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第51話 閑話 モイル兄弟
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ボレンはモイル兄弟を連れて彼らの部屋に案内した。
「こちらがお二人の部屋です」
扉が一枚。
珍しいことに開けるとさらに小さなスペースがあり、そこから二室に分かれている。
「どちらを使っても構いませんよ」
右手の部屋に入ると、コーズは口があんぐりと開いてしまう。
実家の部屋よりはるかに広いのだ。ビュワードのそれとは違う一間の部屋だが、実家の二部屋分くらいの広さで、ベッドも机に大きな本棚やソファも備えられているではないか!
「これが使用人の部屋ですか?」
なにかの間違いかと恐る恐るコーズが訊ねると、ボレンが首を傾げた。
「狭くて申し訳ないが」
「「は?狭い?これが?広すぎてびっくりですよ!」」
さすが兄弟、息ぴったりで驚いている。
「はは、そうでしたか。それは良かった。今日は夕飯まで片付けでもしてください。夕飯は普段は6時から食堂で食べられますから仕事が一段落したら行くといいですよ。あ、でも今夜はアレか・・・」
アレと言ったあと、ボレンが含んだように笑って。
「アクシミリオ様の歓迎会ですね!あとで食堂に案内します」
「「はい」」
またしても返事がシンクロするふたりに、ボレンがクスリと笑う。
「ちなみに使用人たちの歓迎会は別日で開催予定ですので、お忘れなく。ふふ」
そう付け加えた。
「奥の扉も開けてみていいですか?」
ルーサーが切り出すと、ボレン自らが扉を開けてやる。
「申し訳ないが風呂は二間で共有です。どちらの部屋からも利用できますので、二人で声を掛け合って使ってください。今夜は夕食後に湯を張らせておきます」
「あ、ありがとうございます。湯は週に何度くらい使えるのですか」
「え?毎日使わないんですか?」
「「ええ?毎日湯浴みできるのですか?」」
「え?もちろんですよ。夕食に行くときメイドに声をかければ、食事の間に湯を張っておいてくれますよ。モイル子爵家は違うのですか?」
湯を沸かし、各部屋の風呂に湯を張るというのはなかなかに贅沢だ。
貧しいモイル子爵家では一つの浴室を皆で使い、その浴槽も小さくて古く、また三日に一度しか風呂は沸かしていなかった。
「使用人の中でも階級があって、上級の侍従や侍女はこのように共有ではありますが浴室付き個室、メイドや料理人たちは大部屋と大浴場を与えられます」
「へえ!大浴場ですか」
「かなり広い風呂でいつも沸かしっぱなしなので、個室を持つ騎士たちでもそこを好んで使う者もいますよ」
「部屋の風呂じゃなくともいいのですか」
「はい。メイドに声をかけておけば大浴場も使えます」
─凄すぎる!来てよかった!─
まだ仕事を始めてもいないのに気が早いが、待遇だけでもコーズは辺境伯家を辞めてきて良かったと思っていた。
ルーサーは初めて働くのだが、それでも自分が物凄い幸運を掴んだことに今更ながら気がついた。
ボレンがふたりの兄弟を残して部屋を出る。
右の部屋をルーサーが、左の部屋をコーズが使うことにしたが、片付けを始める前にどうしてもコーズはルーサーに一言言わずにいられなくなった。
「ルー、本当にありがとうな!」
「なんだよ兄上」
「おまえ、働いたことないからわからんと思うが、使用人にこんな部屋を与える雇い主なんていないぞ。ミリタス侯爵はめちゃくちゃ気前のいい方だ、間違いない!」
片付けを終えた頃、雇用契約書を持ってきたボレンから七日に一度休みがあること、夏と年末のどちらかで交代で長期の休みが取れること、俸給の額、使用人用の食堂は3食無料で食べられること、病気になったときは侯爵家の医者に無料で見てもらえるなどの説明を受け、コーズは今度こそ震えるほど感激した。
「こちらがお二人の部屋です」
扉が一枚。
珍しいことに開けるとさらに小さなスペースがあり、そこから二室に分かれている。
「どちらを使っても構いませんよ」
右手の部屋に入ると、コーズは口があんぐりと開いてしまう。
実家の部屋よりはるかに広いのだ。ビュワードのそれとは違う一間の部屋だが、実家の二部屋分くらいの広さで、ベッドも机に大きな本棚やソファも備えられているではないか!
「これが使用人の部屋ですか?」
なにかの間違いかと恐る恐るコーズが訊ねると、ボレンが首を傾げた。
「狭くて申し訳ないが」
「「は?狭い?これが?広すぎてびっくりですよ!」」
さすが兄弟、息ぴったりで驚いている。
「はは、そうでしたか。それは良かった。今日は夕飯まで片付けでもしてください。夕飯は普段は6時から食堂で食べられますから仕事が一段落したら行くといいですよ。あ、でも今夜はアレか・・・」
アレと言ったあと、ボレンが含んだように笑って。
「アクシミリオ様の歓迎会ですね!あとで食堂に案内します」
「「はい」」
またしても返事がシンクロするふたりに、ボレンがクスリと笑う。
「ちなみに使用人たちの歓迎会は別日で開催予定ですので、お忘れなく。ふふ」
そう付け加えた。
「奥の扉も開けてみていいですか?」
ルーサーが切り出すと、ボレン自らが扉を開けてやる。
「申し訳ないが風呂は二間で共有です。どちらの部屋からも利用できますので、二人で声を掛け合って使ってください。今夜は夕食後に湯を張らせておきます」
「あ、ありがとうございます。湯は週に何度くらい使えるのですか」
「え?毎日使わないんですか?」
「「ええ?毎日湯浴みできるのですか?」」
「え?もちろんですよ。夕食に行くときメイドに声をかければ、食事の間に湯を張っておいてくれますよ。モイル子爵家は違うのですか?」
湯を沸かし、各部屋の風呂に湯を張るというのはなかなかに贅沢だ。
貧しいモイル子爵家では一つの浴室を皆で使い、その浴槽も小さくて古く、また三日に一度しか風呂は沸かしていなかった。
「使用人の中でも階級があって、上級の侍従や侍女はこのように共有ではありますが浴室付き個室、メイドや料理人たちは大部屋と大浴場を与えられます」
「へえ!大浴場ですか」
「かなり広い風呂でいつも沸かしっぱなしなので、個室を持つ騎士たちでもそこを好んで使う者もいますよ」
「部屋の風呂じゃなくともいいのですか」
「はい。メイドに声をかけておけば大浴場も使えます」
─凄すぎる!来てよかった!─
まだ仕事を始めてもいないのに気が早いが、待遇だけでもコーズは辺境伯家を辞めてきて良かったと思っていた。
ルーサーは初めて働くのだが、それでも自分が物凄い幸運を掴んだことに今更ながら気がついた。
ボレンがふたりの兄弟を残して部屋を出る。
右の部屋をルーサーが、左の部屋をコーズが使うことにしたが、片付けを始める前にどうしてもコーズはルーサーに一言言わずにいられなくなった。
「ルー、本当にありがとうな!」
「なんだよ兄上」
「おまえ、働いたことないからわからんと思うが、使用人にこんな部屋を与える雇い主なんていないぞ。ミリタス侯爵はめちゃくちゃ気前のいい方だ、間違いない!」
片付けを終えた頃、雇用契約書を持ってきたボレンから七日に一度休みがあること、夏と年末のどちらかで交代で長期の休みが取れること、俸給の額、使用人用の食堂は3食無料で食べられること、病気になったときは侯爵家の医者に無料で見てもらえるなどの説明を受け、コーズは今度こそ震えるほど感激した。
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