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第9話

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 そろそろ日も暮れようという頃、食前に話をしようと早めに招かれたスミール伯爵家の三人・・がやって来た。

 想定はしたが、まさかそれはないだろうと楽観的に考えていたアクシミリオは、怒りから小さく震えている。

「夫人と令息を茶でもてなし、時間を稼ぐようゴールディアに言ってくれ、それから馬車と護衛をエントランスに」

 アダミーに言い付けたアクシミリオは、ドレドを伴い執務室に向かう。

「ここで話そうと思っていたのだが、気が変わった。すぐに移動する」

 ドレドに意思を聞くことはしない。

「こちらへ」

 そう言って連れて行ったのは停められた馬車。

「あの閣下、何故馬車に?」
「今からふたりで貴殿の屋敷に向かう」
「は?私の屋敷にでございますか?」
「そうだ!家族四人でと指定したはずだ。来ていない令息を迎えに行く」
「ええ?そんなことくらいで?息子は病で寝込んでいるから連れてこなかっただけですよ?」
「病だと?」

 ドレドはアクシミリオに腹を立てていた。
言葉遊びのようなくだらない理由で、何故わざわざ屋敷にビュワードを迎えに行くなどと言われるのかと。

「貴殿は本当に知らぬのか?令息は今日も普通に学院に通っておった」
「え?まさかそんなはずはございませんが」
「ほお、我が娘が学院で会って話をしたと言うのは嘘か?」

 わざとらしく片眉を上げ、ドレドに迫る。
ドレドはビュワードとゴールディアが会話する仲とは知らなかった。

「では貴殿は、屋敷を出る前に病に倒れたというご令息の様子を見てきたのだろうな?」

 そう言われてドレドはグッと唇を噛む。

「い、いえ。ただ妻がビュワードは具合が悪くて寝ていると申しましたので」

 しどろもどろという言葉がぴったりな様子だが、アクシミリオは面白くもなんともなかった。





 スミール伯爵家は、ゴールディの別宅から馬車でも半刻ほどと近いエリアにある。

「着いたぞ、早く令息の部屋へ案内したまえ!」

 まるで我が家のように、初めて訪れたスミール伯爵家の中に踏み込むアクシミリオを誰も止められない。

「閣下!お、お待ち下さいっ!」
「早う案内せい!」

 逆らえず、ドレドが執事に案内させると2階の北側にある部屋の前に立った。日の当たらないせいか暗がりが扉の前に広がっている。

「え?この部屋だったか?」

 ドレドの記憶では日の当たる広い部屋を与えたはずだったが、その暗さに今更ながら驚いていた。

「ここかね?」
「は、はい」

 アクシミリオがドアをノックすると、小さな声で「はい」と聞こえ、まもなくギィっと軋む音をたてながらゆっくりと扉が開けられる。
まだ夕陽の射し込む時間だというのに、真っ暗な中、一本の蝋燭が灯されただけの寒々しく狭い部屋の中に痩せこけた少年が佇んでいた。

「君がビュワード君か?なんと酷い有様なのだ・・・」

 ギロリとドレドを睨みつけると、部屋の様子がおかしいと思いながらもけろりと言った。

「だから病だと言ったではありませんか」
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