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第49話
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快適な馬車旅を終え、ゴールディア一行がミリタス侯爵家に帰館すると
「ユワちゃん!おかえりなさーい!」
メルダ夫人が腕を広げて待ち構えている。
「お母様!なぜユワ様をユワちゃんなんて呼ぶの?ちゃん付けなんて止めてって言いました!わたくしの婚約者ですのよ!というか、まずは娘のわたくしじゃなくて?」
挨拶をする間もなく、いきなりビュワードの取り合いが開始されて、ルーサーとコーズはどうしたらいいのかとわらわらしていた。
「大丈夫、ふたりとも怒ってるわけじゃなくて、あれリクリエーションだから」
「ええっ?リクリエーションっ?」
「そう。すごく仲良いんだ、久しぶりに会って発散してるだけ」
淡々とビュワードが説明するその冷静さ、夫人とゴールディの熱量とのギャップが激しすぎて、ルーサーは笑うのを堪えるのが辛かった。
「いい加減にしなさい!まったく。今日はモイル令息たちも一緒なのだぞ」
ゴホン!とわざとらしい咳払いをし姿を現したアクシミリオが妻娘を諌めると、漸く落ち着きを取り戻し、名が出たばかりのモイル兄弟に視線が向けられた。
メルダが取り繕ったように何もなかった顔をして、今更すましたところでモイル兄弟には丸わかりだが。
─本当に賑やかな人たちだな─
ルーサーとコーズは笑いを含んだ目を見合わせた。
「モイル令息・・ルーサーとコーズも今日の夕餉は私たちとともにしなさい。ミリタス家の歓迎会をやるからな!すっごく豪華な料理にするよう言ってあるから期待していなさい!」
胸を張るアクシミリオもかなりこどもっぽい。
前の学院長たちを糾弾したあと学院を買収して理事長となり、事あるごとに辺境にやってきて壇上に上がる、威厳に溢れた侯爵はどこにもいなかった。
─使用人の歓迎会?侯爵なのに使用人と夕餉を共にするだって?─
驚いたコーズが目を丸くしているのを見て、胸中を察したビュワードがくすりと笑う。
「本当にやさしくて面倒見がよくて楽しい人たちなんだ」
ポツッと漏らしたビュワードの言葉が、的確にミリタス家を表していた。
「夕餉まで時間があるから湯浴みでもして、ゆっくりするといい。ユワは客間ではなくユワのための部屋を用意したから。
それとベルグを付ける。
モイル令息たちはこれから当分住む部屋に案内させるが、ふたりともベルグとともにユワについてもらうので、ベルグの並びの部屋にしてある。今後の指導や不明なことはベルグに聞くように」
「「はい」」
ビュワードがうれしそうにルーサーを見て、互いに小さく頷き合っている。
弟の隣りに立つコーズは、ルーサーとは違う仕事に就くのかと思っていたが、兄弟なら連携しやすい上に、ルーサーを通して人柄やその身に起きたことをよく聞かされていたので、やりやすそうだと安堵した。
─次期侯爵配付きか─
辺境伯家の下っ端文官だったモイル子爵次男のコーズは、21歳の今も婚約者もおらず、長兄が家を継ぐまでに独立して、たぶん平民になり平民の娘と結婚するんだろうとぼんやり考えていた。
それが弟がビュワード・スミールと親しくなったことで、信じられないほど変わったのだ。
領地は激狭でも、いずれモイル子爵として領主になる兄と天地ほどの差があった弟たちが、王都近くに領地を構えるミリタス侯爵に仕え、しかも侯爵家縁続きの貴族に婿入りさせてくれるなんて!
ルーサーの話に飛びついたものの、どこか信じきれていなかったコーズだが、ミリタス侯爵家の乗り心地の良い馬車に乗せられ、ミリタス侯爵本邸に着いて、自分の未来が開かれたのだと実感が湧いてくるのだった。
「ユワちゃん!おかえりなさーい!」
メルダ夫人が腕を広げて待ち構えている。
「お母様!なぜユワ様をユワちゃんなんて呼ぶの?ちゃん付けなんて止めてって言いました!わたくしの婚約者ですのよ!というか、まずは娘のわたくしじゃなくて?」
挨拶をする間もなく、いきなりビュワードの取り合いが開始されて、ルーサーとコーズはどうしたらいいのかとわらわらしていた。
「大丈夫、ふたりとも怒ってるわけじゃなくて、あれリクリエーションだから」
「ええっ?リクリエーションっ?」
「そう。すごく仲良いんだ、久しぶりに会って発散してるだけ」
淡々とビュワードが説明するその冷静さ、夫人とゴールディの熱量とのギャップが激しすぎて、ルーサーは笑うのを堪えるのが辛かった。
「いい加減にしなさい!まったく。今日はモイル令息たちも一緒なのだぞ」
ゴホン!とわざとらしい咳払いをし姿を現したアクシミリオが妻娘を諌めると、漸く落ち着きを取り戻し、名が出たばかりのモイル兄弟に視線が向けられた。
メルダが取り繕ったように何もなかった顔をして、今更すましたところでモイル兄弟には丸わかりだが。
─本当に賑やかな人たちだな─
ルーサーとコーズは笑いを含んだ目を見合わせた。
「モイル令息・・ルーサーとコーズも今日の夕餉は私たちとともにしなさい。ミリタス家の歓迎会をやるからな!すっごく豪華な料理にするよう言ってあるから期待していなさい!」
胸を張るアクシミリオもかなりこどもっぽい。
前の学院長たちを糾弾したあと学院を買収して理事長となり、事あるごとに辺境にやってきて壇上に上がる、威厳に溢れた侯爵はどこにもいなかった。
─使用人の歓迎会?侯爵なのに使用人と夕餉を共にするだって?─
驚いたコーズが目を丸くしているのを見て、胸中を察したビュワードがくすりと笑う。
「本当にやさしくて面倒見がよくて楽しい人たちなんだ」
ポツッと漏らしたビュワードの言葉が、的確にミリタス家を表していた。
「夕餉まで時間があるから湯浴みでもして、ゆっくりするといい。ユワは客間ではなくユワのための部屋を用意したから。
それとベルグを付ける。
モイル令息たちはこれから当分住む部屋に案内させるが、ふたりともベルグとともにユワについてもらうので、ベルグの並びの部屋にしてある。今後の指導や不明なことはベルグに聞くように」
「「はい」」
ビュワードがうれしそうにルーサーを見て、互いに小さく頷き合っている。
弟の隣りに立つコーズは、ルーサーとは違う仕事に就くのかと思っていたが、兄弟なら連携しやすい上に、ルーサーを通して人柄やその身に起きたことをよく聞かされていたので、やりやすそうだと安堵した。
─次期侯爵配付きか─
辺境伯家の下っ端文官だったモイル子爵次男のコーズは、21歳の今も婚約者もおらず、長兄が家を継ぐまでに独立して、たぶん平民になり平民の娘と結婚するんだろうとぼんやり考えていた。
それが弟がビュワード・スミールと親しくなったことで、信じられないほど変わったのだ。
領地は激狭でも、いずれモイル子爵として領主になる兄と天地ほどの差があった弟たちが、王都近くに領地を構えるミリタス侯爵に仕え、しかも侯爵家縁続きの貴族に婿入りさせてくれるなんて!
ルーサーの話に飛びついたものの、どこか信じきれていなかったコーズだが、ミリタス侯爵家の乗り心地の良い馬車に乗せられ、ミリタス侯爵本邸に着いて、自分の未来が開かれたのだと実感が湧いてくるのだった。
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