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第13話

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 ビュワードのその姿は、小さな頃そばにいた使用人たちが心配していた時とたいして変わらぬまま、ただ手足がひょろりと伸びただけのものだ。

 げっそりと頬がこけて薄汚れた顔、髪はザンバラにべったりとして、よく見ると、あちらこちらに青痣があるではないか。
 服は体のサイズにまったく合っていないだぶだぶの物で、これも薄汚れ、袖も裾も擦り切れている。
さっき羽織ってみせた制服もそうだったと思い出す。

 今更だが、ドレドは強い衝撃を受けた。


 ─貴族の子どもがこのような姿で通学していたと?
普通ならこの姿を見たら、我がスミール伯爵家は一体どうなっているのかと思うに違いない。学院の教師共は何故トリードの言うことを真に受けたのだ?トリードの奴、家名を汚すようなことを!そしてアニタだ!─


 俯いて震えているドレドを、思考の沼から引きずり出したのはアクシミリオだった。

「それで?何か言うことはないのかね?」
「も、申し訳ございませんでした。知らぬこととは言え、私の不徳の致すところにございます」
「知らぬことだと?貴殿が気にしていなかっただけだろう?貴殿が一度でも自分の息子の顔を見て話していれば、異変にすぐ気づけたはずだ。こんなに長いこと知らなかったと言うなど、烏滸がましいと思うが違うかね?」

 声音の冷たさに、ビュワードさえ震えるほどだ。

「それに、申し訳ないと謝るのは私にではなかろう」

 アクシミリオの視線がビュワードへの謝罪を促している。

「ビュワード、今までのことを知らなかったで済ませるつもりはない。申し訳なかった、このとおりだ。これからはすべて改善させる。本当だ、約束する!」

 馬車の中なので座ったままだが、深々と頭を下げた父を見ても、ビュワードは許すとも許さないとも言えなかった。

 ずいぶんと長いこと顔を見ることすらなかった父に、なんの感情も湧くことはない。

「大丈夫かね?」

 アクシミリオの問いには、小さく「はい」と答えた。

 息子の言葉を聞いて、自分が拒絶されたと知ったドレドは、がっくりと項垂れた。



「ビュワード君」

アクシミリオは敢えて、ビュワードの名を呼ぶ。

「今回のことは私の娘ゴールディアが君を気の毒に思い、私に調べるよう頼んだことから明るみになった。いいかい?君は一人ではない。ゴールディアは間違いなく君の味方だし、私や私の妻もだ。これを読めば如何に君を大切に思う人々がたくさんいるかわかるだろう。だから下を向くことなく、正々堂々と顔を上げて歩くのだよ」

 アクシミリオにポンと肩を叩かれたビュワードは、そろそろと顔を上げた。

「ゴールディアの屋敷に戻ったら、まず君には湯浴みをしてもらおう。その間に服を用意させる。暫くは学院を休んで、そうだ!我が屋敷で静養して、体調を整えるといい。その間は家庭教師を手配してやろう」
「あ、あのっ、それは我が家で私が」
「貴殿を信用しろと言うのか?今しばらくは私の目の届くところで見てやるほうが安心だ。なに、ミリタス侯爵家からの取引先への心遣いだ、気にせずに受け取るがいい」

 アクシミリオは、ドレドの二の句は許さなかった。
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