【完結】虐げられた伯爵令息は、悪役令嬢一家に溺愛される

第５話

　ゴールディアの願いは執事アダミーの書状によりあっという間に叶えられることとなった。

　娘が大好きなミリタス侯爵は、即スミール伯爵家に手を伸ばした。
表向きはもっと取引を増やしたいと商いのための使者だが、実は調査を専門にする部下を送り込んでいた。

　部下からの早馬の報告書を見て、ミリタス侯爵アクシミリオは驚いた。

　その報告書は、僅かな時間で作成されたにも関わらず微に入り細に入り、スミール伯爵家の内部が手に取るようにわかるもの。証言する者が多かったということだろう、それはつまり、大きな不満が隠されていることにほかならない。

「こどもは男子が二人。先妻は一人目二人目がそれぞれ出産で亡くなり、子のいない三人目の妻は長男を可愛がっている。なさぬ仲の子を可愛がるのは良いことだが、可愛がるのは一人だけなのか」

　今スミールの屋敷で起きていることは、ゴールディアが想像した通りに書かれており、アクシミリオは顔を顰めた。

　以前スミール伯爵家で働いていた者が何人も見つかり、聞き取りを行っている。
　ビュワードに対してあまりにも酷いとアニタに声を上げ、辞めさせられた者たちだ。メイドや侍従、家庭教師に執事をしていた者まで、多岐に渡り話を聞くことができたようだ。

「ん？執事まで辞めさせた？・・・スミール伯爵は後妻に何もかも任せているのか？」

　執事は家の裏の裏まで知り尽くしているので、通常なら横領でもしない限り、辞めさせることは稀である。むしろ執事の子も執事となり、代々仕え続けるほうが普通だろう。

「令息は勉強はかなり出来るようだな。しかしこれが本当なら酷いものだ。スミール伯爵はなぜ息子がこれほどの目に遭っているのに放置しているのだろう？」

　食事は一日一食、付けられていた家庭教師も辞めさせられ、部屋の掃除も服の洗濯も誰もしてやっていない。おまけに頭に乗った後妻や長男の憂さ晴らしに暴力を受けていると書かれている。

「なんだこれは！」

　学院では先に入学していた長男たちに噂を広められ、家で傍若無人に振る舞うろくでなしだと後ろ指を指されて孤立。それを教師の誰も咎めていないとある。

　転入して僅か数日でこの令息の不遇を察知したゴールディアが、心から誇らしいとアクシミリオは褒めてやりたくなった。

　そして、あまりにも気の毒なこの少年になんとか手を差し伸べることはできないものかと、まだ別れて十日も経っていないがゴールディアの元へ向かうことに決めた。



「お父様が？」
「はい。明日にはこちらにいらっしゃるそうです」
「まあ！」
「例の件でご相談があるそうですよ」

　心得たと、視線で返すゴールディアと受け取ったアダミーは阿吽の呼吸で侯爵の部屋の準備を始める。
　ゴールディアが使う主の間はともかく、まさかこんなにすぐ誰かが来るとは思わなかったので他の部屋は整っていないのだ。

「急ぎます」
「ええ、よろしく頼むわね！」