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第7話
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「そうだ、スミール伯爵一家を食事にでも招いてみるか」
アクシミリオが思いついたように言う。
「お母様がいらっしゃらないですが、よろしいのですか?」
「ん?ああ。旅行先から呼び戻すわけにもいかないし、商談を兼ねてやったと言えばわかってくれるだろう」
侯爵夫人メルダは、ゴールディアの上を行くお節介焼きだ。貴族は弱き者を守り助けねばならない!を実践し続けている。孤児院にも頻繁に通い、こどもたちの養子先をせっせと探しているため、ミリタス領の孤児院は子供が少ないのが自慢である。だからかわいそうな少年がいたなどと聞いたら、自分がなんとかしてやると腕を捲って動き出すのは目に見えていた。
そう、ミリタス侯爵家の家族三人は、義侠心溢れるお節介焼き集団であった。
国内有数の財力を持ち、それを領内の平民のこどもたちの教育にも惜しみなく使う。育てられたこどもたちは、ミリタス侯爵家に忠誠を誓い、身を粉にして働いて恩を返そうとする。
良い循環が生まれて更に発展し、ミリタスは人に支えられて大きくなったとアクシミリオは自慢に思っていた。
「ではスミール伯爵家に招待状を」
「そんな唐突ではありませんか」
「いや、スミール芋の購入を増やしたいと交渉を始めたところだからな。その流れくらいにしか思わんだろう」
アダミーを近くに呼び寄せたアクシミリオは付け加えた。
「家族四人揃って来訪されるよう書き添えておけよ」
スミール伯爵家では、久しぶりに戻ったドレドにミリタス侯爵からの招待状が届いていた。
「ミリタス侯爵はここにも屋敷をお持ちなのか!ん?家族四人揃ってだと・・・」
トリードとアニタはともかく、ビュワードを連れて行くのはどうだろうと、躊躇う気持ちが顔に浮かぶ。
「アニタを呼んでくれ」
妻に相談すると目を吊り上げてダメだと言った。
「とんでもないわ!あんな出来損ないを連れて行ったら我が家の恥ですわよ!絶対にダメ。ミリタス侯爵には病だと言って、トリードと三人で参りましょう!」
「いやしかしだな」
「大丈夫ですわ!病を押してまで連れて来いとは仰らないと思いますもの、ね!じゃあトリードと私の服を仕立てさせましょう」
有無を言わさず。
アニタはそう決めさせると、いそいそと出て行った。
「うむ、まあ仕方あるまい」
これはアクシミリオの一種の罠であった。
ビュワードを連れてくれば、その扱いを見ることができる。普通に扱っていても、ゴールディアや報告書にあった様子を確認することはできるだろう。
もし連れて来なければ・・・。
そういう事と判断せざるを得ないだろう。
報告書を信用しないわけではないが、自分の子にそんな酷いことができる者がいるとはとても信じられないアクシミリオは、さすがに連れて来ない選択肢などある訳がないと、フッと笑いをこぼした。
アクシミリオが思いついたように言う。
「お母様がいらっしゃらないですが、よろしいのですか?」
「ん?ああ。旅行先から呼び戻すわけにもいかないし、商談を兼ねてやったと言えばわかってくれるだろう」
侯爵夫人メルダは、ゴールディアの上を行くお節介焼きだ。貴族は弱き者を守り助けねばならない!を実践し続けている。孤児院にも頻繁に通い、こどもたちの養子先をせっせと探しているため、ミリタス領の孤児院は子供が少ないのが自慢である。だからかわいそうな少年がいたなどと聞いたら、自分がなんとかしてやると腕を捲って動き出すのは目に見えていた。
そう、ミリタス侯爵家の家族三人は、義侠心溢れるお節介焼き集団であった。
国内有数の財力を持ち、それを領内の平民のこどもたちの教育にも惜しみなく使う。育てられたこどもたちは、ミリタス侯爵家に忠誠を誓い、身を粉にして働いて恩を返そうとする。
良い循環が生まれて更に発展し、ミリタスは人に支えられて大きくなったとアクシミリオは自慢に思っていた。
「ではスミール伯爵家に招待状を」
「そんな唐突ではありませんか」
「いや、スミール芋の購入を増やしたいと交渉を始めたところだからな。その流れくらいにしか思わんだろう」
アダミーを近くに呼び寄せたアクシミリオは付け加えた。
「家族四人揃って来訪されるよう書き添えておけよ」
スミール伯爵家では、久しぶりに戻ったドレドにミリタス侯爵からの招待状が届いていた。
「ミリタス侯爵はここにも屋敷をお持ちなのか!ん?家族四人揃ってだと・・・」
トリードとアニタはともかく、ビュワードを連れて行くのはどうだろうと、躊躇う気持ちが顔に浮かぶ。
「アニタを呼んでくれ」
妻に相談すると目を吊り上げてダメだと言った。
「とんでもないわ!あんな出来損ないを連れて行ったら我が家の恥ですわよ!絶対にダメ。ミリタス侯爵には病だと言って、トリードと三人で参りましょう!」
「いやしかしだな」
「大丈夫ですわ!病を押してまで連れて来いとは仰らないと思いますもの、ね!じゃあトリードと私の服を仕立てさせましょう」
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「うむ、まあ仕方あるまい」
これはアクシミリオの一種の罠であった。
ビュワードを連れてくれば、その扱いを見ることができる。普通に扱っていても、ゴールディアや報告書にあった様子を確認することはできるだろう。
もし連れて来なければ・・・。
そういう事と判断せざるを得ないだろう。
報告書を信用しないわけではないが、自分の子にそんな酷いことができる者がいるとはとても信じられないアクシミリオは、さすがに連れて来ない選択肢などある訳がないと、フッと笑いをこぼした。
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