【完結】虐げられた伯爵令息は、悪役令嬢一家に溺愛される

やまぐちこはる

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第56話

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 ゴールディアと側近文官のチームとビュワードとコーズやルーサーのチームは、互いに追いつ追われつ知識や経験を積み、次期ミリタス侯爵として、また侯爵配であり次期スミール伯爵として力を発揮できるよう切磋琢磨していた。

「ビュワード様の提案をお読みになりましたか?」

 アクシミリオの執務室で、その側近ニルガドルがビュワードの提案書に目を通し終えて、ニヤリとしている。

 それはスミール芋について書かれていた。スミール領出身だからこそかもしれない着眼点で、スミール伯爵家に収穫量と保存保管の能力を上げ、ミリタス侯爵家の陸路運送業でより広範囲の輸送を支援、その見返りとしてミリタスに多くの芋を安く流通させようというものだ。

「ふむ。種イモを植えて時折肥料を撒く。肥料の一定量はスミール家から有償貸与されるが、税を納めるときに肥料分も返さねばならないので必要最低限の肥料しか使わない・・か。すべて有償貸与とはドレド殿も意外とせこいな、あんなにも財を持っているくせに。国民食の供給を担っているのだから、生産力向上の投資は領主の責務でもあろうに」
「ええ、私もそうは思いますが、しかしアクシミリオ様のように気前よく民に還元してくださる領主ばかりではないのですよ。というかアクシミリオ様や代々のご当主様が異例だと思いますがね。
そうだ、保管についても指摘されておられましたね」
「あれもお粗末すぎる!倉庫に無造作に放り込んでいるせいで、下敷きになったものが悪くなってしまうなんて、なんと勿体ない話なのだ!本当に今までドレド殿は何をしていたんだ」

 これでもドレドは歴代のスミール伯爵の中では優れた当主と言われている。
泥臭いやり方だが自ら地道にスミール芋を売り歩き、各地の領主たちに拡めて販路を拡大したお陰で、今やスミール芋は国民食にまでのし上がった。
 アクシミリオやビュワードが全然足りないと考えた量の肥料の有償貸与も、それまではすべて自前で、元手の無い者は肥料を買うことができずに小さな芋しか採れない悪循環に陥っていた。
ドレドもそれはわかっていて、肥料を先渡しをし、大きな良い芋が採れるようにして、肥料代を返させていたのだ。
だから領民は、それまでよりは良い・・・・・・・・・とドレドを評価したのだが、ミリタス領を、アクシミリオを知ってしまったビュワードにはその差が一目瞭然であった。

 領主として領民の暮らしを意識し、領地の産業を発展させるためには?と課題を与えられたとき、ビュワードの脳裏にスミール領の問題点が頭に浮かんだ。
 歩いて学院に通っている間に、道すがら目にした畑や、収穫された芋が倉庫に放り込まれる様、無造作に積まれたせいで重みを受けた芋が傷み、道端に棄てられているのもよく見かけていた。
 もともと大きさや質を問わなければ、たいして手をかけずともある程度の量が採れるため、気にされることもなかったのだが。

 何もしなくとも採れるなら、手をかけてやればもっと採れるのではないか?

 ビュワードはその改善支援と、広範囲な運送業を手掛けるミリタスが運搬を担うことで、スミールは質の良い芋を多く収穫し、保存できるようになり、販路もさらに拡大できる。ミリタスは、より良い条件で芋を買い、貧しい領民にも手が届きやすい値段で流通させることができるのだ。

ちなみにスミール芋はアクシミリオの大好物の一つである。

人の口に届く前に、傷んで捨てられてしまうものが想像以上にあると知り、アクシミリオは身悶え、隅々まで目配りができないドレドに小さな怒りを覚えた。

「いっそミリタス傘下にしてしまえばよろしいかと」

 何気ないニルガドルの言葉は、ビュワードの真実をついている。

「うむ。遠からずユワが当主となれば、自然とミリタスに組み入れられるだろう。我が家は富める一方、スミール芋は我が手のものとなるな」

 ニルガドルは「ぐふふ」と潰れたような笑い声を聞いた気がしたが、まさかアクシミリオがそのようにお下品な笑い声を漏らすわけがない、気のせいだと首を振った。
 
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