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第25話
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項垂れたトリードを眺めても、ゴールディアに同情心は湧かない。だいぶくたびれて見えるが、それでも以前のビュワードよりはるかにマシな姿をしているのだ。
「退学と謹慎だけ?あれだけのことをしておいて、それだけで済ませるつもりなのかしら」
不満そうな声が、形の良い口から漏れた。
ゴールディアはどうも誤解されやすく、世間で言われているような意地悪ではないのだが、ビュワードのあの姿を知る身としては、このままトリードが大した罰も受けずに許されるのはおかしいと感じていた。
前の学院で、結果的に虐めと認められてしまったゴールディアは退学させられたが、実際は貴族令嬢としての振る舞いを厳しく教えていただけだと、味方してくれた者も多かった。
ただ相手が男子生徒に人気が高い弱々しく儚げな令嬢で、キリリと正攻法をぶちかますゴールディアに恐れをなして人前で泣いてしまい、悪役にされてしまっただけ。
領地に戻れば親しい友人も多く、今も遠い地に行かされたゴールディアを気遣う手紙や贈り物が多く届けられている。
トリード・スミールはそんなゴールディアとはまったく違う。今まで被っていたやさしい兄の仮面が引き剥がされ、それまで友人だった者も次々手のひらを返していくのだ。
「自業自得だわ」
今頃はミリタス侯爵家に到着し、世話好きな母に保護されただろうビュワードを思い、少しだけ溜飲を下げた。
「それにしても酷い話だな」
「そう言えば、彼の弟って噂は凄いけど姿を見たことはなかったよな」
「あ!確かにそうだな。普通、悪い奴って目立つと思うが」
「気の毒だよなあ、さっきの侯爵様の話ゾッとしたよ。水で湯浴みさせられてたなんて」
「同じクラスの奴は、何考えていたんだろうな」
ドレドの処罰は甘いと思ったゴールディアだが、隣りに並ぶ生徒たちが自分の耳で聞いたばかりの情報を整理していくのを聞きながら、こうして皆の口で噂が広まり、トリードは長きに渡り社交界から冷たい目で見られるのだと気づいて満足した。
その冷たい目は、今まさにトリードに突き刺さっている。
講堂に集められた教師や生徒たちにすべてを話したあと、憎き者を睨みつけるような強い視線を感じて顔を上げられなくなった。隣りに立つ父も気づいているだろうが、庇ってくれることもない。
大変なことをしたと震えたが、それでもまだどこか楽観的に考えていた。これまでの自分の人気の高さ、多くの親しい友人たちとの関係は変わらないと。
「よくも私たちを騙したな、この恥知らず」
壇上から下り、父について講堂の出口で、教室に戻る生徒たちひとりひとりに頭を下げるトリードに言葉を吐きかけた者がいた。
「カイン、すまなかった」
「はっ?すまなかっただと?おまえの嘘のせいで私も同罪だ!絶対に許さないからな」
親友のはずのカイン・シズリーの言葉に冷水を浴びせられたように凍りつく。失うわけがないと思っていたものは、もう指の間から滑り落ちていたのだ。
ドレドは息子に向けられたどれほどの罵声を聞いても、一切異を唱えることなく、ただ学院や生徒たちにも迷惑をかけたと頭を下げ続けていた。
「退学と謹慎だけ?あれだけのことをしておいて、それだけで済ませるつもりなのかしら」
不満そうな声が、形の良い口から漏れた。
ゴールディアはどうも誤解されやすく、世間で言われているような意地悪ではないのだが、ビュワードのあの姿を知る身としては、このままトリードが大した罰も受けずに許されるのはおかしいと感じていた。
前の学院で、結果的に虐めと認められてしまったゴールディアは退学させられたが、実際は貴族令嬢としての振る舞いを厳しく教えていただけだと、味方してくれた者も多かった。
ただ相手が男子生徒に人気が高い弱々しく儚げな令嬢で、キリリと正攻法をぶちかますゴールディアに恐れをなして人前で泣いてしまい、悪役にされてしまっただけ。
領地に戻れば親しい友人も多く、今も遠い地に行かされたゴールディアを気遣う手紙や贈り物が多く届けられている。
トリード・スミールはそんなゴールディアとはまったく違う。今まで被っていたやさしい兄の仮面が引き剥がされ、それまで友人だった者も次々手のひらを返していくのだ。
「自業自得だわ」
今頃はミリタス侯爵家に到着し、世話好きな母に保護されただろうビュワードを思い、少しだけ溜飲を下げた。
「それにしても酷い話だな」
「そう言えば、彼の弟って噂は凄いけど姿を見たことはなかったよな」
「あ!確かにそうだな。普通、悪い奴って目立つと思うが」
「気の毒だよなあ、さっきの侯爵様の話ゾッとしたよ。水で湯浴みさせられてたなんて」
「同じクラスの奴は、何考えていたんだろうな」
ドレドの処罰は甘いと思ったゴールディアだが、隣りに並ぶ生徒たちが自分の耳で聞いたばかりの情報を整理していくのを聞きながら、こうして皆の口で噂が広まり、トリードは長きに渡り社交界から冷たい目で見られるのだと気づいて満足した。
その冷たい目は、今まさにトリードに突き刺さっている。
講堂に集められた教師や生徒たちにすべてを話したあと、憎き者を睨みつけるような強い視線を感じて顔を上げられなくなった。隣りに立つ父も気づいているだろうが、庇ってくれることもない。
大変なことをしたと震えたが、それでもまだどこか楽観的に考えていた。これまでの自分の人気の高さ、多くの親しい友人たちとの関係は変わらないと。
「よくも私たちを騙したな、この恥知らず」
壇上から下り、父について講堂の出口で、教室に戻る生徒たちひとりひとりに頭を下げるトリードに言葉を吐きかけた者がいた。
「カイン、すまなかった」
「はっ?すまなかっただと?おまえの嘘のせいで私も同罪だ!絶対に許さないからな」
親友のはずのカイン・シズリーの言葉に冷水を浴びせられたように凍りつく。失うわけがないと思っていたものは、もう指の間から滑り落ちていたのだ。
ドレドは息子に向けられたどれほどの罵声を聞いても、一切異を唱えることなく、ただ学院や生徒たちにも迷惑をかけたと頭を下げ続けていた。
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