝されることになる。
売れるとわかったスミールの女性たちは、芋につく虫をせっせと採取して糸を吐かせては、余暇に織り上げるようになった。
十反も売れば、平民のこどもが公立の学校を卒業するまでの学費になるほどの高値で売れるのだから。
スミールの領民は俄然活気づき、その縁をもたらした次期スミール伯爵ビュワードの人気はさらに高まっていく。
そんなこんなで、いろいろと準備が整った春のある日、いよいよゴールディアとビュワードの結婚式を迎えた。
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