56 / 63
第56話
しおりを挟む
ゴールディアと側近文官のチームとビュワードとコーズやルーサーのチームは、互いに追いつ追われつ知識や経験を積み、次期ミリタス侯爵として、また侯爵配であり次期スミール伯爵として力を発揮できるよう切磋琢磨していた。
「ビュワード様の提案をお読みになりましたか?」
アクシミリオの執務室で、その側近ニルガドルがビュワードの提案書に目を通し終えて、ニヤリとしている。
それはスミール芋について書かれていた。スミール領出身だからこそかもしれない着眼点で、スミール伯爵家に収穫量と保存保管の能力を上げ、ミリタス侯爵家の陸路運送業でより広範囲の輸送を支援、その見返りとしてミリタスに多くの芋を安く流通させようというものだ。
「ふむ。種イモを植えて時折肥料を撒く。肥料の一定量はスミール家から有償貸与されるが、税を納めるときに肥料分も返さねばならないので必要最低限の肥料しか使わない・・か。すべて有償貸与とはドレド殿も意外とせこいな、あんなにも財を持っているくせに。国民食の供給を担っているのだから、生産力向上の投資は領主の責務でもあろうに」
「ええ、私もそうは思いますが、しかしアクシミリオ様のように気前よく民に還元してくださる領主ばかりではないのですよ。というかアクシミリオ様や代々のご当主様が異例だと思いますがね。
そうだ、保管についても指摘されておられましたね」
「あれもお粗末すぎる!倉庫に無造作に放り込んでいるせいで、下敷きになったものが悪くなってしまうなんて、なんと勿体ない話なのだ!本当に今までドレド殿は何をしていたんだ」
これでもドレドは歴代のスミール伯爵の中では優れた当主と言われている。
泥臭いやり方だが自ら地道にスミール芋を売り歩き、各地の領主たちに拡めて販路を拡大したお陰で、今やスミール芋は国民食にまでのし上がった。
アクシミリオやビュワードが全然足りないと考えた量の肥料の有償貸与も、それまではすべて自前で、元手の無い者は肥料を買うことができずに小さな芋しか採れない悪循環に陥っていた。
ドレドもそれはわかっていて、肥料を先渡しをし、大きな良い芋が採れるようにして、肥料代を返させていたのだ。
だから領民は、それまでよりは良いとドレドを評価したのだが、ミリタス領を、アクシミリオを知ってしまったビュワードにはその差が一目瞭然であった。
領主として領民の暮らしを意識し、領地の産業を発展させるためには?と課題を与えられたとき、ビュワードの脳裏にスミール領の問題点が頭に浮かんだ。
歩いて学院に通っている間に、道すがら目にした畑や、収穫された芋が倉庫に放り込まれる様、無造作に積まれたせいで重みを受けた芋が傷み、道端に棄てられているのもよく見かけていた。
もともと大きさや質を問わなければ、たいして手をかけずともある程度の量が採れるため、気にされることもなかったのだが。
何もしなくとも採れるなら、手をかけてやればもっと採れるのではないか?
ビュワードはその改善支援と、広範囲な運送業を手掛けるミリタスが運搬を担うことで、スミールは質の良い芋を多く収穫し、保存できるようになり、販路もさらに拡大できる。ミリタスは、より良い条件で芋を買い、貧しい領民にも手が届きやすい値段で流通させることができるのだ。
ちなみにスミール芋はアクシミリオの大好物の一つである。
人の口に届く前に、傷んで捨てられてしまうものが想像以上にあると知り、アクシミリオは身悶え、隅々まで目配りができないドレドに小さな怒りを覚えた。
「いっそミリタス傘下にしてしまえばよろしいかと」
何気ないニルガドルの言葉は、ビュワードの真実をついている。
「うむ。遠からずユワが当主となれば、自然とミリタスに組み入れられるだろう。我が家は富める一方、スミール芋は我が手のものとなるな」
ニルガドルは「ぐふふ」と潰れたような笑い声を聞いた気がしたが、まさかアクシミリオがそのようにお下品な笑い声を漏らすわけがない、気のせいだと首を振った。
「ビュワード様の提案をお読みになりましたか?」
アクシミリオの執務室で、その側近ニルガドルがビュワードの提案書に目を通し終えて、ニヤリとしている。
それはスミール芋について書かれていた。スミール領出身だからこそかもしれない着眼点で、スミール伯爵家に収穫量と保存保管の能力を上げ、ミリタス侯爵家の陸路運送業でより広範囲の輸送を支援、その見返りとしてミリタスに多くの芋を安く流通させようというものだ。
「ふむ。種イモを植えて時折肥料を撒く。肥料の一定量はスミール家から有償貸与されるが、税を納めるときに肥料分も返さねばならないので必要最低限の肥料しか使わない・・か。すべて有償貸与とはドレド殿も意外とせこいな、あんなにも財を持っているくせに。国民食の供給を担っているのだから、生産力向上の投資は領主の責務でもあろうに」
「ええ、私もそうは思いますが、しかしアクシミリオ様のように気前よく民に還元してくださる領主ばかりではないのですよ。というかアクシミリオ様や代々のご当主様が異例だと思いますがね。
そうだ、保管についても指摘されておられましたね」
「あれもお粗末すぎる!倉庫に無造作に放り込んでいるせいで、下敷きになったものが悪くなってしまうなんて、なんと勿体ない話なのだ!本当に今までドレド殿は何をしていたんだ」
これでもドレドは歴代のスミール伯爵の中では優れた当主と言われている。
泥臭いやり方だが自ら地道にスミール芋を売り歩き、各地の領主たちに拡めて販路を拡大したお陰で、今やスミール芋は国民食にまでのし上がった。
アクシミリオやビュワードが全然足りないと考えた量の肥料の有償貸与も、それまではすべて自前で、元手の無い者は肥料を買うことができずに小さな芋しか採れない悪循環に陥っていた。
ドレドもそれはわかっていて、肥料を先渡しをし、大きな良い芋が採れるようにして、肥料代を返させていたのだ。
だから領民は、それまでよりは良いとドレドを評価したのだが、ミリタス領を、アクシミリオを知ってしまったビュワードにはその差が一目瞭然であった。
領主として領民の暮らしを意識し、領地の産業を発展させるためには?と課題を与えられたとき、ビュワードの脳裏にスミール領の問題点が頭に浮かんだ。
歩いて学院に通っている間に、道すがら目にした畑や、収穫された芋が倉庫に放り込まれる様、無造作に積まれたせいで重みを受けた芋が傷み、道端に棄てられているのもよく見かけていた。
もともと大きさや質を問わなければ、たいして手をかけずともある程度の量が採れるため、気にされることもなかったのだが。
何もしなくとも採れるなら、手をかけてやればもっと採れるのではないか?
ビュワードはその改善支援と、広範囲な運送業を手掛けるミリタスが運搬を担うことで、スミールは質の良い芋を多く収穫し、保存できるようになり、販路もさらに拡大できる。ミリタスは、より良い条件で芋を買い、貧しい領民にも手が届きやすい値段で流通させることができるのだ。
ちなみにスミール芋はアクシミリオの大好物の一つである。
人の口に届く前に、傷んで捨てられてしまうものが想像以上にあると知り、アクシミリオは身悶え、隅々まで目配りができないドレドに小さな怒りを覚えた。
「いっそミリタス傘下にしてしまえばよろしいかと」
何気ないニルガドルの言葉は、ビュワードの真実をついている。
「うむ。遠からずユワが当主となれば、自然とミリタスに組み入れられるだろう。我が家は富める一方、スミール芋は我が手のものとなるな」
ニルガドルは「ぐふふ」と潰れたような笑い声を聞いた気がしたが、まさかアクシミリオがそのようにお下品な笑い声を漏らすわけがない、気のせいだと首を振った。
24
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる