上 下
25 / 63

第25話

しおりを挟む
 項垂れたトリードを眺めても、ゴールディアに同情心は湧かない。だいぶくたびれて見えるが、それでも以前のビュワードよりはるかにマシな姿をしているのだ。

「退学と謹慎だけ?あれだけのことをしておいて、それだけで済ませるつもりなのかしら」

 不満そうな声が、形の良い口から漏れた。

 ゴールディアはどうも誤解されやすく、世間で言われているような意地悪ではないのだが、ビュワードのあの姿を知る身としては、このままトリードが大した罰も受けずに許されるのはおかしいと感じていた。




 前の学院で、結果的に虐めと認められてしまったゴールディアは退学させられたが、実際は貴族令嬢としての振る舞いを厳しく教えていただけだと、味方してくれた者も多かった。
 ただ相手が男子生徒に人気が高い弱々しく儚げな令嬢で、キリリと正攻法をぶちかますゴールディアに恐れをなして人前で泣いてしまい、悪役にされてしまっただけ。
 領地に戻れば親しい友人も多く、今も遠い地に行かされたゴールディアを気遣う手紙や贈り物が多く届けられている。

 トリード・スミールはそんなゴールディアとはまったく違う。今まで被っていたやさしい兄の仮面が引き剥がされ、それまで友人だった者も次々手のひらを返していくのだ。

「自業自得だわ」

 今頃はミリタス侯爵家に到着し、世話好きな母に保護されただろうビュワードを思い、少しだけ溜飲を下げた。

「それにしても酷い話だな」
「そう言えば、彼の弟って噂は凄いけど姿を見たことはなかったよな」
「あ!確かにそうだな。普通、悪い奴って目立つと思うが」
「気の毒だよなあ、さっきの侯爵様の話ゾッとしたよ。水で湯浴みさせられてたなんて」
「同じクラスの奴は、何考えていたんだろうな」

 ドレドの処罰は甘いと思ったゴールディアだが、隣りに並ぶ生徒たちが自分の耳で聞いたばかりの情報を整理していくのを聞きながら、こうして皆の口で噂が広まり、トリードは長きに渡り社交界から冷たい目で見られるのだと気づいて満足した。



 その冷たい目は、今まさにトリードに突き刺さっている。
 講堂に集められた教師や生徒たちにすべてを話したあと、憎き者を睨みつけるような強い視線を感じて顔を上げられなくなった。隣りに立つ父も気づいているだろうが、庇ってくれることもない。
 大変なことをしたと震えたが、それでもまだどこか楽観的に考えていた。これまでの自分の人気の高さ、多くの親しい友人たちとの関係は変わらないと。

「よくも私たちを騙したな、この恥知らず」

 壇上から下り、父について講堂の出口で、教室に戻る生徒たちひとりひとりに頭を下げるトリードに言葉を吐きかけた者がいた。

「カイン、すまなかった」
「はっ?すまなかっただと?おまえの嘘のせいで私も同罪だ!絶対に許さないからな」

 親友のはずのカイン・シズリーの言葉に冷水を浴びせられたように凍りつく。失うわけがないと思っていたものは、もう指の間から滑り落ちていたのだ。

 ドレドは息子に向けられたどれほどの罵声を聞いても、一切異を唱えることなく、ただ学院や生徒たちにも迷惑をかけたと頭を下げ続けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

推ししか勝たん!〜悪役令嬢?なにそれ、美味しいの?〜

みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは前世で読んだラノベの世界で、自分が悪役令嬢だったとか、それこそラノベの中だけだと思っていた。 だけど、どう見ても私の容姿は乙女ゲーム『愛の歌を聴かせて』のラノベ版に出てくる悪役令嬢・・・もとい王太子の婚約者のアナスタシア・アデラインだ。 ええーっ。テンション下がるぅ。 私の推しって王太子じゃないんだよね。 同じ悪役令嬢なら、推しの婚約者になりたいんだけど。 これは、推しを愛でるためなら、家族も王族も攻略対象もヒロインも全部巻き込んで、好き勝手に生きる自称悪役令嬢のお話。

処理中です...