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第44話

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 モイル子爵家の馬車に乗り込んだルーサーは、狐につままれたような気分だった。

「なんだ、一体どうしてこうなった?」
「どうなさったんです、坊ちゃま」

 御者台にいる護衛のロブが声をかけてきた。

「うん、ミリタス侯爵家に招待された」
「ええ?あの白亜の屋敷ですか?そりゃすごいじゃないですか!」

 ゴールディアの屋敷は、領地の本宅や王都のタウンハウスに比べたらこじんまりとしているが、この辺りではもっとも大きく美しい屋敷の一つで憧れる者も多い。

「一度中を見てみたいものですよね」
「うーん、まあそうなんだが」
「どうして招かれたんです?」
「うん、ミリタス嬢の婚約者が絡まれているのをちょっと助けただけだよ。そうしたら礼をしたいって」
「それ、チャンスじゃないですか」

 そう。普通なら地方の吹けば飛ぶ子爵の息子など、一生かかっても出会えないミリタス侯爵家と繋がりが持てるかもしれないのだ。
大きなチャンスに違いない。



「ルーサー!聞いたぞ」

 ロブの話を耳にしたルーサーの父、リブズ・モイル子爵が赤い顔で部屋を訪ねてきた。

「ミリタス侯爵の屋敷に呼ばれたそうだな!よくやった!是非この機に昵懇となれるよう頑張れよ」
「いや、別に向こうはそんなつもりないと思うし」
「あのなあ!こういうチャンスをものにしなければ出世できんぞ!三男のおまえは子爵が継げるわけじゃないんだから、何とか食い込むんだ」


 ─いや、食い込みたいのは父上じゃないか─


 父のあまりの推しぶりに若干引くが、言うことはもちろんわかる。
地方貴族の三男など、貴族の婿入り先でもなければ商会に婿入りして平民となるか、自分の家より上の爵位の使用人になるしかない。
 ここなら辺境伯家かビュワードの実家、スミール伯爵家のどちらかなのだ。

「頑張れよ!」

 まるで今から出かけるかのように、拳を握って応援してくる父が鬱陶しくなり、軽く頷いて部屋へ逃げた。



「なんか面倒臭いことになってきたな」



 面倒臭がらなくとも、ルーサーはすでにゴールディアからロックオンされているのだが。

 ゴールディアは、ビュワードの人間不信が根深く、ミリタス侯爵家以外にはなかなか心を開かないことに気づいていた。
 自分さえいればいいというものではない。信頼できる友人がビュワードに必要だと探していたところだったのだ。

 勿論ゴールディアはモイル子爵家について調査してもらい、家族全員が所謂善良な人々らしいこと、ごく普通の地方貴族だということ、ルーサーはあまり野心家ではなさそうなことを確認済である。

「なんだかぴったりじゃない!」



 ルーサーは、ゾクリと背筋に寒気が走った。
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