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 こどもが三人生まれたことで、ランバルディとカーライル、アレクシオスが名付け親に手を挙げた。
 パルティアは考えるのが面倒臭くなったと、アレクシオスにお任せだ。
 ちなみにメラロニアスもおずおずと手を挙げたが、ランバルディに速攻却下されていつの間にか姿を消していた。

「紅一点の姫ちゃまは、メルティアラなんてどうだ?」

 にやにやが止まらないランバルディが、赤ん坊の柔い頬を人差し指でそっと撫でる。
やさしい刺激に目を覚ますことなく、すよすよと眠る小さな姿に皆の目もやさしい。

「メルティアラ?だめだめ、そんなの。リリカルティアなんてどうだ?愛称はリリだ!あああ可愛すぎるぞ」

 自分で自分を抱きしめ、はずかしそうにくねくねするカーライルはとても軍神と呼ばれる男には見えず、怪しい爺と成り果てている。

「いえ、一人娘の名は私が考えます!愛称がリリってすごくかわいいから・・・ローズリリアはどうかな?ねえ、パパがつける名前がいいでちゅよね?」

 既に自分の面影や色を持つ赤子に寄り、ほんのりピンクの頬を撫でる姿が、顔立ちは似ていないのにランバルディとそっくりだ。そして意外すぎるアレクシオスの赤ちゃん言葉に、パルティアは耳を疑う。

 ─うっ、何それ!でちゅねですって?それにしてもやっぱり親子ね、背格好や仕草がそっくりだわ─

 笑いを堪えながら、男三人が期待に満ちた目を向けていることに気づくと、仕方なくパルティアは心のなかで指折り数える。

 ─どれにしようかな、神様のいうとおり─

「ではローズリリアで」

 アレクシオスの考えた名前を採用した。

「よし、やった!君は今日からリリでちゅよ!」

 たった今ローズリリアになった赤ん坊を抱き上げ、アレクシオスが頬ずりする姿を見てランバルディとカーライルは悔しそうに歯を食いしばる。

「じゃ、じゃあ長男こそは私が考えた名を!」

 揃ってそう言うと

「ゴールディストはどうだ?」
「いやいや、そんなのだめだぁ!ライルロードにしよう!ライルロード・エンダライン!どうだ?良いだろう」

 ふたりの祖父が小さな赤ん坊にしがみつくように、自分の考えた名を叫ぶ。

「そうねえ、ではライルロードで」

 ランバルディは足を踏み鳴らした。

「じゃっ、今度こそ!次男の名だ」

 そう言いながら考え込むと。

「ルーザリオ」

 いつかセリアズの養子となるかもしれない子である、ランバルディが気に入った名が良いだろうとパルティアが微笑む。

「ではルーザリオにしましょう」
「よし、やった!」

 無事三人とも名付け親となり、口々に自分のつけた名が一番だと張り合っている。

「どの名も素晴らしいですわ」

 アレクシオスまで交ざっての小競り合いに、ばっさりと切って捨てた。

 賑やかになったエンダライン侯爵家では、それまではパルティアが前面に出ていたが、父親の自覚が芽生えたのかアレクシオスが張り切り始める。
 メラロニアスとともに手掛ける事業は順調に広げられ、後に観光業ではエンダライン家に肩を並べる家は無しと言われるほどになって、それらは嫡男ライルロードが継承する予定だ。
 ローズリリアはその血筋の確かさとずば抜けて豊かな財力、父親譲りの美貌により皇太子の婚約者に選ばれた。
 子供に恵まれなかったアレクシオスの兄イルドレイドとその妻はルーザリオに嫡男の座を譲って、後継者を失った妻の実家である伯爵家へ移り、そちらで養子を迎えると申し出た。まだまだ元気いっぱいのランバルディの養子に迎えられたルーザリオは領主教育に武術にと鍛えられている。

「パーチィ、これを見てくれないか?」

 アレクシオスが新しい施設のパンフレットの図案をいくつか持ってきて意見を求める。

「そうね、わかりやすいのはこれだけど、魅力的な図案はこちらだわ」
「ううん、ではこの二つのいいとこ取りをしてみるように言おう」
「そうね、それがいいと思うわ」

 最近は、事業のほとんどをアレクシオスとメラロニアスに任せ、パルティアは領地経営と分担した。
 メラロニアスはまだ誰とも結婚することなく、パルティアのこどもたちを我が子のように可愛がっている。
 特に目に入れても痛くないと公言するほど溺愛しているローズリリアはいずれ皇太子妃になるため、金はいくらあっても足りないと商売に励み、金庫を開けてはニヤニヤが止まらない。

 そのエンダライン宿泊商会は、静養施設と一般向けの宿、レジャー施設などを各地に開発、最近は様々な領主から領地に施設を作って欲しいと引く手あまただ。
 爵位の高さを鼻にかけることもなく、地元の平民を雇用して教育を施し、経済・人材とも活性化するのだから、ありがたいことこの上ない存在である。

 ランバルディがメニアの進言で恋愛小説家に書かせた、悲恋に傷ついたふたりが運命的に出逢い、支え合って幸せになる話も評判を呼び、以来ずっと仲睦まじい姿を見せていることも好印象の要因だ。
 いつしかエンダライン宿泊商会の施設のチャペルで結婚式をあげると末永く幸せになれるという都市伝説が流れるようになり、屋敷でパーティなど到底できない平民たちが殺到するようになった。
 というわけで、貴族の屋敷を模した高級感のある結婚式専用のチャペルをいくつか建ててみると、そこで式をあげることが憧れだと言われるような大人気に!
 仕掛人はもちろんメラロニアスである。
教会に目をつけられないよう、式の度に教会に依頼して神父を呼び謝礼を弾むようにすると、むしろ教会で大支度をしなくて済むのが楽だと神父たちにも喜ばれるようになっていった。

 メニアは施設を辞め、ランバルディのメイドになった。健康管理がなおざりなランバルディにバシバシと文句が言える唯一の存在で、アレクシオスは再婚するのかと思っていたが、ここは以前から変わらず友達のような関係らしい。

 エンダライン家の跡継ぎライルロードは、ある日はパルティアと、またある日はアレクシオスとともに領地経営と事業経営を学んでいる。

「パーチィ、これ見てくれ!陛下の直轄地にレジャー施設を作れと」
「まあっ」

 アレクシオスの手にある書状を奪うようにして開き、視線を滑らせると興奮したように叫んだ。

「すごいわっ!陛下が民を喜ばせるためのレジャー施設をお考えになることも、それを私たちにお任せくださることも、素晴らしいことだわ」
「私たちの利益は薄いがこれ以上の誉れはない」
「ええ、陛下のお墨付きですもの!」

 日の出の勢いのエンダライン侯爵家は、後に経済、そして人材雇用と教育における功績により、本人たちはまったく望まなかった公爵に陞爵されたのだった。
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