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第31話
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スミール伯爵ドレドは、ビュワード帰還の報せにゴールディア・ミリタスの屋敷を訪れた。
ビュワードが屋敷に戻りたくないのは仕方ないことだと思いながらも、先妻ヌーラとの思い出のある屋敷を厭われて悲しくもある。
「私はなんて勝手なんだ。そこまでビュワードを傷つけたのは私たちだというのにな」
虚しく笑うと護衛二人を連れてミリタス家へ向かった。
「折り入ってビュワード君に相談したいことがあるんだが」
アクシミリオに呼ばれ、小さな執務室に現れたビュワードは侯爵だけでなく、メルダも待ち受けていたことに驚いた。
「ビュワード様も座って」
メルダに勧められ、沈みこむほどクッションが柔らかなソファに座ると、夫妻がズズっと身を乗り出してくる。
「ビュワード君は、家のゴールディアをどう思うね?」
「はあ、どう、とは・・・?優しい方だと思います」
「優しい!そうよね、ゴールディアは優しいのよとぉっても」
「ああ、ビュワード君がそう思っていてくれてうれしいよ」
ビュワードはキョトンとした。
「それでだね、もしその優しいゴールディアと、その、婚約しないかと言われたらどう思うかな?」
あまり顔に感情が出ないビュワードだが、この時は、目が点!となっていた。
「い、いや、私なんかでは不釣り合いですから」
ふるふると首を横にするが、侯爵夫妻は諦めるつもりなど毛頭ない。
「伯爵家と侯爵家なら不釣り合いではないわ。私たちがビュワード様をうちの子に迎えたいの。養子でもいいけど、ゴールディアという同じ年頃の娘もいるのだし、貴方たちはすごくお似合いだと思うの。だからもし嫌じゃなければどうかしらって思って。ゴールディアのこと嫌い?」
「え?いや、あの、嫌いじゃないですが」
「じゃあ好きなのね!」
畳み掛けるようにメルダはうまく誘導した。
「あの・・・」
詰んだように見えたビュワードだが、ゴールディアを好き嫌いかとの二択で訊かれたら、好きと答えるしかない。
暗闇の中に天使のように現れた一筋の希望の光、それがビュワードにとってのゴールディアだった。
嫌だなんてとんでもない!
実のところあまりに眩しすぎる存在で、自分と婚約なんて畏れ多いと、思わず不釣り合いと言ってしまった。
でも夫妻はニヤニヤとしただけで。
「まだ時間はあるから、ゆっくりと考えてみてくれ。良い返事を私たちは待っているよ」
そう言ったあと、まるでこどもにするように、アクシミリオが頭を撫でた。
ひとりになると、ビュワードは顔が熱いことに気づく。緊張と興奮と驚きで火照っているらしい。
『私たちがビュワード様をうちの子に迎えたいの』
メルダの声が頭の中に響いている。
夢のような。
─ここに来て、こんな親が欲しかったとどれほど思ったことか─
ビュワードはゴールディアの美しい瞳を脳裏に思い浮かべる。
─ゴールディア・ミリタス侯爵令嬢。
優しくしてくれた数少ない人だ。
初めて呼び止められキリリとした彼女の顔を見たとき、あまりの美しさに我を忘れるほどだった。
彼女と結婚?嘘だろう?本当に?
侯爵閣下と夫人が、私を?
私なんかでいいのだろうか?─
イエスと言いたい気持ちと、そんな烏滸がましいことを言ってはいけないという気持ちとで、ビュワードは揺れ動いていた、
ビュワードが屋敷に戻りたくないのは仕方ないことだと思いながらも、先妻ヌーラとの思い出のある屋敷を厭われて悲しくもある。
「私はなんて勝手なんだ。そこまでビュワードを傷つけたのは私たちだというのにな」
虚しく笑うと護衛二人を連れてミリタス家へ向かった。
「折り入ってビュワード君に相談したいことがあるんだが」
アクシミリオに呼ばれ、小さな執務室に現れたビュワードは侯爵だけでなく、メルダも待ち受けていたことに驚いた。
「ビュワード様も座って」
メルダに勧められ、沈みこむほどクッションが柔らかなソファに座ると、夫妻がズズっと身を乗り出してくる。
「ビュワード君は、家のゴールディアをどう思うね?」
「はあ、どう、とは・・・?優しい方だと思います」
「優しい!そうよね、ゴールディアは優しいのよとぉっても」
「ああ、ビュワード君がそう思っていてくれてうれしいよ」
ビュワードはキョトンとした。
「それでだね、もしその優しいゴールディアと、その、婚約しないかと言われたらどう思うかな?」
あまり顔に感情が出ないビュワードだが、この時は、目が点!となっていた。
「い、いや、私なんかでは不釣り合いですから」
ふるふると首を横にするが、侯爵夫妻は諦めるつもりなど毛頭ない。
「伯爵家と侯爵家なら不釣り合いではないわ。私たちがビュワード様をうちの子に迎えたいの。養子でもいいけど、ゴールディアという同じ年頃の娘もいるのだし、貴方たちはすごくお似合いだと思うの。だからもし嫌じゃなければどうかしらって思って。ゴールディアのこと嫌い?」
「え?いや、あの、嫌いじゃないですが」
「じゃあ好きなのね!」
畳み掛けるようにメルダはうまく誘導した。
「あの・・・」
詰んだように見えたビュワードだが、ゴールディアを好き嫌いかとの二択で訊かれたら、好きと答えるしかない。
暗闇の中に天使のように現れた一筋の希望の光、それがビュワードにとってのゴールディアだった。
嫌だなんてとんでもない!
実のところあまりに眩しすぎる存在で、自分と婚約なんて畏れ多いと、思わず不釣り合いと言ってしまった。
でも夫妻はニヤニヤとしただけで。
「まだ時間はあるから、ゆっくりと考えてみてくれ。良い返事を私たちは待っているよ」
そう言ったあと、まるでこどもにするように、アクシミリオが頭を撫でた。
ひとりになると、ビュワードは顔が熱いことに気づく。緊張と興奮と驚きで火照っているらしい。
『私たちがビュワード様をうちの子に迎えたいの』
メルダの声が頭の中に響いている。
夢のような。
─ここに来て、こんな親が欲しかったとどれほど思ったことか─
ビュワードはゴールディアの美しい瞳を脳裏に思い浮かべる。
─ゴールディア・ミリタス侯爵令嬢。
優しくしてくれた数少ない人だ。
初めて呼び止められキリリとした彼女の顔を見たとき、あまりの美しさに我を忘れるほどだった。
彼女と結婚?嘘だろう?本当に?
侯爵閣下と夫人が、私を?
私なんかでいいのだろうか?─
イエスと言いたい気持ちと、そんな烏滸がましいことを言ってはいけないという気持ちとで、ビュワードは揺れ動いていた、
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