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第10話
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「スミール伯爵、貴殿はなんと愚かなのだ!自分の息子の姿を良く見たまえ。この痩せこけた姿を!」
そう言って、ビュワードの部屋へ踏み込むと、大きなたらいが部屋の隅に置かれているのが見えた。
「君、これは何だね?」
「あ、あの・・・」
父にチラリと怯えた視線をやると、こちらを見ていることに気づいて俯いてしまうが。
「心配しなくともよい。申し遅れたが、私はゴールディアの父でアクシミリオ・ミリタス侯爵だ。君の事情はわかっている。安心して本当のことを話してくれ」
少し腰を屈め、視線を近づけて優しく微笑んでみせると、確かにアクシミリオにはゴールディアの面影が見られた。
少し安心したビュワードはおずおずと口を開く。
「そ、それは、体を洗うたらいです」
息子の言葉にドレドは驚愕した。
広い部屋を与えたはずなのに厭味ったらしくこのような薄暗いところに閉じ籠もり、たらいが風呂などと、どうかしていると。
「嘘をつくなっ!」
「黙りたまえ!君の制服を見せてくれないか」
厳しい声のあと、優しく語りかけると、のろのろと背中を丸めたビュワードはかけてあった制服を恥ずかしそうに持って来た。
「羽織ってみてくれるかな」
上着を羽織らせると明らかにぶかぶかで、袖は擦り切れ、全体に薄汚れている。
「こらビュワード!わざとらしくそんなものを着るなんて、嫌がらせかっ!」
憤ったドレドが怒鳴りつけると、ビュワードは頭を抱えて体を丸め、座り込んだ。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ぶたないで」
ドレドを押し退けたアクシミリオが、ビュワードを立たせて汚れた体を抱きしめてやると、安心したのか声を殺して涙をこぼした。
「最低だな」
アクシミリオの責める声に、ドレドは激昂した。
「何がだ!如何に侯爵といえどズカズカと他人の屋敷に上がり込んで、当主の私を貶めるなど許されんぞ!」
「ほお、ではこれを見ても何も思わないのか?」
アクシミリオはゴールディアから聞いていたビュワードの腕の痣を、袖を捲って顕にしてみせた。
「かわいそうに」
ドレドは今見ていることが理解できなかった。出来損ないと言われて久しい我儘息子の腕に痣があるからと言って、それがなんだというのだと。
腕を組み、胸を反らした姿に不満が溢れていた。
「君も一緒にと、娘が言ったはずだが?」
アクシミリオの言葉に小さく頷いたが、ビュワードは悲しげに呟いた。
「・・・でも私は行かれないんです」
「大丈夫だ、私が招待したのだから気にしなくていい。今夜だけではないぞ、君は暫く我が家に滞在してはどうだ?見る限り療養が必要そうだが、ここは療養に適した環境にはとても見えないからな」
ドレドは途中何度も異を唱えようとしたのだが、そのたびにアクシミリオの強烈な圧が込められた視線に口を噤まされている。
「スミール伯爵。ミリタス侯爵である私がご令息の療養を引き受けようと申し出ているのだ、もちろん貴殿は嫌とは言うまいな」
顔を寄せて囁くアクシミリオのあまりの眼力に、ドレドは顔を反らして頷いてしまった。
「愚息をよろしくお、お願い致します」と。
そう言って、ビュワードの部屋へ踏み込むと、大きなたらいが部屋の隅に置かれているのが見えた。
「君、これは何だね?」
「あ、あの・・・」
父にチラリと怯えた視線をやると、こちらを見ていることに気づいて俯いてしまうが。
「心配しなくともよい。申し遅れたが、私はゴールディアの父でアクシミリオ・ミリタス侯爵だ。君の事情はわかっている。安心して本当のことを話してくれ」
少し腰を屈め、視線を近づけて優しく微笑んでみせると、確かにアクシミリオにはゴールディアの面影が見られた。
少し安心したビュワードはおずおずと口を開く。
「そ、それは、体を洗うたらいです」
息子の言葉にドレドは驚愕した。
広い部屋を与えたはずなのに厭味ったらしくこのような薄暗いところに閉じ籠もり、たらいが風呂などと、どうかしていると。
「嘘をつくなっ!」
「黙りたまえ!君の制服を見せてくれないか」
厳しい声のあと、優しく語りかけると、のろのろと背中を丸めたビュワードはかけてあった制服を恥ずかしそうに持って来た。
「羽織ってみてくれるかな」
上着を羽織らせると明らかにぶかぶかで、袖は擦り切れ、全体に薄汚れている。
「こらビュワード!わざとらしくそんなものを着るなんて、嫌がらせかっ!」
憤ったドレドが怒鳴りつけると、ビュワードは頭を抱えて体を丸め、座り込んだ。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ぶたないで」
ドレドを押し退けたアクシミリオが、ビュワードを立たせて汚れた体を抱きしめてやると、安心したのか声を殺して涙をこぼした。
「最低だな」
アクシミリオの責める声に、ドレドは激昂した。
「何がだ!如何に侯爵といえどズカズカと他人の屋敷に上がり込んで、当主の私を貶めるなど許されんぞ!」
「ほお、ではこれを見ても何も思わないのか?」
アクシミリオはゴールディアから聞いていたビュワードの腕の痣を、袖を捲って顕にしてみせた。
「かわいそうに」
ドレドは今見ていることが理解できなかった。出来損ないと言われて久しい我儘息子の腕に痣があるからと言って、それがなんだというのだと。
腕を組み、胸を反らした姿に不満が溢れていた。
「君も一緒にと、娘が言ったはずだが?」
アクシミリオの言葉に小さく頷いたが、ビュワードは悲しげに呟いた。
「・・・でも私は行かれないんです」
「大丈夫だ、私が招待したのだから気にしなくていい。今夜だけではないぞ、君は暫く我が家に滞在してはどうだ?見る限り療養が必要そうだが、ここは療養に適した環境にはとても見えないからな」
ドレドは途中何度も異を唱えようとしたのだが、そのたびにアクシミリオの強烈な圧が込められた視線に口を噤まされている。
「スミール伯爵。ミリタス侯爵である私がご令息の療養を引き受けようと申し出ているのだ、もちろん貴殿は嫌とは言うまいな」
顔を寄せて囁くアクシミリオのあまりの眼力に、ドレドは顔を反らして頷いてしまった。
「愚息をよろしくお、お願い致します」と。
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