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第41話
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「婚約者?」
リラがぽかーんと開いた口から小さく漏らすと、それを受けてビュワードがこくりと頷いた。
「そのとおりです」
その時の女生徒たちの顔ときたら!
明らかに青褪める者、キッとゴールディアを睨みつける者、早くも半泣きの者・・・。
丁寧にお手入れされ、健康を取り戻したビュワードは、王都育ちのゴールディアでさえ見惚れるほどの容姿なのだ。
辺境片田舎の令嬢たちには眩しくてたまらないだろう。
皆が後悔をした。
汚らしい姿の時、何故心配してやらなったのだろうかと。
兄トリードが学院を辞めさせられたのだから、裕福なスミール伯爵家の跡継ぎはこの美しいビュワードだと気づいた者も、がっくりと項垂れた。
「ユワさまは~、わったくしのっこんやくしゃ~!ステキなカレにいまごろきづいても、みんなみんな、ておくれよ~!うっふふ~」
とても小さな、小さなゴールディアの歌声は、誰にも聞こえなかった。
屋敷に帰ったあと、ビュワードは皆の自分への反応が想像以上に改善されていたと安堵し、それを見たゴールディアは満足そうに笑んでいる。
「ねえユワ様ご覧になった?私が婚約者だって言った時のご令嬢たちの顔」
くぷぷ、と意地悪そうに口の中で笑いを転がすゴールディアに、少し困ったようにビュワードも口元を上げた。
「みんな一瞬でユワ様に夢中になったのよ!でもあっという間に夢は打ち砕かれて、泣きそうな顔をしていたわ」
「そんな夢中だなんて大袈裟です」
「ううん、大袈裟ではないわ。ユワ様鏡見ていないの?」
ビュワードより背の低いゴールディアが、下から覗き込むように顔を寄せてくると、翡翠のような瞳を縁取る睫毛の生え方まではっきりと見える。
「ねえ?見ていないの?」
「い、いや見ていますよ」
「自分の顔を見て、どう思うかしら?」
「いや、別にどうも思いません」
「えっ!なぜ?私ならそんな綺麗なお顔ならうれしくて日がな一日見続けたいと思うわ!」
ビュワードは自分が美しい自覚がなかったのだ。
「男が美しいって言われるのなんて、ちょっと違うかなって」
恥ずかしそうに言ったビュワードだが、勿論ゴールディアは違う。
「何を仰るの!貴族にとって美しさは宝!ユワ様の湯浴みのあと、うちのメイドたちが髪とお肌の手入れをしておりますでしょ!あれは王都ではごく普通のことで、社交に出る方の身嗜みでもありますわよ」
ビシっと人差し指を立てて、指摘する。
今の輝くようなビュワードは、元々素晴らしい素材をほんのちょっとケアしたことで生まれたものなのだ。
「男性だって美しい方がいい!むさ苦しいなんてサイアクだわ!」
と言いながら、乱れて落ちているビュワードの前髪を手を伸ばして直してやった。
「あ、りがとう」
「いつでも喜んでお直し致しますわ」
本当にうれしそうに楽しそうに言ったゴールディアが、ビュワードは眩しくて可愛くてならず、気づかぬうちに顔を真っ赤に染めていた。
リラがぽかーんと開いた口から小さく漏らすと、それを受けてビュワードがこくりと頷いた。
「そのとおりです」
その時の女生徒たちの顔ときたら!
明らかに青褪める者、キッとゴールディアを睨みつける者、早くも半泣きの者・・・。
丁寧にお手入れされ、健康を取り戻したビュワードは、王都育ちのゴールディアでさえ見惚れるほどの容姿なのだ。
辺境片田舎の令嬢たちには眩しくてたまらないだろう。
皆が後悔をした。
汚らしい姿の時、何故心配してやらなったのだろうかと。
兄トリードが学院を辞めさせられたのだから、裕福なスミール伯爵家の跡継ぎはこの美しいビュワードだと気づいた者も、がっくりと項垂れた。
「ユワさまは~、わったくしのっこんやくしゃ~!ステキなカレにいまごろきづいても、みんなみんな、ておくれよ~!うっふふ~」
とても小さな、小さなゴールディアの歌声は、誰にも聞こえなかった。
屋敷に帰ったあと、ビュワードは皆の自分への反応が想像以上に改善されていたと安堵し、それを見たゴールディアは満足そうに笑んでいる。
「ねえユワ様ご覧になった?私が婚約者だって言った時のご令嬢たちの顔」
くぷぷ、と意地悪そうに口の中で笑いを転がすゴールディアに、少し困ったようにビュワードも口元を上げた。
「みんな一瞬でユワ様に夢中になったのよ!でもあっという間に夢は打ち砕かれて、泣きそうな顔をしていたわ」
「そんな夢中だなんて大袈裟です」
「ううん、大袈裟ではないわ。ユワ様鏡見ていないの?」
ビュワードより背の低いゴールディアが、下から覗き込むように顔を寄せてくると、翡翠のような瞳を縁取る睫毛の生え方まではっきりと見える。
「ねえ?見ていないの?」
「い、いや見ていますよ」
「自分の顔を見て、どう思うかしら?」
「いや、別にどうも思いません」
「えっ!なぜ?私ならそんな綺麗なお顔ならうれしくて日がな一日見続けたいと思うわ!」
ビュワードは自分が美しい自覚がなかったのだ。
「男が美しいって言われるのなんて、ちょっと違うかなって」
恥ずかしそうに言ったビュワードだが、勿論ゴールディアは違う。
「何を仰るの!貴族にとって美しさは宝!ユワ様の湯浴みのあと、うちのメイドたちが髪とお肌の手入れをしておりますでしょ!あれは王都ではごく普通のことで、社交に出る方の身嗜みでもありますわよ」
ビシっと人差し指を立てて、指摘する。
今の輝くようなビュワードは、元々素晴らしい素材をほんのちょっとケアしたことで生まれたものなのだ。
「男性だって美しい方がいい!むさ苦しいなんてサイアクだわ!」
と言いながら、乱れて落ちているビュワードの前髪を手を伸ばして直してやった。
「あ、りがとう」
「いつでも喜んでお直し致しますわ」
本当にうれしそうに楽しそうに言ったゴールディアが、ビュワードは眩しくて可愛くてならず、気づかぬうちに顔を真っ赤に染めていた。
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