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第53話

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 ミリタス侯爵アクシミリオは、ビュワードの父であるスミール伯爵ドレドと、スミール領で会談中である。

 理事を務める学院に定期的に行くついでに、スミールの芋の取引や、最近は芋を利用した保存食や調理品の開発も共同で始めたところだ。

「ところでドレド殿」
「はい」
「スミール伯爵家の後継については、どのようにお考えですかな」

 ドレドが決めかねていたことである。

 ビュワードを貶めた長男トリードは、学院を退学させて廃嫡し、文官見習いとしたが、ミリタス侯爵家がビュワードを一人娘の婚約者に望んだことで、ビュワードがスミール伯爵位を継ぐことはなくなった。だからトリードを復活させてもいいということではないかと。
 こんなことになってしまったとは言え、トリードにも見捨てきれない思いがあったドレドは、トリードにチャンスが来たと甘く考えていたのだ。
 しかし今やミリタス家の意向を無視することはできないため、それを確認してからと思っていた。

「ビュワードに継がせるつもりでいましたが」
「が?なんだね」
「はあ、あの、ミリタス侯爵家に婿入りしますし」
「別にミリタスに入ったとてよかろう?継いだあとは、スミールにはうちから代理人を遣わしてやるから、心配はいらん」
「いや、しかしそれでは」
「では何か?あの長男に継がせたいとでも?」


 長男トリードについてゴールディアは、スミール伯爵になるなら弟を虐待したという醜聞を背負って、社交界で酷い目にあえばいいと考えていたので、後継に復活しても構わないくらいに構えていたが、アクシミリオは違う。

 ─国民食でありながらスミールでしか採れない芋を、完全に手中に収める絶好の機会が目の前に転がっているのだ!見逃すはずがないではないか─

 それに醜聞まみれの者が領主となったら領民が可哀想だと、あえて付け加えた。


「長男に継がせるということかね?我が家は次期スミール伯爵が侯爵配でも一向に構わんが」

 圧強めなアクシミリオに再度問い質され、ドレドは己の認識の甘さとアクシミリオの意図に気づき、ふるふると首を振って否定した。

「いえ・・ビュワードに継がせます」

 自らの言葉でトリードの将来を摘み取ったドレドは、唇を噛みしめる。

「うむ、それが正解だ。ユワは定期的にスミールに行って代理の利かない執務を行えばいい。ゴールディアに二人以上子が生まれたら、その子に後を継がせればいいしな。
では」

 ドレドがため息を飲み込んだ直後、アクシミリオはさらに上からの提案をした。

「今ここで嫡男指名の届けを書き給え。領地に戻って登城する際に出して来てやろう」

 逃げようもないのだが、ここまで詰められるとは。

 僅かに眉を寄せたドレドはのろりと立ち上がり、執事に書式集を持ってこさせると、無言で書き始める。
署名を入れ、一度アクシミリオに手渡して確認させると、封筒に入れてシグネットリングで封蝋を。

「さあ預かろう。責任を持って、必ずや城に届けるので安心していてくれ」

 そう言ったアクシミリオは、ニヤリと口角を引き上げ笑った。
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