【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

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 セリアズ公爵邸では、アレクシオスがパルティアの来訪を首を長くして待ち侘びていた。
 昨日も会ったばかりだが。
早くパルティアに会いたくてそわそわしていると、見慣れた家紋の馬車が蹄の音とともにやって来た。

「アレクシオス様!」

 窓を開け、晴れやかに笑うパルティアを眩しそうに目を細めるアレクシオス。
それを見てため息をつく侍従コーズの図は昨日とまったく同じである。

「ごきげんよう。早速ですがご紹介いたしますわ。ゾロア・ドルアド男爵こちらへ」

 ゾロアは美しい女性はたくさん知っているが、美しい男性というのは初めて見たと思った。
 色白く細面の小さな顔に大きな菫色の瞳が嵌め込まれ、切れ長に縁取る白銀の長い睫毛がふぁさふぁさと瞬きに合わせて揺れるのが儚げだ。
すっとまっすぐな高い鼻は、小鼻の形まで上品に整って。そして少し口角が上がった唇はちょうどよい大きさで、赤みの強いピンク色をしている。女性なら絶世の美女と呼ばれたかもしれない公爵令息に見惚れていると、パルティアがゴホンと咳をした。

「パルティア様、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですわ。少し乾燥しているようです」
「それはいけないな、中で喉を潤すといい」

 アレクシオスの声は、女性のような容姿に似合わずやや低い伸びのあるもので、それを聞いて、ようやく男性なのだと頭が納得する。

「ドルアド男爵も、一緒に」

 呼ばれて、慌ててふたりについていった。



「文官貴族でもないというのに、領地はどうされた?」
「はい。・・・六代前に不祥事があり、元は子爵だった爵位は降格、代替わりすることで辛うじて残されましたが、屋敷と、正確にはその周囲の森林以外の領地は召し上げられてしまったそうで。森林の木材や貴重品を手放しながら生き存えたと聞いております」

 躊躇いながらのゾロアの告白に、アレクシオスは眉を顰めた。
それに気づいたゾロアの顔が一瞬歪んだが。

「そうか・・・。其方の一族は大変な思いをされたのだな。会ったことも見たこともない先祖の不祥事が、子々孫々の未来に重大な影響を残すとは不条理な気もするが、爵位が残されているだけでも良かったのだろうか?」
「そう・・・でございますね。いっそ平民に落ちたほうが潔かったとは思いますが、森林があるから木材を売ることができ、その繋がりで大工と知り合い、私が不動産を扱えるようになった。
その、不動産の資格がすんなり取れたのも・・・実は貴族だからでございましたので、爵位があってよかったと思っております」

 アレクシオスの同情にゾロアの胸が温まり、言わなくてもよいことまで吐露してしまう。
誰も家の不祥事など話したいわけがない。聞かれたから仕方なく、実際は少しふてくさって答えていたのだが、それで見下されることもなく、言ってよかったとほっと胸を撫で下ろした。

「そうか。それなら安心した。まあ資格の経緯は聞かなかったことにしよう、パルティア様もそれで良いかな?」

 パルティアは、自分にはそんなこと話してくれなかったと少し拗ねていたが、アレクシオスに宥められて渋々頷いた。

「ではゾロアと呼んでも?施設の話を始めよう」
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