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「アレクシオス、帰っていたか」
「父上、昨夜のうちに」
「まだ奴とは?」
「顔も見ておりません。こちらに着いているのでしょうか?」
「ああ、地下牢に転がしてあるぞ。
ベンベローとエンダラインが揃ったらな。なあ、アレクシオス大丈夫か?」
「はい?大丈夫ですが」

 アレクシオスは訊いた意味を理解しているだろうかと、息子の顔を見る。

「本当に?オートリアス・ベンベローと会っても大丈夫なのか?」

 なにしろアレクシオスは繊細で吹けば飛んでしまうほどの神経の持ち主なのだ。
オートリアスはパルティアにも罵声を浴びせていたので、アレクシオスを呼びつけはしたのだが心配になった。

「父上、本当に大丈夫です。パルティアは私の婚約者ですし、パルティアの共同経営者は私です。何か言われたとしても、良くて鉱山送りのベンベローには最早私を罵ることしかできないのですから、憐れに思って聞いてやればいいではありませんか」

 思いもかけない言葉だった。
繊細で弱々しく、またその容姿も相まって、どちらかといえば女々しいと言われたアレクシオスだったが。
 ランバルディの気づかぬうちに、余裕のある立ち回りができる大人の男になりつつあった。

「そうか、そうだな。いいぞアレクシオス」
「やだなぁ父上、そんな子供扱いするのはやめてくださいよ」

 すっと近寄ったと思ったら、こどものときのように頭を撫でられて、乱れた髪を手ぐしで直す。
 しかしその顔は何故かうれしそうに、コーズにもベイツにも見えた。

「閣下、エンダライン侯爵様が到着されました」
「今行く」
「では私も」

 カーライルが合流すると、もうお互いにすっかり打ち解けて以前の反目は一体なんだったのかというていである。

「カーライル!」
「おお、ランバルディ久しいな。オートリアスを捕まえたとは!先を越されて悔しいな」
「まあそう言うな。カーライルの猟犬がここまで追い詰めたのを、我が手が捕まえただけのことだ」

 アレクシオスですら、目をぱちくりする親しさである。
 まだランバルディが公爵だが、実質的には長男にすべてを任せて楽隠居を決め込んでいるこの頃、以前の公爵然とした圧は影を潜め、まるで好々爺のようになってきた。

「俗に、丸くなるというやつでございましょうかね」
「う、うむ」

 戸惑うアレクシオスとコーズが突っつきあいをしていると、また新たな報せがやって来た。ゾーナ・べンベロー侯爵である。

「一番最後にお出ましとは、いい度胸だな」

 馬車をおりると、ランバルディとカーライル、アレクシオスが居並ぶ前に、肩身を狭そうに竦めながら頭を下げた。


「この度は愚息が大変に申し訳ございませんでした」
「何について謝っているのかね?」

 わかっていて訊くランバルディは、今日はいやらしい貴族の顔をしている。

「奴を連れて来い」

 護衛騎士たちが縄を打たれたオートリアスを引きずってやって来た。

「オートリアス!」
「ち、父上!助けてください」
「おまえは馬鹿か?我が家を出奔したおまえは既に我が家の者ではない」
「え!そんな、だって迎えに来てくれたではありませんか」

 皆がしーんと静まり返ったことに、オートリアスは気づかない。

「そ、そうだ!それに父上ご存知ですか?私は騙されていたんですよ、エイリズに罠に嵌められていた」
「・・だまれ」
「ち、父上」
「黙れっ!おまえは私の言葉が理解できないのかっ?」

 オートリアスは見たことがないような父親の剣幕に、漸く黙りこくった。
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