【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

文字の大きさ
上 下
64 / 75

64

しおりを挟む
「独身のメラルーには目の毒だったかしら?」

 相変わらずパルティアは空気を読むことはしない。

「痛っ」

 胸を押えて大袈裟に苦しむ振りをするメラロニアスに。

「どこも痛くなんてないでしょう?」
「いや心が痛いよ、酷いなパーチィは」

 いい大人が口を尖らせて抗議する様を見て、我慢出来なくなったアレクシオスが盛大に笑い出した。
 セリアズとは全然違う。エンダラインの者は家族も使用人も親戚に至るまで、少し単純かもしれないが明るく前向きな者が多い。

「家風の違いというやつかな」
「エンダラインはセリアズ家に比べて緩いのではないか?」

 お見通しという顔で、メラロニアスがにやりとした。

「良い意味で。セリアズより柔軟だ」
「性に合うかね?」
「ああ、すごくいいと思うな」
「それはいい!だいぶ遅くなったが、ようこそアレクシオス様・・・なあ、愛称ないのか?」
「そういえばお義父さまからも聞いたことがないわ」

 アレクシオスがつっと視線を反らした。

「あるのね?おっしゃって!」
「・・・ショー」
「ショー?」
「母上が、呼びづらいからとシオスを縮めてショーと呼んでいた」

 ランバルディが妻を亡くしたとき、思い出してしまうからと封印した呼名だ。
アレクシオスにとっても、甘く懐かしく切ない記憶だった。

「ではショー!」
「ちょっとメラルーってば、私より先に呼ばないで!それは妻の特権ですわ」
「いや、ともだちの特権だよ、なあショー」
「いつともだちになったのかしら」
「さっきさ」

 キーッと声を立てそうなほど歯を剥いて、パルティアがメラルーにクッションを投げると、メラロニアスも笑いながら投げ返す。

「おいおい、君たちは一体いくつになったんだ?やめたまえ」
「何をひとりだけ大人ぶってるんだ!ショーもやりたまえ!」

 わざとクッションをぶつけてくる。
こどもの頃だってこんな遊びをしたことはなかったアレクシオスは、童心とはこういうものなのかと、初めて知る楽しさに声を上げて笑った。

「はは、はははは」

 その笑い声にパルティアのほうが驚いてしまう。いつも令嬢のように楚々と笑うことが多いのに。
そして。

「貴方もそんな風に笑うことがあるのね」

 にっこりとうれしそうに、パルティアは思いっきりクッションを投げつけてやった。



 ひとしきり三人でクッションの投げ合いを楽しんだあと。

「なんてことだ!クッションにこんな遊び方があったなんて、こどもの頃は知らなかった」

 はあはあと息を切らしながらも、アレクシオスがとても楽しそうで。

「メラルー、君のお陰だ」
「ああ、ショー!楽しんでもらえてうれしいよ」
「何言っているんだか、ふたりとも」
「パーチィだって楽しそうだったぞ!」

 すっかり打ち解けていた。



「なあ、物は相談なんたが」
「なあに?」
「さっきの、リサーチのブレーンに私も加えてみてくれないか?」
「え?」
「私は海外の留学が長い。他国からの客とも話ができるし、港町のような所なら役に立てるのではないかと思うんだ」

 素直なアレクシオスは、すぐになるほどと考え込んだが、パルティアは違う。

「メラルー、暇なのね?」
「やっぱりバレたか」
「え?暇だから?」
「まあ暇は本当だ。だがさっきの話を聞いて羨ましくなったんだ。私もそうやって夢中になれる仕事を見つけたい。面白そうだし、やらせてくれないか」

 パルティアはアレクシオスとひそひそと内緒の話を交わし、目配せを一度。

「では、半年は俸給は見習いと同程度と致しますけれどよろしくて?」
「なんと!金を頂けるのか?」
「見習いが終われば、本来の俸給を払うわ。ダメならそこでさようなら」

 にっこにこで手を振って見せる。

「パーチィ、しばらく会わぬ間にいろいろ磨きがかかったな」

 また三人で笑い声をあげた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位 2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位 2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位 2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。 相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。 思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。 しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。 それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。 彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。 それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。 私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。 でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。 しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。 一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。 すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。 しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。 彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

処理中です...