44 / 63
第44話
しおりを挟む
モイル子爵家の馬車に乗り込んだルーサーは、狐につままれたような気分だった。
「なんだ、一体どうしてこうなった?」
「どうなさったんです、坊ちゃま」
御者台にいる護衛のロブが声をかけてきた。
「うん、ミリタス侯爵家に招待された」
「ええ?あの白亜の屋敷ですか?そりゃすごいじゃないですか!」
ゴールディアの屋敷は、領地の本宅や王都のタウンハウスに比べたらこじんまりとしているが、この辺りではもっとも大きく美しい屋敷の一つで憧れる者も多い。
「一度中を見てみたいものですよね」
「うーん、まあそうなんだが」
「どうして招かれたんです?」
「うん、ミリタス嬢の婚約者が絡まれているのをちょっと助けただけだよ。そうしたら礼をしたいって」
「それ、チャンスじゃないですか」
そう。普通なら地方の吹けば飛ぶ子爵の息子など、一生かかっても出会えないミリタス侯爵家と繋がりが持てるかもしれないのだ。
大きなチャンスに違いない。
「ルーサー!聞いたぞ」
ロブの話を耳にしたルーサーの父、リブズ・モイル子爵が赤い顔で部屋を訪ねてきた。
「ミリタス侯爵の屋敷に呼ばれたそうだな!よくやった!是非この機に昵懇となれるよう頑張れよ」
「いや、別に向こうはそんなつもりないと思うし」
「あのなあ!こういうチャンスをものにしなければ出世できんぞ!三男のおまえは子爵が継げるわけじゃないんだから、何とか食い込むんだ」
─いや、食い込みたいのは父上じゃないか─
父のあまりの推しぶりに若干引くが、言うことはもちろんわかる。
地方貴族の三男など、貴族の婿入り先でもなければ商会に婿入りして平民となるか、自分の家より上の爵位の使用人になるしかない。
ここなら辺境伯家かビュワードの実家、スミール伯爵家のどちらかなのだ。
「頑張れよ!」
まるで今から出かけるかのように、拳を握って応援してくる父が鬱陶しくなり、軽く頷いて部屋へ逃げた。
「なんか面倒臭いことになってきたな」
面倒臭がらなくとも、ルーサーはすでにゴールディアからロックオンされているのだが。
ゴールディアは、ビュワードの人間不信が根深く、ミリタス侯爵家以外にはなかなか心を開かないことに気づいていた。
自分さえいればいいというものではない。信頼できる友人がビュワードに必要だと探していたところだったのだ。
勿論ゴールディアはモイル子爵家について調査してもらい、家族全員が所謂善良な人々らしいこと、ごく普通の地方貴族だということ、ルーサーはあまり野心家ではなさそうなことを確認済である。
「なんだかぴったりじゃない!」
ルーサーは、ゾクリと背筋に寒気が走った。
「なんだ、一体どうしてこうなった?」
「どうなさったんです、坊ちゃま」
御者台にいる護衛のロブが声をかけてきた。
「うん、ミリタス侯爵家に招待された」
「ええ?あの白亜の屋敷ですか?そりゃすごいじゃないですか!」
ゴールディアの屋敷は、領地の本宅や王都のタウンハウスに比べたらこじんまりとしているが、この辺りではもっとも大きく美しい屋敷の一つで憧れる者も多い。
「一度中を見てみたいものですよね」
「うーん、まあそうなんだが」
「どうして招かれたんです?」
「うん、ミリタス嬢の婚約者が絡まれているのをちょっと助けただけだよ。そうしたら礼をしたいって」
「それ、チャンスじゃないですか」
そう。普通なら地方の吹けば飛ぶ子爵の息子など、一生かかっても出会えないミリタス侯爵家と繋がりが持てるかもしれないのだ。
大きなチャンスに違いない。
「ルーサー!聞いたぞ」
ロブの話を耳にしたルーサーの父、リブズ・モイル子爵が赤い顔で部屋を訪ねてきた。
「ミリタス侯爵の屋敷に呼ばれたそうだな!よくやった!是非この機に昵懇となれるよう頑張れよ」
「いや、別に向こうはそんなつもりないと思うし」
「あのなあ!こういうチャンスをものにしなければ出世できんぞ!三男のおまえは子爵が継げるわけじゃないんだから、何とか食い込むんだ」
─いや、食い込みたいのは父上じゃないか─
父のあまりの推しぶりに若干引くが、言うことはもちろんわかる。
地方貴族の三男など、貴族の婿入り先でもなければ商会に婿入りして平民となるか、自分の家より上の爵位の使用人になるしかない。
ここなら辺境伯家かビュワードの実家、スミール伯爵家のどちらかなのだ。
「頑張れよ!」
まるで今から出かけるかのように、拳を握って応援してくる父が鬱陶しくなり、軽く頷いて部屋へ逃げた。
「なんか面倒臭いことになってきたな」
面倒臭がらなくとも、ルーサーはすでにゴールディアからロックオンされているのだが。
ゴールディアは、ビュワードの人間不信が根深く、ミリタス侯爵家以外にはなかなか心を開かないことに気づいていた。
自分さえいればいいというものではない。信頼できる友人がビュワードに必要だと探していたところだったのだ。
勿論ゴールディアはモイル子爵家について調査してもらい、家族全員が所謂善良な人々らしいこと、ごく普通の地方貴族だということ、ルーサーはあまり野心家ではなさそうなことを確認済である。
「なんだかぴったりじゃない!」
ルーサーは、ゾクリと背筋に寒気が走った。
25
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる