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第58話 閑話 スミール伯爵家
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「やっと私を次期スミール伯爵に決められたのですね!」
激しい思い込みで勝手なことをのたまうトリードにドレドは思わず叫ぶ。
「この馬鹿者っ!後継者はビュワードだ、王命も下りているんだからな!お前を呼んだのは、一向におまえの成果の報告がないからどうなっているのか確かめるためだ!」
怒りで頭から湯気が出るというのを、ドレドは人生で初めて経験していた。
「おまえ、ほんの少しでもビュワードに悪かったと、反省の気持ちはないのか?あったら次期スミールに己がなれるなど微塵も思うわけがない」
きょとんとしたトリードは、クスッと笑うと眉尻を下げた。
「でもあれはアニタに騙されたからですよ!私は幼気な子供に過ぎなかったというのに!それなのに私は退学させられ、見習い文官などにされて、次期伯爵の座も失った!もう十分に償った、いや十分過ぎるほどに償わされました。あまりにも酷すぎますよ!
卑怯なあいつは侯爵配になるのだから、取り上げられたものはすべてこの手に返されるのが、当然じゃありませんか?」
学院で謝罪したときはそれなりに反省していたはずだったが、喉元過ぎれば熱さを忘れ、自分に都合よく記憶をすり替えている。今ではビュワードに恨みの念さえ抱いているようなトリードに、ドレドは怖気を感じた。
「償わされただと?返されるのが当然?一体どの口でそんなことが言えるのだトリード。おまえは弟とこのスミールの家名を貶めたのだ。本来なら放逐されてもおかしくなかったのを、温情で文官にした。わかっていないのか?
感謝して文官として真面目に領地領民に尽くせ」
低い声が冷たく響く。
「っ!そんなっ!あいつは婿入りするんだ、それならスミール伯爵は私が継ぐべきだっ」
「既に国王陛下が認められた後継者を私如きが翻すことなど出来るわけがない。領地経営はミリタスから支援が来るし、おまえに心配されなくとも問題はない」
トリードの目が怒りに据わり、ドレドを睨みつける。
「なんだ、今度は私に逆恨みか?
こどもの虐待は重大犯罪だ。貴族であれば負う罪もそれだけ重くなる。まさか知らないわけではあるまいな?
おまえとアニタのせいで、スミール家は王家に多額の罰金を払ったのだぞ!アニタは今もまだ牢獄にいるそうだ、汚らしいなりでな。未成年だったおまえは、廃嫡ということでそれ以上の罪に問われなかっただけだ。
私も虐待に加担したと疑われ、何度も聴取を受けた。直接的な虐待は限りなくグレーに近い白と見做されはしたが、当主として監督責任を問われた私は、一年の領地内謹受け、パーティーにも招かれなくなった。それがどういうことか、わかるだろう?」
「一年パーティーに出られないくらい、未来を閉ざされた私に比べたら」
そうトリードが言いかけたとき、凄まじい痛みと浮遊感がトリードを襲う。
そしてドスンと倒れ込んだ。
「うっ」
「黙れ!愚か者めがっ・・私が甘かったようだ。ミリタス侯爵に目をつけられてもおまえをなんとかしてやれないか、手を尽くしてきたが、肝心のおまえがそれではどうにもならん」
殴られた頬を掌で包み、ゆらりと起き上がるトリードは、信じられない顔をしている。
「もっと早くにそうすべきであった。トリード、おまえを我がスミールの貴族籍から抜き、勘当する」
「なっ、そんなことしたら平民に」
「ああそうだ。既に廃嫡となった身でありながら、次期スミール伯爵を狙う者を放置はできない。真面目にやれば初級文官なら平民でも続けられるであろう、会うのはこれで最後だ、達者で過ごせ。外で見かけたとしても声をかけることは許さん。話は以上だ。屋敷から速やかに去るがいい」
ドレドの中に燻っていたトリードへの想いは断ち切れ、トリードは呆然と座り込んでいた。
激しい思い込みで勝手なことをのたまうトリードにドレドは思わず叫ぶ。
「この馬鹿者っ!後継者はビュワードだ、王命も下りているんだからな!お前を呼んだのは、一向におまえの成果の報告がないからどうなっているのか確かめるためだ!」
怒りで頭から湯気が出るというのを、ドレドは人生で初めて経験していた。
「おまえ、ほんの少しでもビュワードに悪かったと、反省の気持ちはないのか?あったら次期スミールに己がなれるなど微塵も思うわけがない」
きょとんとしたトリードは、クスッと笑うと眉尻を下げた。
「でもあれはアニタに騙されたからですよ!私は幼気な子供に過ぎなかったというのに!それなのに私は退学させられ、見習い文官などにされて、次期伯爵の座も失った!もう十分に償った、いや十分過ぎるほどに償わされました。あまりにも酷すぎますよ!
卑怯なあいつは侯爵配になるのだから、取り上げられたものはすべてこの手に返されるのが、当然じゃありませんか?」
学院で謝罪したときはそれなりに反省していたはずだったが、喉元過ぎれば熱さを忘れ、自分に都合よく記憶をすり替えている。今ではビュワードに恨みの念さえ抱いているようなトリードに、ドレドは怖気を感じた。
「償わされただと?返されるのが当然?一体どの口でそんなことが言えるのだトリード。おまえは弟とこのスミールの家名を貶めたのだ。本来なら放逐されてもおかしくなかったのを、温情で文官にした。わかっていないのか?
感謝して文官として真面目に領地領民に尽くせ」
低い声が冷たく響く。
「っ!そんなっ!あいつは婿入りするんだ、それならスミール伯爵は私が継ぐべきだっ」
「既に国王陛下が認められた後継者を私如きが翻すことなど出来るわけがない。領地経営はミリタスから支援が来るし、おまえに心配されなくとも問題はない」
トリードの目が怒りに据わり、ドレドを睨みつける。
「なんだ、今度は私に逆恨みか?
こどもの虐待は重大犯罪だ。貴族であれば負う罪もそれだけ重くなる。まさか知らないわけではあるまいな?
おまえとアニタのせいで、スミール家は王家に多額の罰金を払ったのだぞ!アニタは今もまだ牢獄にいるそうだ、汚らしいなりでな。未成年だったおまえは、廃嫡ということでそれ以上の罪に問われなかっただけだ。
私も虐待に加担したと疑われ、何度も聴取を受けた。直接的な虐待は限りなくグレーに近い白と見做されはしたが、当主として監督責任を問われた私は、一年の領地内謹受け、パーティーにも招かれなくなった。それがどういうことか、わかるだろう?」
「一年パーティーに出られないくらい、未来を閉ざされた私に比べたら」
そうトリードが言いかけたとき、凄まじい痛みと浮遊感がトリードを襲う。
そしてドスンと倒れ込んだ。
「うっ」
「黙れ!愚か者めがっ・・私が甘かったようだ。ミリタス侯爵に目をつけられてもおまえをなんとかしてやれないか、手を尽くしてきたが、肝心のおまえがそれではどうにもならん」
殴られた頬を掌で包み、ゆらりと起き上がるトリードは、信じられない顔をしている。
「もっと早くにそうすべきであった。トリード、おまえを我がスミールの貴族籍から抜き、勘当する」
「なっ、そんなことしたら平民に」
「ああそうだ。既に廃嫡となった身でありながら、次期スミール伯爵を狙う者を放置はできない。真面目にやれば初級文官なら平民でも続けられるであろう、会うのはこれで最後だ、達者で過ごせ。外で見かけたとしても声をかけることは許さん。話は以上だ。屋敷から速やかに去るがいい」
ドレドの中に燻っていたトリードへの想いは断ち切れ、トリードは呆然と座り込んでいた。
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