【完結】虐げられた伯爵令息は、悪役令嬢一家に溺愛される

やまぐちこはる

文字の大きさ
上 下
46 / 63

第46話

しおりを挟む
 ゴールディアのミリタス家別邸に着くと、ルーサーは皆が憧れてやまない美しい白亜の屋敷の隅々まで、舐め尽くすように観察した。

「す・・ごい・・・」
「お気に召しまして?」
「はあ、気にいるなんて烏滸がましいです、凄すぎますよ」
「そう?」
「わかります、私も最初は驚きました」

 ビュワードの実家スミール伯爵家も裕福だが、確かに素晴らしい造作だと感じたことを思い出す。

「ぷっ。スミール様はさっきから同じことを言ってますよ」

 ルーサーが緊張が解けたように笑い出すと、ビュワードも照れくさそうにクスクスと笑う。

 ─ユワ様にもこうして声を立てて笑えるようになってほしいわ─

 それはゴールディアとミリタス侯爵夫妻の心からの願いでもあった。




「うーわ!凄いな、こんな料理初めてです!美味い!」

 あまりお行儀がよいとは言えないが、屈託なく褒め笑うルーサーがいると、ビュワードがいつもよりよく笑う気がすると、ゴールディアはルーサーにやきもちを焼きつつ、やはり正解だったと二人の様子を見守った。



 食事を終えてスイーツとお茶を楽しみ始めた時、ゴールディアが口を開く。

「モイル様、よろしければユワ様と私のお友だちになってくださいませんか?」

 それはビュワードが口にしたくても怖くて言えなかったこと。
 そして招かれたのはほんの気まぐれだろうと思っていたルーサーには、有り得ないくらいのことである。

「ご存知と思いますが、私たちこちらにはお友だちがおりませんの。ビュワード様には特に心を許せる方が少ないのですが、今日お二人を見ていて馬が合うように見えましたわ。如何かしら?」

 千載一遇のチャンスだと、きっとモイル子爵ならルーサーの背を押しただろう。
 ルーサーは少し気後れして答えが遅れたが、上手くいくときは色々なことが上手く噛み合うものだ。
 その迷う間さえ、すぐに飛びつかなかったルーサーならビュワードを支える友人になれると、ゴールディアに判断されたのだから。

「ではよろしくお願いいたしますわ。私のことはゴールディアと。あ、でもユワ様と呼んでいいのは私だけだから、それはダメ!あなたのことはルーサー様とお呼びしてよろしいかしら?」

 気づくと、ルーサーはビュワードとゴールディアと友だちにさせられ、ビュワードと握手を交わしていた。

「あの、ディアが強引でごめんなさい。嫌なら」
「いや、いやいや、いや、あ?違う!嫌なんかじゃないから」

 ゴールディアがにっこり笑ってビュワードの腕に掴まり、語りかけている。

「大丈夫、ルーサー様は本当に喜んで私たちと友だちになってくださるのよ!安心して」

 それがとても優しい表情で、キツそうとか怖そうというのはただの噂に過ぎず、本当は細やかな気遣いのできる繊細な女性だろうと、ルーサーはゴールディアに好感を持ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

ハーレムエンドを迎えましたが、ヒロインは誰を選ぶんでしょうね?

榎夜
恋愛
乙女ゲーム『青の貴族達』はハーレムエンドを迎えました。 じゃあ、その後のヒロイン達はどうなるんでしょうね?

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

処理中です...