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第32話

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 悩めるビュワードを部屋に戻すと、次に夫妻は愛娘ゴールディアを呼んだ。

「お父様お呼びでしょうか」
「ああ!そこに座ってくれ」
「あら、お母様もいらしたのですね」

 テンション高めのニコニコ顔をしている母に、ちょっと不安が湧いたが。

「ねえディア。貴女ビュワード様をどう思う?例えば婚約者になるとしたら」

 突然過ぎて、メルダの言うことが暫く理解できなかった。

「・・・・・・・えっ?」

 ボボッと火を吹きかねない勢いで真っ赤に染まる。

「あの、あの、だって、それはその、私はいいけど、ビュワード様がどう思うかしら」
「ビュワード君の気持ちは後で確認する。ゴールディアはビュワード君でいいんだな」
「私よりビュワード様を尊重してあげてほしいんです。嫌々はかわいそうだから」

 アクシミリオは、ゴールディアがビュワードを慕っていることを感じとった。

「ではもしビュワード君が嫌だと言ったら、おまえはそれでいいのか?」
「えっ」

 一瞬泣きそうな顔をしたゴールディアを見て、メルダが射殺しそうな視線をアクシミリオに向ける。

「冗談だよ、冗談!
あれ程のことがあったのに立ち直ろうと、謙虚に努力を続けている。私もメルダもそんなビュワード君が大好きで、是非家族に迎えたいと思っているんだ。ディアと私たちでビュワード君を幸せにしてやりたいと本気で思っているし、彼を息子に迎えることを簡単に諦める気はないぞ!
ただ彼にはなんとなくじゃ駄目だ。ディアはどうなんだ?本当の気持ちを教えてくれ」

 メルダの視線が和らぐのを感じ、ほぅっと息をつくと、アクシミリオはゴールディアの手を取った。

「彼は傷ついて、そうだな・・・手に入れたものを失くしたくないと臆病になっている。失くさないためには、最初から手にしなければいいと思っているような感じがあるからな」
「ああ、それわかるわ。失恋して、二度とあんな思いはしたくないから、もう恋はしないみたいなね」

 メルダの例えにアクシミリオが首を傾げる。

「んん?なんだメルダ、失恋したことがあるみたいない言い方じゃないか!」
「え?あら、ち、ちがうわよ。ほら恋愛小説によくそう言うお話があるから、ねええ。おほほほ」

 何だかんだ仲が良い両親の話はともかく。
母の例えは、ゴールディアにもよくわかった。



 ─失くすのが怖いから、手にするのが怖い、か─



「ディア、好きなら手に入れるのよ!それがビュワード様の安寧でもあるのだから」

 母の強気の言葉がゴールディアの背を押す。



「私、ビュワード様とお話してきます」


 うん!と頷いたアクシミリオが、親指をぐぃっと立てて見せた。
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